今回はカルバペネム系抗菌薬のフィニバックスについてお話していきます。

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フィニバックスとは?

 

それでは名前の由来からいきましょう。Finishは”破壊する”、Bacteriaは”バクテリア(細菌)”。細菌を破壊する薬剤とのことで両者を組み合わせFinibax:フィニバックスと命名されています。一般名はDoripenem:ドリペネムです。

 

フィニバックスの作用を簡単に説明すると「細菌の細胞壁の合成を抑えることで、細菌を死滅させる」となります。それではもう少し詳しく見ていきましょう。

フィニバックスの作用機序と特徴

 

カルバペネム系抗菌薬はβラクタム系抗菌薬に分類されます。βラクタム系抗菌薬はセフェム系の他にペニシリン系、カルバペネム系、モノバクタム系、ペネム系などがあります。いずれもβラクタム環と呼ばれる構造を有しているのが特徴です。

作用機序

作用機序の前に、まずは細胞壁について説明します。細胞壁は細菌の最も外側にある丈夫な膜で、主にペプチドグリカンという物質で構成されています。

 

そしてペプチドグリカンを合成する酵素の一つにペニシリン結合タンパク(penicillin‐binding protein:以下PBP)があります。

 

βラクタム系抗菌薬はPBPと結合しPBPの働きを失わせます。これにより細胞壁の合成を抑えることができる、つまり細菌を死滅させることができるのです。

 

ちなみに細胞壁はヒトには存在しません。そのため細菌に選択的に作用することができるのです。同様に細胞壁を持たないマイコプラズマ、細胞壁にペプチドグリカンを含まないクラミジア等に対してもβラクタム系抗菌薬は無効のため注意が必要です。

時間依存型

MIC(minimal inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)を超える時間(Time above MIC)をどれだけ長くできるかが重要となります。

 

基本的にβラクタム系は半減期(薬の血液中の濃度が最高になった後、それが半分の濃度になるまでにかかる時間)が短く、頻回に投与する必要があります。フィニバックスも半減期が約1時間のため、1回0.5gを8時間間隔で投与します(重症・難治性感染症は1日3gまで使用可)。

有効菌種

カルバペネム系はとにかく抗菌スペクトルが拡いのが特徴です。グラム陽性菌からグラム陰性菌、嫌気性菌まで幅広い抗菌スペクトルを持ちます。全部は覚えてられませんので効かない菌を覚える方が効率的です。

グラム陽性菌で効かないもの

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)。他に腸球菌。腸球菌の全てが耐性というわけではありませんが、特別な理由がない限りは腸球菌にカルバペネムを使用するのは避けます。

グラム陰性菌で効かないもの

続いてグラム陰性菌のStenotrophomonas maltophilia(ステノトロフォモナス・マルトフィリア)。ステノトロフォモナス・マルトフィリアは湿潤環境を好む細菌で、そこら辺に普通にいます。

 

ですが基本的に感染力は弱く、よほど免疫力が低下しない限り感染することは稀です。ちなみに第一選択薬はST(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)合剤です。

非定型菌

他にはマイコプラズマ、クラミジア、レジオネラなどの非定型菌。ちなみにこれらにより惹き起こされる肺炎を非定型肺炎と言います。非定型肺炎は”定型でない≒βラクタム系が効かない”肺炎と認識して下さい。

真菌

あとは真菌にも無効となります。でもこれ以外は基本的に有効なわけですから、何も考えずに”何でもかんでもフィニバックス”というのは耐性菌を誘導するため非常に危険なことがおわかり頂けるかと思います。

半減期と消失経路

腎排泄型のため腎機能障害のある患者様は排泄の遅延により血中濃度が上昇する可能性があるため1回量を減量したり、投与間隔を延長するなどして対応します。

剤形

フィニバックスの剤形は注射剤であり、バイアルとキット製剤があります。

フィニバックスの副作用と注意事項

アナフィラキシー

一番注意が必要なのはアナフィラキシー。アナフィラキシーとは短時間の間に複数のアレルギー症状が同時に出現する状態を指します。特に血圧の低下や意識障害などを伴う状態をアナフィラキシーショックといい、命に関わる場合もあります。

 

息苦しい、喉がつまる、喉がかゆい、めまい、耳鳴り、吐き気や腹痛、皮膚がかゆい、皮膚が赤くなる、蕁麻疹などが短時間に複数現れた場合は前兆である可能性が高いです。投与後早ければ5分以内、通常30分以内には症状が発現します。

 

フィニバックスは注射剤のため通常病院内で投与しますので迅速に対応可能かと思われますが、これらは覚えておきましょう。

発疹

発疹が現れることがあります。発疹は投与開始後数日経過してから現れるケースが多いです。

偽膜性大腸炎

他には抗菌薬の使用により腸内細菌のバランスが崩れ、吐き気や下痢などが現れる場合があります。中でもクロストリジウム・ディフィシルと呼ばれる嫌気性菌が異常に増える偽膜性大腸炎を起こす場合もあります。症状としては下痢、発熱、腹痛などがあります。

 

偽膜性大腸炎はクリンダマイシンなどで頻度が高いですが、最近ではどの抗菌薬でも起こりうると言われていますので注意が必要です。

出血傾向、舌炎、口内炎

またビタミンの吸収に関与する腸内細菌が減少する可能性があり、ビタミンKが欠乏すると出血しやすくなったり、ビタミンB群が欠乏すると舌炎、口内炎などが現れる場合があります。

中枢神経障害

そしてカルバペネム系で特徴的なのが痙攣や意識障害などの中枢神経系の副作用。フィニバックスはメロペンより頻度が高く、チエナムよりは頻度は低いと言われています。

 

カルバペネム系は抗てんかん薬のバルプロ酸ナトリウム(商品名:デパケンなど)を服用している方は禁忌となっています。機序は不明ですが、バルプロ酸ナトリウムの血中濃度が低下することでんかんの発作が発現する可能性があるためです。

 

それではフィニバックスについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。