今回は高血圧治療薬でアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬のミカルディスについてお話していきます。
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ミカルディスとは?
それではまず名前の由来から。
心筋疾患は英語で『myocardial disease』。心血管疾患は『cardiovascular disease』。前者の先頭二文字『my』、後者の各先頭3文字『car』『dis』を抜き出し組み合わせてmycardis:ミカルディスと命名されました。一般名はテルミサルタンです。
ミカルディスの作用を簡単にお話すると『アンジオテンシンⅡがAT1受容体に結合するのを邪魔することで血圧を下げる』となります。それでは作用機序の前に、まず高血圧についてお話していきましょう。
高血圧とは?
まず血圧についてお話します。血圧とは血(液)が血管の内側の壁を押す圧力の事です。
一時的に血管に強い圧がかかる位なら問題にはなりません。しかし過度の圧力がかかる状態が長い間放置されると血管壁が圧力に抵抗して厚くなっていきます。つまり血管内が狭くなります。
すると更に圧がかかりやすくなり、血管が痛みます。そこにコレステロールなどが加わると更に血管壁が厚くなり、ますます血管内が狭くなります。その結果血管が疲弊して弾力性がなくなることで硬くなり、またもろくなっていきます。これが動脈硬化です。
高血圧は自覚症状に乏しいため、気付いた時にはかなり動脈硬化が進行していることもあります。これがサイレントキラーと言われる所以です。
動脈硬化が進行すると血液の流れが悪くなることで血の塊、いわゆる血栓ができやすくなります。これが心臓の血管で起こると心筋梗塞、脳の血管で起こると脳梗塞を引き起こします。
またこの動脈硬化は腎臓にも悪影響を及ぼします。動脈硬化により腎臓の血管が狭くなると、体に不要な老廃物をろ過する機能が低下してしまいます。また狭くなった腎臓の血管の血液の流れが悪くなると狭くなった先の部分の血圧が低下します。
すると腎臓は『血圧が低い!早く上げなければ!』と勘違いしてしまい、レニンと呼ばれる酵素を多く出すようになります。
作用機序の部分でお話しますが、レニンは血圧を上げる原因となる物質を作り出しますので更に高血圧が進行する。本当に悪循環を作り出してしまうのです。
症状がないからと高血圧を侮ってはいけません!今までお話したような合併症を予防するためにも、血圧は適正に管理する必要があります。
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ミカルディスの作用機序と特徴
まず以下の図を見て下さい。
キニン・カリクレイン系とレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系のまとめになります。いずれも血圧や水、電解質を調節するシステムだと思って頂ければと思います。
先ほどお話したレニンですが、腎臓の傍糸球体細胞という部分から分泌されます。レニンはアンジオテンシノーゲンという物質をアンジオテンシンⅠという物資に変換する酵素です。
アンジオテンシンⅠは次にACE(アンジオテンシン変換酵素)によりアンジオテンシンⅡという物質に変換されます。キマーゼという酵素も関与しています。
そしてアンジオテンシンⅡがAT1受容体に結合すると、血管平滑筋収縮、Na再吸収、アルドステロンの分泌が促され、血圧が上昇します。
またAT2受容体に結合すると、血管平滑筋が弛緩したり、Na排泄が促されます。つまり血圧が下がります。
ここで多くの方はこう考えるかと思います。『だったらAT2受容体にだけ結合すればいいんじゃない?』
そこでミカルディスの登場です。
ミカルディスはAT1受容体に結合します。するとアンジオテンシンⅡがAT1受容体に結合できなくなります。その結果血管平滑筋の収縮などが抑えられ血圧が下がるのです。
またミカルディスの特徴として胆汁排泄というのがあげられます。ミカルディスはまず肝臓で代謝されるのですが、肝薬物代謝酵素を介さずグルクロン酸抱合により代謝されます。
続いて胆汁とともに総胆管を通り十二指腸に送られ、ほぼ全て便として排泄されます。そのため腎機能が低下している方にも減量の必要がありません。
