今回は漢方薬の炙甘草湯(シャカンゾウトウ)について解説します。

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炙甘草湯の名前の由来

 

含まれる9種類の生薬(次項参照)のうち、主薬である炙甘草をとって炙甘草湯と命名されています。

炙甘草湯の作用機序と特徴

 

炙甘草湯は体力をつけて動悸や息切れを改善する目的で使用される漢方薬で、含まれている生薬は地黄(ジオウ)、麦門冬(バクモンドウ)、桂皮(ケイヒ)、炙甘草(シャカンゾウ)、大棗(タイソウ)、人参(ニンジン)、麻子仁(マシニン)、生姜(ショウキョウ)、阿膠(アキョウ)です。

 

炙甘草は甘草を炙ったものであり、基本的な効果に違いはありませんが、甘草よりも補気効果に優れるという特徴があります。

 

東洋医学では漢方薬の適応を判断するため、個別の患者の状態を判断する「証」という概念を用います。

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炙甘草湯に適応がある証は虚証、熱証、燥証、さらに気虚・血虚・水虚であり、体力が低下していて華奢で、ほてり・乾燥があるタイプの人に向いている漢方薬です。

 

添付文書には以下のように記載されています。

効能又は効果
体力がおとろえて、疲れやすいものの動悸、息切れ

用法及び用量
通常、成人1日9.0gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。

ツムラ炙甘草湯エキス顆粒(医療用)の添付文書より引用

 

漢方薬の薬理的な作用機序は解明されていないものが多く、炙甘草湯も例外ではありません。そこで、含まれている生薬から、その効果を考察していく必要があります。

 

炙甘草湯に含まれている生薬は、不足している水分を体内に呼び戻し、気・血を補って体力を回復させる効果を持ちます。

 

地黄には補血作用、人参には補気作用、麦門冬には利水作用があり、それぞれ虚証に対して効果を発揮します。また、阿膠には鎮静効果があるとされ、ストレスによる症状を緩和します。

 

炙甘草湯は不整脈にも用いられることがありますので、そちらについても簡単に触れておきます。

 

不整脈の原因は、精神的なストレスによる自律神経の不調や、血流の不全による心臓の働きの低下、体力の衰えによるものなど、さまざまなものがあります。

 

炙甘草湯は特に自律神経の不調によるものや、原因の特定できない不整脈の症状に効果的とされており、期外収縮などの予後が良好なタイプの不整脈を、穏やかに緩和する効果が期待できます。

 

ただし、原因の明白な不整脈の場合には、西洋薬を選択した方が改善できる場合が多く、急性期では炙甘草湯のみで改善することは困難ですので注意しましょう。

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炙甘草湯の副作用

 

炙甘草湯では副作用の発現頻度が明確になる調査を行っていないため、その詳しい発生頻度は不明です。重大な副作用としては甘草に由来するものが報告されており、使用する際にはその兆候となる症状に注意が必要です。

 

低カリウム血症や血圧の上昇、浮腫を引き起こしてしまう偽アルドステロン症、前述の低カリウム血症の結果として筋肉の動きに悪影響を与えてしまうミオパチーの発生が報告されています。それらの可能性がある場合には、服用の中止やカリウム剤の投与などの適切な処置が必要になります。

ミオパチー:ここでは難病である先天性ミオパチーではなく、薬剤性ミオパチーを指しています。薬剤性ミオパチーは何らかの医薬品の影響で筋肉が痩せていき、力が入りにくいという自覚症状を伴います。服用を中止することで改善することが可能です。

 

その他の副作用として、食欲不振や胃部不快感、悪心・下痢などの消化器症状、発疹・蕁麻疹などの過敏症状の報告があります。服用中にこれらの症状が現れた場合は、かかりつけの医師、薬剤師に伝えるようにして下さい。

炙甘草湯の飲み方と注意事項

 

炙甘草湯は1日2~3回に分けて空腹時に服用するのが効果的です。もし服用を忘れて食事をしてしまった場合には、効果は減弱してしまう可能性はありますが、気づいた時点で服用しても構いません。

 

炙甘草湯は生薬をお湯に煮出して服用するタイプの薬でしたが、使い勝手を考慮した結果として煮出した薬液を加工し、散剤としたものです。そのため、服用する時には元の形に戻した方が効果的だと言われています。

 

あまりに熱いお湯では、薬効成分が揮発してしまうため、約60℃程度のぬるま湯で溶かして服用するのがよいでしょう。

 

有効成分の重複には注意を要するものがあり、甘草を含む漢方薬の併用には注意しなければいけません。

 

前述している甘草による副作用が発現してしまう可能性があるため、甘草を含有している漢方薬はもちろん、甘草の有効成分として含有されているグリチルリチン酸を使用している医薬品も同様に注意する必要があり、併用注意となっています。

 

状態を悪化してしまう危険性があるため、アルドステロン症の患者、ミオパチーの患者、低カリウム血症の患者には禁忌となっています。また、消化器症状が現れる可能性があるため、胃腸虚弱の患者や、悪心・嘔吐のある患者には慎重に使用することが求められます。

 

妊娠中の使用は、添付文書では有益性が危険性を上回る場合となっており、含まれている麻子仁の作用が強く発揮されてしまう場合があるため、慎重に使用する必要があります。そのため自己判断ではなく、必ず医師の判断のもとで服用するようにして下さい。

 

それでは炙甘草湯については以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。