今回は漢方薬の薏苡仁湯(ヨクイニントウ)について解説します。

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薏苡仁湯の名前の由来

 

配合される7つの生薬のうち、主薬の薏苡仁をとって薏苡仁湯と命名されています。

薏苡仁湯の作用機序と特徴

 

薏苡仁湯は筋肉痛などの痛みに用いられている漢方薬で、含まれている生薬は薏苡仁(ヨクイニン)、蒼朮(ソウジュツ)、当帰(トウキ)、麻黄(マオウ)、桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、甘草(カンゾウ)です。

 

メーカーによっては蒼朮に代えて白朮を配合している場合がありますが、この漢方薬では鎮痛効果が強く水分を循環させる蒼朮の方が効果的だと言えるでしょう。

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東洋医学では漢方薬の適応を判断するため、個別の患者の状態を判断する「証」という概念を用います。

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薏苡仁湯に適応のある証は実証・寒証・湿証であり、体力が充実していてむくみやすく、冷えがあるタイプの人に向いています。

 

添付文書には以下のように記載されています。

効能又は効果
関節痛、筋肉痛

用法及び用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。

ツムラよく苡仁湯エキス顆粒(医療用)の添付文書より引用

 

漢方薬の薬理作用は科学的に解明されていないものが多く、薏苡仁湯も例外ではありません。そのため、その効果を分析するためには、配合されている生薬から考察していく必要があります。

 

薏苡仁湯に配合されている生薬は、それぞれに水分を排泄させる効果を持つため、腫れに対して効果的に作用します。

 

主薬である薏苡仁は、好中球から産生される活性酸素を除去し、PG(プロスタグランジン)E2の産生を低下させる作用を持ち、これにより余分に蓄積している水分を排泄させ、消炎・鎮痛効果を発揮します。

 

麻黄は血管を拡張して体を温め、さらに水分を発散させることによって薏苡仁の効果を顕著にし、芍薬・当帰は鎮痙鎮静作用によって痛みやこわばりを緩和します。

 

桂皮は体を温める効果を相加するために用いられ、甘草は鎮痙鎮痛作用によって、筋肉がこわばって発生している痛みを緩和し、含有されている生薬が相互に効果を発揮できるように緩衝役ともなっています。

 

あまり即効性はありませんが、慢性化した症状を穏やかに緩和させることを得意にしている漢方薬です。

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薏苡仁湯の副作用

 

薏苡仁湯では副作用の発現頻度が明確になる調査を行っていないため、その詳しい発生頻度は不明です。重大な副作用としては甘草に由来するものが報告されており、使用する際にはその兆候となる症状に注意が必要です。

 

低カリウム血症や血圧の上昇、浮腫を引き起こしてしまう偽アルドステロン症、前述の低カリウム血症の結果として筋肉の動きに悪影響を与えてしまうミオパチーの発生が報告されています。それらの可能性がある場合には、服用の中止やカリウム剤の投与などの適切な処置が必要になります。

 

その他の副作用として、麻黄の影響による不眠や心悸亢進などの自律神経系症状、悪心、食欲不振などの消化器症状の報告があります。服用中にこれらの症状が現れた場合は、かかりつけの医師、薬剤師に伝えるようにして下さい。

薏苡仁湯の飲み方と注意事項

 

薏苡仁湯は1日2~3回に分けて空腹時に服用するのが効果的です。もし服用を忘れて食事をしてしまった場合には、毎回でなければ気づいた時点で服用しても構いません。ただし、効果が増強して副作用が発現しやすくなる可能性があるため、十分に注意しましょう。

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心疾患や高血圧などの持病がある人や、甲状腺疾患、胃腸虚弱、排尿障害のある人では、麻黄に含まれるエフェドリンが体に負担をかけてしまう可能性があるため、慎重に服用する必要があります。

 

また、麻黄は以下の薬剤と併用することで交感神経興奮作用が増強する可能性があります。お薬手帳を忘れずに提出するようにして下さいね。

・MAO(モノアミン酸化酵素)阻害薬
・アドレナリンなどのカテコールアミン製剤
・テオフィリンなどのキサンチン系製剤
・チロキシンなどの甲状腺製剤
・エフェドリン含有・麻黄含有の製剤

 

他にも甘草を有効成分として含んでいるため、甘草を含んでいる漢方薬との併用はもちろん、その有効成分であるグリチルリチン酸を使用している医薬品も同様に注意する必要があります。

 

妊婦に対しての使用ですが、薏苡仁湯は添付文書では「有益性が危険性を上回る場合に使用すること」となっています。

 

ただ含まれている生薬である薏苡仁が子宮収縮を促すという報告があるため、妊婦に対して使用されるケースは少ないと考えられます。自己判断で服用することは避けるようにして下さいね。

 

それでは薏苡仁湯については以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。