今回は抗てんかん薬のデパケン、セレニカについてお話していきたいと思います。
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デパケン、セレニカとは?
それでは恒例名前の由来から。いずれも一般名はバルプロ酸ナトリウムです。まずはデパケンからいきましょう。
化学名の一つ”Sodium dipropyl acetate”の略号である”DPA”からDEPAKENE:デパケンと命名されています。DPA→DEPAはわかりますが、KENEはどこから来たのか不明です。
続いてセレニカ。脳は英語でCerebrum:セレブラム。ここからSELENICA:セレニカと命名されています。ちなみにデパケンR錠、セレニカR錠、セレニカR顆粒のRは”Retard:徐放性”に由来します。
デパケン・セレニカの作用を簡単に説明すると「神経の興奮を抑える物質GABA(ガンマアミノ酪酸)の量を増やすことでてんかん発作を予防する」になります。
それではまずてんかんについてみていきましょう。
てんかんとは?
普段、私達人間の大脳の中ではニューロンと呼ばれる神経細胞の間を電気刺激が伝わっていて、それによって人は物を考えたり行動したり、様々な生命維持機能が働いたりするようにできています。
ところが、何らかの原因でこの電気刺激が異常興奮してしまい、神経伝達がショートしたように乱れてしまうことがあります。
それによって起こる様々な症状を「てんかん」と言います。てんかん発作は繰り返し起こることも特徴の一つで、1回だけの発作では普通てんかんと診断はされません。
てんかんの原因と起こるメカニズム
てんかんが起こる原因は様々ですが、原因により「特発性てんかん」と「症候性てんかん」に分けられます。
様々な検査をしてもてんかんの原因となるような器質的な異常が見つからず、原因不明とされるてんかんのことを「突発性てんかん」と言います。こちらは遺伝的にてんかんになりやすい素質があるのではないかと考えられています。
一方、症候性てんかんは、脳梗塞や脳外傷、脳炎や低酸素状態など、何らかの原因で脳に障害が起きたり脳の一部が傷ついたりしたことが原因で起こるてんかんです。
どちらの場合でもてんかん発作が起こるメカニズムは同じであり、大脳の神経細胞を伝達する電気刺激の異常興奮が原因とされています。
てんかんの分類とそれぞれの特徴
それでは次に、てんかんの分類とその特徴についてもう少し詳しく見てみましょう。
先ほど、てんかんの原因により「特発性てんかん」と「症候性てんかん」に分けられることはお話ししましたね。これとは別に、脳の中で発作が起こる部位によって、大脳全体で一斉に興奮が始まる「全般発作」と、脳のある一部分から発作が始まる「部分発作」に分けることもできます。
てんかんの分類は、これら2つの分類方法を組み合わせて、「特発性部分発作」「特発性全般発作」「症候性部分発作」「症候性全般発作」の大きく4つに分類されています。
ちなみに、「全般発作」と「部分発作」は、実際に起こる症状によって更に細かく分類されています。
全般発作
・強直間代発作:意識が喪失し、全身の硬直(強直発作)、直後に全身のガクガクとした痙攣(間代発作)が見られる
・欠伸発作:急に数秒〜数十秒意識喪失し、すぐに回復する
・脱力発作:全身の力が抜け、崩れ落ちるように倒れる。時間は数秒と短い
・ミオクロニー発作:全身または体の一部がピクッとなる
部分発作
・単純部分発作:意識障害を伴わない
・複雑部分発作:意識障害を伴う
・二次性全般化発作:2~3秒間前兆(アウラ)として単純又は複雑部分発作から始まり、多くが強直間代発作に移行
このようにてんかんと一括りに言ってもその発作のタイプは様々で、発作の型により治療薬も変わってきます。
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デパケン・セレニカの作用機序と特徴
私達の脳は常に「興奮」と「抑制」のバランスをとっています。神経細胞の興奮に関与しているのがNa+(ナトリウムイオン)とCa2+(カルシウムイオン)。そして抑制に関与しているのがCl–(塩化物イオン)になります。
細胞内のNa+とCa2+が増えると神経細胞が興奮し、その興奮が前シナプスのシナプス小胞に伝わるとそこから興奮性神経伝達物質のグルタミン酸が放出されます。
神経細胞の末端はシナプスと呼ばれる構造を持ちますが、神経細胞同士はくっついておらず数万分の1mm程度離れており、この隙間をシナプス間隙といいます。そして情報を伝達する側のシナプスを前シナプス、情報を受け取る側のシナプスを後シナプスといいます。
前シナプスからグルタミン酸がシナプス間隙に放出され、それが後シナプスに到達しグルタミン酸受容体と結合することで情報(興奮)が伝達される仕組みになっています。
てんかんは大脳の神経細胞が過剰に興奮している状態。つまり興奮を抑えるには細胞内に入るNa+やCa2+を減らす、グルタミン酸の放出を抑える、グルタミン酸が受容体に結合するのを邪魔するといったことを行えばいいことがわかります。
一方細胞内のCl–を増やすのに関与しているのが抑制性神経伝達物質のGABA(ガンマアミノ酪酸)です。
GABAはGABA受容体に結合することで、通常は細胞の外にあるCl–が細胞内に進入します。これにより細胞内がどんどんマイナスに傾いていくことで興奮が伝わるのが抑えられるのです。
つまりGABAの量を増やしてあげれば興奮を抑えることができることがわかりますね。
ただGABAはGABAトランスアミナーゼと呼ばれる酵素により分解されてしまうことがわかっています。だったら「GABAトランスアミナーゼをどうにかできれば」と思いませんか?
