今回は消化性潰瘍治療薬、プロトンポンプインヒビター(PPI)のネキシウムについてお話していきます。

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ネキシウムとは?

 

まずは恒例の名前の由来からいきましょう。

 

「Next Millennium= 次の1000年」Nextから”Ne”、Millenniumから”um”。この2つを合わせてnexium:ネキシウムと命名されました。次の1000年を担う薬という所でしょうか。一般名はエソメプラゾールになります。

 

ネキシウムの作用を短く説明すると『胃酸の分泌を抑えることで消化性潰瘍を改善する』となります。それではもう少し詳しく見て行きましょう。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍とは?

 

胃酸は消化管内に入ってきた細菌やウイルスなどの病原体などを退治する役割を担っています。つまり胃酸があるから多少の有害物質が入ってきても症状がある程度軽く済むわけです。

 

胃酸はpH1~2と非常に強い酸なのですが、通常胃や十二指腸の粘膜は胃酸に耐える事ができます。それは胃の粘膜から粘液やプロスタグランジンと呼ばれる物質等が分泌されており、胃全体を保護しているからです。だから食物だけ消化され、胃は守られるんですね。

 

しかしNSAIDS(非ステロイド性抗炎症薬)を服用したり、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染、ストレスなどが原因で胃酸の分泌が活発になったり、粘膜の防御機能が弱くなると粘膜が胃酸に耐えられなくなり、ただれてえぐられたような状態になってしまいます。

 

これがいわゆる胃潰瘍十二指腸潰瘍です。

 

症状としては上腹部、みぞおちの痛みを基本に食欲不振や腹部膨満感(お腹の張り)、胸焼けなどがあります。ひどくなると吐血(口から血を吐く)、下血(便に血が混じる)、更には消化管穿孔という胃や十二指腸に穴が開いてしまうこともあります。

 

消化管穿孔になると胃の内容物が、通常は無菌な腹腔内(横隔膜より下の空間)に入り込み炎症を起こしてしまう腹膜炎を起こす事があります。非常に危険で手術が必要になります。

胃酸分泌のしくみ

 

次に胃酸(塩酸)がどのように分泌されるのかみていきます。

 

胃壁細胞にはムスカリン受容体(M1)、ガストリン受容体、ヒスタミン受容体(H2)が存在し、そこには副交感神経から分泌されるアセチルコリン、胃のG細胞から分泌されるガストリン、脂肪細胞から分泌されるヒスタミンがそれぞれ結合します。

 

アセチルコリンとガストリンは肥満細胞に働きかけヒスタミンの分泌を促す作用も持っています。各々が受容体に結合すると、細胞内のH+,K+-ATPaseと呼ばれる酵素が活性化されます。

 

H+,K+-ATPaseはATPが加水分解してできたエネルギーを使い、細胞内にKを取り込み、細胞外にH+を出すという作用を持っています。そして胃壁細胞からはClも分泌されるため、前述のH+と組み合わさってHCl、いわゆる胃酸となり、胃内に分泌されるのです。

 

だったら「H+,K+-ATPaseをなんとかできれば」って思いませんか?それではネキシウムの作用機序をみていきましょう。

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ネキシウムの作用機序と特徴

 

ネキシウムはH+,K+-ATPaseに結合して働きを失わせる作用を持ちます。これにより胃酸の分泌が抑えられるため、胃内の胃酸の量が減り、粘膜の負担が軽くなるというわけです。

 

H+,K+-ATPaseは別名プロトンポンプといい、ネキシウムはこれを阻害するため、プロトンポンプインヒビター(proton pump inhibitor:略してPPI)と呼ばれます。

 

PPIには後述するオメプラールの他にタケプロン、パリエットなどが現在販売されています。

 

消化性潰瘍治療薬で胃酸分泌を抑制する薬はいくつかありますが、PPIが胃酸分泌を抑える力が一番強いです。

 

例えばムスカリン受容体(M1)、ガストリン受容体、ヒスタミン受容体(H2)を阻害しても、H+,K+-ATPaseが通常通り働いていれば胃酸は分泌されてしまいます。PPIは胃酸分泌の最終段階を阻害するため作用が強いのです。

 

ネキシウムの消失経路は肝代謝です。つまり肝機能障害のある方は血中濃度が上昇し効果が強く出てしまう可能性があります。逆に腎機能障害の方には通常用量で投与する事ができます。

 

ネキシウムの代謝には主に肝薬物代謝酵素CYP2C19(一部CYP3A4も)が関与しています。

 

例えばワーファリンはCYP2C9、CYP2C19で代謝されます。ネキシウムと併用するとネキシウムとワーファリンでCYP2C19を取り合うことになり、ワーファリンの代謝が減ることで作用が強く出てしまう可能性があります。

 

ワーファリンの代謝酵素はCYP2C9がメインとはいえ、一応注意が必要です。他にもCYP2C19で代謝される薬としては、抗不安薬のホリゾン、抗てんかん薬のアレビアチンなどがあります。こちらも同様に注意が必要です。

 

またCYP3A4、CYP2C19を阻害するボリコナゾールと併用することでネキシウムの代謝が阻害され作用が強く出てしまう可能性があります。他にも注意が必要な薬はありますが、詳細はかかりつけの医師、薬剤師にご確認下さい。

ネキシウムの副作用

 

下痢やCK(CPK)、ALT(GPT)などの肝機能データの上昇が主な副作用になります。

オメプラール(オメプラゾール)との違いとは?

 

最後にオメプラールとの違いについてお話します。ネキシウムも睡眠薬のルネスタ同様、ラセミ体であるオメプラールからS体だけを抜きだしたものです。

 

ではなぜS体を抜き出したのか?

 

先ほどネキシウムは主にCYP2C19で代謝されるとお話しました。それはラセミ体であるオメプラールも同様です。

 

CYP2C19には個人差があります。つまり同じ薬を飲んでも早く代謝される人もいれば、なかなか代謝されない人もいるという事です。これを遺伝子多型が存在する、といいます。

 

ラセミ体のうち、R体はCYP2C19に代謝されやすいがS体は代謝されにくいという性質をもちます。つまりネキシウムはオメプラールと比較して効果の個人差によるバラつきが小さく、より効果的に作用すると言えます。

 

また相互作用の部分でもお話しましたワーファリンとの併用についてですが、CYP2C19の影響がオメプラールよりも少ないネキシウムの方が望ましいと言えるでしょう。ちなみに副作用についてはオメプラールと同等であると言われています。

 

それではネキシウムについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。