今回は過活動膀胱治療薬で抗コリン薬の「デトルシトール」についてお話していきます。

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デトルシトールとは?

 

まずは恒例名前の由来からいきましょう。detrusorは”排尿筋”を意味します。排尿筋を”control”する薬ということで両者を組み合わせ、Detrusitol:デトルシトールと命名されました。一般名はトルテロジンです。

 

デトルシトールの作用機序を簡単にお話すると「膀胱が勝手に収縮するのを抑えることで頻尿や尿失禁などの症状を改善する」となります。それではまず過活動膀胱についてお話していきましょう。

過活動膀胱とは?

 

過活動膀胱とはその名の通り膀胱が過剰に活動すること、つまり自分の意に反して勝手に収縮する膀胱の機能障害を意味します。これにより以下の様な症状が現れます。

 

急に尿がしたくなり我慢できない”尿意切迫感”、尿意切迫感の後に尿が漏れてしまう”切迫性尿失禁”、日中トイレが近い”昼間頻尿”、夜中トイレが近い”夜間頻尿”

 

続いて蓄尿と排尿のしくみについて簡単にお話しておきます。蓄尿とは文字通り尿をためること、排尿とは尿を排出することです。これらは自律神経により支配されています。

 

脳は膀胱内に尿がある程度たまるまでは、排泄しないよう命令を出します。

 

具体的には膀胱を弛めてたくさん尿をためることができるようにし、また尿が漏れないように尿道を閉めるということを行います。これを行わなければ常に尿が出っぱなしということになります。

 

そして尿がたくさんたまってくるとまたその情報が脳に伝わります。すると脳は「そろそろ出すか」ということで、膀胱を収縮させ、更に尿道を開くことで尿が出るのです。

 

膀胱の弛緩、収縮を行っているのが膀胱排尿筋、尿道の弛緩、収縮を行っているのが尿道括約筋です。

 

交感神経から放出されるノルアドレナリンにより膀胱排尿筋は弛緩、尿道括約筋は収縮します。副交感神経から放出されるアセチルコリンにより膀胱排尿筋は収縮、尿道括約筋は弛緩します。

 

過活動膀胱は尿があまりたまっていないのに膀胱排尿筋が勝手に収縮してしまう状態のこと。だったらノルアドレナリンやアセチルコリンをどうにかできれば症状が改善できるような気がしますよね。

 

それでは今回のお薬”デトルシトール”の作用機序についてお話していきましょう。

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デトルシトールの作用機序と特徴

 

過活動膀胱は尿があまりたまっていないのに膀胱排尿筋が勝手に収縮すること、また膀胱排尿筋は副交感神経から放出されるアセチルコリンにより収縮するとお話しました。

 

アセチルコリンが膀胱排尿筋のムスカリン受容体に結合すると膀胱排尿筋が収縮するようになっています。

 

ここでデトルシトールの登場です。

 

デトルシトールはアセチルコリンがムスカリン受容体に結合するのを邪魔する作用を持ちます。具体的にはデトルシトールがムスカリン受容体に結合することでアセチルコリンが結合できなくなります。

 

これにより膀胱が勝手に収縮するのを抑えることができ、症状改善に繋がるのです。

 

デトルシトールはベシケアと違い、ムスカリン受容体の選択性はありません。しかし唾液腺と比較して膀胱排尿筋への選択性が高いという特徴があります。そのため口の乾きなどの副作用が少ないとされています。

 

脳には有害物質が簡単に入らないよう、血液脳関門(blood brain barrier、略してBBB)という血液と脳の間に関所のようなものが存在します。血液脳関門を通過する条件としては例外はありますが、脂溶性である分子量が小さい等が挙げられます。

 

デトルシトールは比較的脂溶性が低く、また分子量が大きいという特徴があり、脳へ移行しにくいのです。

 

これによりどういったメリットがあるのでしょうか。

 

認知症治療薬”アリセプト”でもお話しましたが、認知症の患者様は脳内のアセチルコリンが少ないので情報伝達がうまくいかず、記憶力の低下を引き起こすのでした。

 

抗コリン薬は文字通りアセチルコリンの働きを抑えるわけですから、脳内に入れば認知症と似たような症状が出ることは皆さん想像できるかと思います。

 

つまり脳への移行が少ないデトルシトールは抗コリン薬の副作用である認知障害を起こしにくいということが言えます。

デトルシトールの副作用

 

副作用については先ほどお話したムスカリン受容体に対する作用から発現します。以下に主な副作用を記載します。

 

まずは口の渇き(口渇)。唾液の分泌が低下することにより現れます。対策としてはうがいをしたり、ガム、あめをなめるなどで症状が軽くなることがあります。

 

続いて便秘。腸管の運動が抑制されますので便秘が出現します。適度な運動、食物繊維の摂取の他、症状が強ければ下剤を併用するケースもあります。麻痺性イレウスのある患者様などは禁忌となります。

 

そしてめまいやかすみ(霧視)などの眼の調節障害。散瞳(黒目が大きくなる)により出現します。散瞳すると眼球を満たす眼房水の排泄が抑えられ眼圧が上昇してしまいます。そのため閉塞隅角緑内障の患者様には禁忌となります。

 

尿道が閉塞して尿がほとんど出なくなる尿閉。前立腺肥大症の患者様の多くは過活動膀胱を合併します。このような方にデトルシトールを投与すると症状の悪化や尿閉を引き起こす可能性があります。

 

以上から尿閉を有する患者には禁忌となります。前立腺肥大症の方に使用する際はユリーフなどのα1遮断薬による治療を優先します。

 

市販の風邪薬などには抗コリン作用を有するものもあります。デトルシトール服用中は薬剤師にご相談下さい。

 

また期外収縮や頻脈などの心血管系の副作用が現れる場合もあり、重篤な心疾患の患者様には禁忌です。

 

他にも肝臓、腎機能障害のある患者様や肝薬物代謝酵素CYP3A4を阻害する薬剤と併用する場合は、デトルシトールの1日量を2mgに減量(常用量4mg)することになっています。

 

理由として肝臓、腎機能障害のある方ではデトルシトールの血中濃度が上昇することが報告されています。

 

またデトルシトールは肝薬物代謝酵素CYP3A4とCYP2D6で代謝されるため、この酵素を阻害するマクロライド系抗菌薬やアゾール系抗真菌薬等と併用すると同様に血中濃度上昇の可能性があります。

 

バップフォー等の従来の抗コリン薬よりも膀胱選択性が高く、口渇などの副作用発現が少ないもののゼロではありませんので注意が必要です。

 

それではデトルシトールについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。