そこで登場したのがデパケン・セレニカです。
デパケン・セレニカはGABAトランスアミナーゼを阻害する作用を持ちます。これによりGABAの分解が抑制され、GABAの量が増えます。結果Cl–が増えるためてんかん発作を予防することができるのです。
更にデパケン・セレニカは神経細胞のナトリウムチャネル、カルシウムチャネル(T型)を遮断する作用も持っています。チャネルはイオンの通り道。ここが遮断されることで神経細胞内にNa+とCa2+が入り込むのを抑える事ができ、興奮を抑えることができるのです。
デパケン・セレニカは全般発作の第一選択薬になります。有効血中濃度は40〜125μg/mLです。有効血中濃度を維持するために可能な限り徐放性製剤を使用します。
またデパケンは躁病および躁うつ病の躁状態の治療、片頭痛発作の発症抑制にも適応があるのも特徴の1つ。
剤形についてはデパケンには普通錠、徐放錠、細粒、シロップがあり、セレニカには徐放錠、徐放顆粒があります。
ちなみに徐放錠を服用すると白い殻錠が便から出る事があります。これはゴーストピルと呼ばれ、有効成分が放出した後の殻錠になります。成分自体はきちんと吸収されていますのでご安心下さい。
デパケン・セレニカの副作用
副作用としては眠気、吐き気などの消化器症状、体重増加が主なものになりますが、以下のような重大な副作用も報告されています。
高アンモニア血症:体がだるい、食欲がない、ふらつき、眠気など
肝機能障害:体がだるい、食欲がない、皮膚や白目が黄色になるなど
血小板減少症:体がだるい、食欲がない、あざができるなど
急性膵炎:腹痛、吐き気、発熱など
このような症状が現れた場合は病院を受診するようにしましょう。
デパケン・セレニカの相互作用
・メロペネム水和物(メロペン)
・イミペネム水和物・シラスタチンナトリウム(チエナム)
・ビアペネム(オメガシン)
・ドリペネム水和物(フィニバックス)
・テビペネム ピボキシル(オラペネム)
デパケン・セレニカには上記カルバペネム系の抗菌薬とは併用禁忌です。機序は不明ですが、併用するとバルプロ酸ナトリウムの血中濃度が低下する可能性があります。
意外と気を付けなければならないのが入院時持参薬にバルプロ酸ナトリウムがある時。医師が持参薬確認前にカルバペネム系抗菌薬を処方してしまう場合がありますから、薬剤師としてしっかりチェックする必要があります。
また抗てんかん薬は単剤治療が基本となりますが、併用するとお互いの作用を強めたり、逆に弱めたりする可能性があります(影響を受けない組み合わせもあります)。
そのため複数の抗てんかん薬を併用している時に一部を変更した場合は、変更した薬だけでなく、他の薬についても血中濃度を測定する必要があります。
てんかん治療薬の注意事項
てんかんの治療には外科治療や食事療法もありますが、現在は薬物療法が主流となっています。そしてその薬の選択は、主にてんかんの発作型や年齢などを考慮して決められています。
現在では様々なてんかん治療薬が開発され、従来の薬ではコントロールできなかった発作にも効果が期待できるようになってきました。
しかし、発作が落ち着いているからと言って、抗てんかん薬を自己判断で服用する量を変えたり中止したりしてしまうと、発作の再発はもちろん、重い副作用が出ることにもつながりかねません。
また抗てんかん薬は飲み合わせや症状によっては中止しなければならないこともあるハイリスク薬(特に安全管理が必要な医薬品)に分類されています。必ずお薬手帳を医師、薬剤師に見せるようにして下さいね。
抗てんかん薬を服用する場合は、決して自己判断をせず、医師や薬剤師の指導のもと、服用方法や服用量を守って正しく使用することが大切です。
それではデパケン・セレニカについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。