今回は選択的セロトニン再取り込み阻害薬であるパキシルについてお話します。

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パキシルとは?

 

では恒例名前の由来からです。パキシルの一般名はパロキセチンであり、英語でparoxetineと書きます。ここからPaxil:パキシルと命名されました。

 

パキシルの作用を簡単にお話すると『脳内のセロトニンの量を増やすことで、経の伝達がスムーズになり、うつ病の症状が改善する。』となります。

 

それではまずうつ病が発症するメカニズム、モノアミン仮説と受容体仮説についてお話していきましょう。

うつ病発症のメカニズム

 

ここではモノアミン仮説と受容体仮説についてお話していきますが、仮説はこれ以外にもあると考えられており、うつ病発症の原因は未だ完全に解明されていないのが実情です。

 

ただ抗うつ薬の作用機序を説明するときにこれらの仮説を用いるのがわかりやすいので、今回はこの2つについて解説していきます。

モノアミン仮説

うつ病の患者様は脳内の神経伝達物質、セロトニンとノルアドレナリンが不足していると言われています。これらを(ドパミンを含めてまとめて)モノアミンといいます。

 

モノアミンが減少することによりやる気がでない、眠れないなどの症状が現れるという考え方をモノアミン仮説といいます。

■うつ病の代表的症状

精神症状 身体症状
やる気が出ない ぐっすり眠れない
興味がもてない、楽しめない 食欲減退、体重減少
何をするにもおっくうになる 何を食べても美味しくない
イライラする 首や肩がこる、頭痛がとれない
ボーっとして集中力が低下する 体がだるい
消えてなくなりたくなる 性欲が落ちる

うつ病の代表的な症状をまとめました。これ以外にも症状がありますし、食欲についても逆に増えて体重が増加する方もいます。

 

次に情報の伝達の仕組みをみていきましょう。

 

神経細胞の末端はシナプスと呼ばれる構造を持ちます。神経細胞同士はくっついておらず、数万分の1mm程度離れており、この隙間をシナプス間隙といいます。

 

そして情報を伝達する側のシナプスを前シナプス、情報を受け取る側のシナプスを後シナプスといいます。前シナプスからモノアミンがシナプス間隙に放出され、それが後シナプスに到達し受容体と結合することで情報が伝達されます。

 

モノアミンは情報の伝達を終えると、前シナプスにあるモノアミントランスポーターにより取り込まれ再利用されます。

 

抗うつ薬は基本的にモノアミンを増やす事で効果を発揮します。ただ服用しても効果が発現するまである程度(数週間)の時間がかかります。

 

なぜ薬によりモノアミンが増えてもすぐに効果が現れないのでしょうか?これはモノアミン仮説だけでは説明がつきません。そこでもう一つの仮説が考えられています。それが受容体仮説です。

受容体仮説

受容体は後シナプスにあるモノアミンのいわゆる受け皿です。モノアミンが減少すると情報がスムーズに伝達されなくなります。

 

そこで後シナプスは少ないモノアミンを確実に捕まえようと受容体の数を増やすという荒業を繰り出します。これをアップレギュレーションといいます。

 

ただこれにより後シナプスが過剰に刺激される事で混乱し、うつ病を発症するという説が受容体仮説です。

 

抗うつ薬の服用を続けることでモノアミンの量が増えると、後シナプスは「これだけモノアミンの量が増えればもう大丈夫だろう」と徐々に受容体の数を減らします。これをダウンレギュレーションといいます。

 

モノアミンが増える事、ダウンレギュレーションが起こる事。この2つにより情報伝達の流れが正常に近い状態になるまでには時間を要します。これが抗うつ薬の作用発現に時間がかかる理由です。

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パキシルの作用機序と特徴

 

パキシルは前シナプスにあるモノアミントランスポーター、中でもセロトニントランスポーターに選択的に作用しセロトニンの再取り込みを邪魔します。

 

結果シナプス間隙のセロトニンの量が増えることで情報の伝達がスムーズになり、うつの症状が改善するのです。

 

この作用からパキシルは選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI:SelectiveSerotonin Reuptake Inhibitor)と呼ばれます。

 

パキシルはセロトニントランスポーター以外の受容体にはほとんど作用しません。そのため三環系や四環系の抗うつ薬で見られた便秘や口渇、排尿困難などの抗コリン作用は少ないという特徴があります。

パキシルの副作用

 

まずは嘔気、嘔吐、下痢などの消化器系副作用。これは服用開始初期や増量した時にみられることがあり、セロトニン受容体が刺激されることで起こるとされています。

 

消化器症状は1~2週間程度で治まることが多いです。ただ症状が強い場合はガスモチンなどの胃腸運動改善薬を併用することもあります。我慢せずに主治医に相談しましょう。

 

続いてアクチベーション・シンドローム。これはセロトニン5HT-2受容体が刺激されることでイライラしたり、攻撃的になったり、不安、不眠といったような症状が出現するものです。

 

衝動性も強いため、このような症状が出現した場合は医療機関を受診しましょう。特に若い方(24歳以下)は注意が必要です。ソラナックスなどのベンゾジアゼピン系の抗不安薬などとの併用で症状改善が期待できます。

パキシルの相互作用

 

パキシルの飲み合わせですが、統合失調症や子供自閉症に用いられるオーラップ(一般名ピモジド)、またモノアミンを分解するモノアミン酸化酵素(以下MAO)の働きを邪魔するMAO阻害薬であるエフピー(セレギリン)とは併用禁忌です。

 

これは作用機序を考えればわかります。パキシルは肝臓でCYP2D6という酵素で代謝されるのですが、同時にCYP2D6の働きを邪魔する作用も併せ持ちます。

 

オーラップは主にCYP3A4で代謝されるのですが、CYP2D6も関与することがわかっています。そのためパキシルでオーラップの代謝が邪魔されると不整脈などの重篤な副作用が現れる可能性があります。

 

またパキシルを服用する事で脳内のセロトニンの量は増えます。更にエフピーによりセロトニンの分解が邪魔されてしまうと、異常に脳内でセロトニンの量が増えてしまいます。

 

これにより不安な気持ちになったり、イライラしたり、興奮、震え、体が固くなる、発熱、動悸などの症状が現れるセロトニン症候群が出現する可能性があります。お薬手帳は忘れずに医師、薬剤師に見せて下さいね。

パキシルの注意事項

自己判断で中止しないこと

先ほどもお話しましたが、効果発現に時間がかかるのに吐き気などの副作用は早期に出てきます。

 

ただこの記事をお読み頂いた方はご理解頂けるはずです。効果発現に時間がかかる理由、吐き気などの副作用も他のお薬で症状を軽くする事ができます。自己判断ではなく、必ず医師の指示を仰ぎましょう。

増量した時も悪化したと考えないこと

パキシルは基本少量から開始することで徐々に体を慣らすという意味合いがあります。つまり少量から開始して目立った副作用もなかったため、通常の量にしたとお考え下さい。

医師が止めていいと言うまでは継続して服用すること

これはパキシルに限った話ではありませんが、いきなり中止すると吐き気や下痢、頭痛、不眠、不安などの症状が出てくる可能性があるからです。そのため中止するときは徐々に量を減らしていきます。

余裕を持って医療機関を受診すること

最後にもう一つ注意。実際飲む時に「薬がない!」なんてことがないように余裕を持って定期的に医療機関を受診するようにしましょう。仕事やアルバイトなどで忙しい時などは病院に行くのを忘れてしまう事がありますからね。

 

それではパキシルについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。