今回は漢方薬の防已黄耆湯について解説します。
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防已黄耆湯の名前の由来
配合されている6種類の生薬のうち、主薬である防已と黄耆の名をとって組み合わせ、防已黄耆湯と命名されています。
防已黄耆湯の作用機序と特徴
防己黄耆湯は黄耆(オウギ)、防已(ボウイ)、蒼朮(ソウジュツ)、大棗(タイソウ)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)を含む漢方薬であり、主に肥満症やむくみに対して用いられています。
発売メーカーによっては発汗作用のある蒼朮の代わりに止汗作用の白朮が用いられていることがありますが、本来の効果を求めるのなら蒼朮が効果的だと言えるでしょう。ちなみにツムラの製剤は蒼朮が配合されています。
使用に適している証は虚証・寒証・水毒であり、むくみやすく寒がりで、体力が低下しているタイプの人に向いている漢方薬です。
添付文書には以下のように記載されています。
効能又は効果
色白で筋肉軟らかく水ぶとりの体質で疲れやすく、汗が多く、小便不利で下肢に浮腫をきたし、膝関節の腫痛するものの次の諸症
腎炎、ネフローゼ、妊娠腎、陰嚢水腫、肥満症、関節炎、癰、せつ、筋炎、浮腫、皮膚病、多汗症、月経不順用法及び用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。ツムラ防已黄耆湯エキス顆粒(医療用)の添付文書より引用
防已黄耆湯の科学的な薬理作用はいまだにはっきりとは解明されておらず、具体的にどのように作用しているのかは不明です。
ただ、それぞれの生薬が滋養強壮作用や利水作用、鎮痛・抗炎症作用を持つことから、これらが複合的に作用することで関節痛やむくみに対して効果を発揮していると考えられています。
判明しているのは、腎臓内のTXA2の産生を減らしPGI2の産生を増やすことで、腎臓の血流量を増加させ、尿たんぱくの排泄を抑制し、腎保護作用を発揮していること。
・TXA2:トロンボキサンA2。血小板凝集作用、血管・気管支収縮作用を持つ。大量に産生されることでネフローゼの原因となっている。
・PGI2:プロスタグランジンI2。血管拡張作用、抗血小板作用を持ち、TXA2とはほぼ反対の作用を発揮する。
しかしその他の作用は未だに研究中です。ただ一部の研究では服用によってTNF-αの産生増加が確認され、それによって脂肪細胞の細胞分裂が抑制されたという報告があります。
通常であればTNF-αが増加することで、他の細胞のアポトーシスや障害が誘導されることになりますが、そのような結果にはならなかったようです。
TNF-αは生体に対して有害な作用も持っており、これが一概に防己黄耆湯の作用機序の一つであると考えることは難しいでしょう。今後の更なる研究が待たれます。
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防已黄耆湯の副作用
防己黄耆湯では副作用が明確になる調査は行われていません。そのため、その発現頻度に関するデータも存在しておらず、どのくらいの頻度で起こるのかが不明です。
重大な副作用として報告されているのは、甘草に由来しているものであり、その前駆症状には注意が必要です。
低カリウム血症や血圧の上昇、浮腫を引き起こしてしまう偽アルドステロン症や、前述の低カリウム血症の結果として筋肉の動きに悪影響を与えてしまうミオパチー、検査値異常や黄疸、強い倦怠感を引き起こしてしまう肝機能障害の発生が報告されています。
また、間質性肺炎の報告もあるため、呼吸困難や咳、発熱や肺音の異常などが出た場合には服薬を中止しなければいけません。適切な検査を行い、炎症を抑えるためのステロイド剤の投与などの処置が必要になります。
他にも発疹、発赤、掻痒などの過敏症状が報告されています。服用中にこれらの症状が現れた場合は、医師、薬剤師に伝えるようにして下さいね。
防已黄耆湯の飲み方と注意事項
防己黄耆湯はもともと液剤だったものを抽出して散剤にしたものです。ですので、服用時にはそれに即してぬるめのお湯で服用したほうが効果的だと言われています。
約60度のお湯が最も効果的であり、あまりに熱いお湯では有効成分が揮発してしまうので注意しなければいけません。
有効成分の重複には注意を要するものがあり、甘草を含む漢方薬には注意しなければいけません。この生薬に有効成分として含有されているグリチルリチン酸を使用している医薬品も同様です。血清カリウム値の変動や血圧変動を起こす可能性があるので注意しましょう。
妊婦、産婦、授乳婦等への投与
妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
ツムラ防已黄耆湯エキス顆粒(医療用)の添付文書より引用
添付文書では妊婦の使用は有益性投与(上記)とされていますが、防己黄耆湯は日本臨床漢方医会でも妊娠高血圧症候群の改善などに使用されるとあります。ただし自己判断で中止や服用を決めるのではなく、必ず医師の指示を受けるようにして下さい。
それでは防已黄耆湯については以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。