今回は漢方薬の釣藤散について解説します。

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釣藤散の名前の由来

 

構成される11種類の生薬(事項参照)のうち、主薬である釣藤鈎(チョウトウコウ)から釣藤散と命名されています。

釣藤散の作用機序と特徴

 

釣藤散は頭痛やめまいなどに使用される漢方薬です。

 

含まれている生薬は石膏(セッコウ)、釣藤鈎(チョウトウコウ)、陳皮(チンピ)、麦門冬(バクモンドウ)、半夏(ハンゲ)、茯苓(ブクリョウ)、菊鹿(キクカ)、人参(ニンジン)、防風(ボウフウ)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)です。

 

漢方薬の適応を判断するうえでは、必ずその人の証を確認することが求められます。釣藤散の適応となる証は陽証・虚証・熱証で、暑がりで赤ら顔ですが、どちらかといえば華奢で体力は低下気味な人に適している漢方薬です。

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添付文書には以下のように記載されています。

効能又は効果
慢性に続く頭痛で中年以降、または高血圧の傾向のあるもの

用法及び用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する

ツムラ釣藤散エキス顆粒(医療用)の添付文書より引用

 

釣藤散の科学的な作用機序は、明確には解明されていません。ただ現在ある程度わかっているものとしては、まず認知症に対する効果が挙げられます。

 

アルツハイマー型認知症では、脳内のアセチルコリン活性を促進することが、その症状の改善に効果的であることが判明しています。

 

釣藤散はムスカリン性M1受容体を介してコリン作動性神経を活性化させることにより、直接アセチルコリン様の作用を発揮し、学習記憶障害の改善効果を発揮します。

 

さらに、脳内におけるNMDA受容体に拮抗する作用も持っており、それによっても学習記憶障害の抑制作用を発揮します。

 

NMDA受容体が活性化すると脳内に過剰のカルシウムイオンが放出され、それによって脳細部が死んでしまうということが起きます。

 

釣藤散は過剰なNMDA受容体の活性化を抑制することで細胞毒性を軽減し、脳細胞の細胞死を抑制することで学習記憶障害の進行を抑制するのです。

 

シナプスの再生促進作用や神経保護作用も併せて発揮されていると考えられるのですが、それがどのような経路を通って作用しているのかは、現在も不明のままです。

 

また、これらの脳機能障害改善作用は、うつ病や自律神経失調症の治療にも効果を発揮しています。

 

うつ病患者ではNMDA受容体によって活性化するグルタミン酸の脳内濃度が高いということが判明しており、釣藤散にはグルタミン酸濃度を低下させる作用があります。

 

セロトニンやドパミンによる神経伝達を活性化することも判明しており、それらが複合してうつ病などの症状を改善し、抗不安作用を発揮すると考えられています。

 

また、作用機序は不明ですが、メニエール病に伴うめまい・耳鳴りに対して効果を発揮した例も報告されています。

 

メコバラミンによる治療でも効果が出なかった症例群に投与した結果、その改善効果が示されました。肩こりや血管収縮に対する作用が関与している可能性が高いですが、こちらも明確にはわかっていません。

 

釣藤散は様々な効果が期待できる漢方薬でありながら、その作用機序は未だに不明な部分が多く、更なる研究の進展が待たれます。

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釣藤散の副作用

 

釣藤散では副作用の発現頻度が明確になる調査を行っていないため、その詳しい発生頻度は不明です。

 

ただ重大な副作用として甘草に由来するものが報告されており、使用する際にはその兆候となる症状に注意が必要です。

 

低カリウム血症や血圧の上昇、浮腫を引き起こしてしまう偽アルドステロン症、前述の低カリウム血症の結果として筋肉の動きに悪影響を与えてしまうミオパチーの発生が報告されています。

 

それらの可能性がある場合には、服用の中止やカリウム剤の投与などの適切な処置が必要になります。

 

その他にも発疹、蕁麻疹などの過敏症状、食欲不振、下痢・便秘などの消化器症状が主な副作用として報告されています。

 

服用中にこれらの症状が現れた場合は、医師、薬剤師に伝えるようにして下さいね。

釣藤散の飲み方と注意事項

 

釣藤散は生薬をお湯に煮出して服用するタイプの薬でしたが、使い勝手を考慮した結果として煮出した薬液を加工し、散剤としたものです。

 

そのため、服用する時には元の形に戻した方が効果的だと言われています。あまりに熱いお湯では、薬効成分が揮発してしまうため、約60℃程度のぬるま湯で溶かして服用するのがよいでしょう。

 

また、甘草を含有しているため、その重複に注意して服用する必要があります。漢方薬の併用などにより過量に甘草を摂取してしまうことで、前項で紹介している重大な副作用が誘発されやすくなってしまう可能性があるため、注意が必要です。

 

妊婦、産婦、授乳婦等への投与
妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。

ツムラ釣藤散エキス顆粒(医療用)の添付文書より引用

妊娠中の使用に関しては、添付文書では安全性が確立していないために有益性がある場合に投与となっていますが、妊娠中の高血圧などに使用されることもある漢方薬です。

 

日本臨床漢方医会にも記載されている漢方薬であり、比較的安全に使用できるものと言えるでしょう。ただし自己判断で中止や服用を決めるのではなく、必ず医師の指示を受けるようにして下さいね。

 

それでは釣藤散については以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。