今回は漢方薬の帰脾湯(キヒトウ)について解説します。

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帰脾湯の名前の由来

 

造血や精神不安、消化吸収に関わる「脾」の機能を回復させるという効能から帰脾湯と命名されています。

帰脾湯の作用機序と特徴

 

帰脾湯は貧血や不眠症に対して用いられている漢方薬で、含まれている生薬は黄耆(オウギ)、酸棗仁(サンソウニン)、人参(ニンジン)、白朮(ビャクジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、竜眼肉(リュウガンニク)、遠志(オンジ)、大棗(タイソウ)、当帰(トウキ)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)、木香(モッコウ)です。

 

東洋医学では漢方薬の適応を判断するため、個別の患者の状態を判断する「証」という概念を用います。

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帰脾湯に適応がある証は虚証、寒証、血虚、気虚であり、体力が低下していて華奢で、血色が悪くイライラするような感覚がある人に向いている漢方薬です。

 

添付文書には以下のように記載されています。

効能又は効果

虚弱体質で血色の悪い人の次の諸症
貧血、不眠症

用法及び用量

通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。

ツムラ帰脾湯エキス顆粒(医療用)の添付文書より引用

 

漢方薬の科学的な作用機序は明確に解明されていないものが多く、帰脾湯も例外ではありません。そのため、含まれている生薬から考察していく必要があります。

 

帰脾湯はもともと四君子湯をベースにしている漢方薬であるため、胃腸炎などを改善して丈夫にすることも効果に寄与しています。

 

鎮静・催眠効果がある酸棗仁、竜眼肉、遠志が加えられ、理気・健胃作用を持つ木香も加えられていることで、不眠症や不安障害に対して効果を発揮します。

 

竜眼肉と当帰には補血作用があり、黄耆に強壮作用があるため、貧血の症状を改善する効果が期待できます。

 

帰脾湯は不妊治療にも用いられている漢方薬で、血虚が原因で生理痛がつらく、子宮の状態が整っていない状態の不妊に効果的です。特に精神的な不安が大きくなっている場合には、効果的に作用することでしょう。

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帰脾湯の副作用

 

帰脾湯では副作用の発現頻度が明確になる調査を行っていないため、その詳しい発生頻度は不明です。重大な副作用としては甘草に由来するものが報告されており、使用する際にはその兆候となる症状に注意が必要です。

 

低カリウム血症や血圧の上昇、浮腫を引き起こしてしまう偽アルドステロン症、前述の低カリウム血症の結果として筋肉の動きに悪影響を与えてしまうミオパチーの発生が報告されています。それらの可能性がある場合には、服用の中止やカリウム剤の投与などの適切な処置が必要になります。

 

その他の副作用として、食欲不振や胃部不快感、悪心・下痢などの消化器症状、発疹・蕁麻疹などの過敏症状の報告があります。服用中にこれらの症状が現れた場合は、かかりつけの医師、薬剤師に伝えるようにして下さい。

帰脾湯の飲み方と注意事項

 

帰脾湯は1日2~3回に分けて空腹時に服用するのが効果的です。もし服用を忘れて食事をしてしまった場合には、効果は減弱してしまう可能性はありますが、気づいた時点で服用しても構いません。

 

帰脾湯は生薬をお湯に煮出して服用するタイプの薬でしたが、使い勝手を考慮した結果として煮出した薬液を加工し、散剤としたものです。ですので、服用する時には元の形に戻した方が効果的だと言われています。

 

あまりに熱いお湯では、薬効成分が揮発してしまうため、約60℃程度のぬるま湯で溶かして服用するのがよいでしょう。

 

有効成分の重複には注意を要するものがあり、甘草を含む漢方薬の併用には注意しなければいけません。

 

先ほどお話したように、甘草が原因の副作用が発現してしまう可能性があるため、甘草を含有している漢方薬はもちろん、甘草の有効成分として含有されているグリチルリチン酸を使用している医薬品も同様に注意する必要があります。

 

また帰脾湯を服用することにより、湿疹や皮膚炎を悪化させる可能性が報告されているため、皮膚疾患を患っている患者に使用する際は注意が必要です。

 

帰脾湯には糖アルコールの1,5-アンヒドロ-D-グルシトール(以下1,5-AG)が多く含まれています。そのため服用すると糖尿病の指標である1,5-AGが増加する報告もあります。

 

妊娠中の使用は、添付文書では「有益性が危険性を上回る場合に」となっていますが、帰脾湯は妊婦のうつ・不安症や貧血に対して用いられている漢方薬です。

 

含まれている生薬は胎児や母体に対して不利益が出るようなものではありませんので、比較的安全に使用できるものだといえるでしょう。ただし、使用の可否は自己判断せず、必ず医師の判断に従うようにして下さい。

 

それでは帰脾湯については以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。