ただ重篤な肝機能障害のある方には使用できません。胆汁は肝臓で作られるため、肝臓の機能が低下すると胆汁の分泌が低下してしまいます。海外では血中濃度が3~4.5倍上昇したという報告もありますので注意が必要です。
重篤でない肝障害のある患者に投与する場合、最大投与量は1日1回40mgと制限があります。
製造販売元はベーリンガーインゲルハイムです。ちなみに糖尿病治療薬のトラゼンタも同社から発売されている胆汁排泄型の糖尿病薬になります。興味のある方はぜひお読みになって下さい。
関連記事:トラゼンタ(リナグリプチン)の作用機序と副作用|胆汁排泄型
ミカルディスのもう一つの特徴として、PPARγ(ピーパーガンマ:ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ)と呼ばれる転写因子を活性化するという作用を持ちます。
当サイトをご覧の方は「何かの記事で読んだ気がする」という方もいらっしゃるかもしれません。そうです、糖尿病薬のアクトスの作用機序ですね。ただミカルディスの作用はアクトスよりも弱いです。
肥大化した脂肪細胞が分解され小さくなることでアディポネクチンの分泌が促進し、PAI-1、TNF-αの分泌が抑制されるのです。これにより動脈硬化の進行抑制やインスリン抵抗性の改善が期待できます。これらの言葉を詳しく知りたい方はアクトスの記事をご覧下さい。
関連記事:アクトスの作用機序と副作用である浮腫の原因|脂肪細胞やアディポネクチンとは?
またミカルディス等のARBと似た薬でレニベースなどのACE阻害薬があります。詳しくはACE阻害薬の記事でお話しますが、簡単に説明するとACEの働きを邪魔することで、アンジオテンシンⅡが作られるのを邪魔する薬です。
ACE阻害薬の特徴的な副作用で痰を伴わない咳(空咳)が有名ですが、これはARBでは基本的にみられません。これはなぜでしょうか?
ACEはキニン-カリクレイン系ではキニナーゼⅡと呼ばれ、ブラジキニンという物質を分解します。しかしACE阻害薬によりブラジキニンの分解が邪魔されるとブラジキニンの量が増えます。
ブラジキニンは気管にあるC線維と呼ばれる部分を刺激します。すると嚥下反射や咳反射に関与している物質サブスタンスPの量が増える事で咳が出るのです。ARBはACEには関与しないので空咳が出ないのですね。
ですが、この作用を逆手に取って誤嚥性肺炎の予防に用いられる事があります。高齢者の誤嚥性肺炎はサブスタンスPが減少することで嚥下反射、咳反射が鈍くなり起こると言われています。ACE阻害薬によりサブスタンスPが増えますので、予防に期待できるのです。
ミカルディスの副作用
めまい、頭痛、腎機能障害、高カリウム血症、血管(性)浮腫などが有名ドコロですね。高カリウム血症はアルドステロンの分泌が減少する事により起こります。
アルドステロンは副腎皮質で作られるホルモンで、腎臓でナトリウムの再吸収、カリウムの排泄を促す作用を持ちます。これがニューロタンにより抑えられますのでカリウムの量が増えるのです。
続いて血管(性)浮腫。これも注意が必要です。原因はハッキリしていません。症状としてはのど、舌、唇、皮膚などがいきなり腫れてしまうというものです。
特にのどが腫れると呼吸ができなくなる可能性がありますので、ちょっとでも違和感を感じたら病院を受診するようにしましょう。
ミカルディスの注意事項
ミカルディスは妊婦又は妊娠している可能性のある方には投与する事ができません。禁忌です。理由として妊婦の羊水が減少したり、胎児に奇形が生じたり最悪死亡してしまう可能性があるからです。
またミカルディスは母乳に移行する事が知られており、服用中は授乳も控えて頂く必要があります。
もう一点、糖尿病患者様には併用禁忌の薬剤があります。それはラジレス(一般名:アリスキレン)です。両者の併用により血圧が下がり過ぎたり、腎機能低下、高カリウム血症などの有害事象が出やすくなるためです。
ただ血圧を厳重に管理するために敢えて使用されるケースも有りますが、その場合は医師からきちんと説明があるかと思われます。
それではミカルディスについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。