今回は抗インフルエンザ薬の特徴と使い分けについてお話していきます。

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抗インフルエンザ薬の名前の由来

それでは恒例名前の由来から。まずはタミフルからいきましょう。

 

タミフル”TAMIFLU”と表記されますが、これは原薬名のオセルタミビル(Oseltamivirから”tami”、インフルエンザ(Influenza)から”flu”を抜き出し組み合わせ命名されました。一般名はオセルタミビルです。

 

続いてリレンザ。リレンザ”RELENZA”と表記されますがrelieveとinfluenzaを組み合わせたものです。relieveは緩和する、軽減する、解放するなどの意味を持ちます。これは作用そのまんまですね。一般名はザナミビルです。

 

続いてイナビル。後ほどお話しますが、イナビルは40mgを単回吸入する薬です。単回→1回吸入投与、この1回の1をアルファベットの「I」とします。

 

そして作用する酵素ノイラミニダーゼ(NA)阻害剤の「NA」、ウイルス(Virus)の「VIR」3つを組み合わせてINAVIR:イナビルと命名されました。一般名はラニナミビルです。

 

最後にラピアクタ。こちらはRapid(敏捷な、素速い)とAction(作用)を組み合わせてRAPIACTA:ラピアクタと命名されました。一般名はペラミビルになります。

抗インフルエンザ薬の作用機序と特徴

現在発売されている主な抗インフルエンザ薬にはシンメトレル、タミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタがあります。

 

平成30年3月14日に抗インフルエンザ薬の新薬「ゾフルーザ」が販売されました。今後はゾフルーザがメインで処方されることが予想されます。

 

こちらは別記事で詳しく解説しています。

>>ゾフルーザ錠の効能効果・作用機序・副作用・他の抗インフルエンザ薬との違い

 

シンメトレル(アマンタジン)ですが、A型にしか効かない上耐性化も進んでおり、処方される機会が少ないと思いますので今回は割愛します。シンメトレル以外はA型、B型(耐性がなければ)両方に効きます。

 

さて、インフルエンザウイルスは自身のヘマグルチニンと細胞膜表面の糖シアル酸の結合により細胞内に入り込み増殖します。

 

その後細胞膜まで移動し、シアル酸とヘマグルチニンが再び結合。最後にノイラミニダーゼという酵素がそれを切り離して細胞外に出て行き、次の細胞に侵入するというものでした。

 

だったらノイラミニダーゼを阻害することができれば、増殖した細胞が外に出られなくなります。つまりそれ以上感染が拡大しないことになります。

 

タミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタはノイラミニダーゼの働きを邪魔する作用を持ちます。その結果ウイルスは細胞表面で死滅します。

 

作用はあくまで”ウイルスをそれ以上増殖させない”であり、”症状の悪化を防ぐ”というものです。ウイルス自体を直接死滅させるものではありません。

 

インフルエンザウイルスの量は2、3日でピークに達し、その後は減っていきます。48時間以内の服用とされているのはこのためです。

 

ウイルスが増えきった状態で抗インフルエンザ薬を服用しても意味が無いことがお分かり頂けると思います。

 

また、上記とは異なる作用機序を持つアビガン(一般名:ファビピラビル)という薬もあります。

 

アビガンの作用機序はRNAポリメラーゼ阻害です。RNAポリメラーゼはウイルス増殖時に必須の酵素。その酵素を邪魔する作用を持ちます。

 

ただアビガンは新型または再興型(過去に世界的流行した)インフルエンザウイルス感染症にのみ適応があり、かつ既存の抗インフルエンザ薬が無効(または効果不十分)な場合のみ処方可能となっています。

 

また動物実験で催奇形性(胎児に奇形が生じる)が報告されており、妊婦には使用できません。

 

アフリカで猛威を振るっているエボラ出血熱の原因ウイルス”エボラウイルス”とインフルエンザウイルスは構造が似ているため、アビガンはエボラ出血熱に効く可能性があるとして注目されています。

 

ただアビガンは国内でも製造販売承認は取得してるものの、流通はしていません。

 

新型インフルエンザが流行し、現在発売されている抗インフルエンザ薬が無効な場合等に、厚生労働省が製造許可してはじめて製造可能な薬となっています。

 

そのため皆さんが実際目にする機会はほとんどないかもしれませんね。

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抗インフルエンザ薬の用法・用量

続いて用法・用量についてみていきます。先程お話したように、いずれもインフルエンザ症状が現れてから48時間以内に投与を開始します。

タミフルカプセル75

タミフルの効能効果・用法用量をみる

用法及び用量

1. 治療に用いる場合
通常、成人及び体重37.5kg以上の小児にはオセルタミビルとして1回75mgを1日2回、5日間経口投与する。

2. 予防に用いる場合
(1) 成人
通常、オセルタミビルとして1回75mgを1日1回、7~10日間経口投与する。
(2) 体重37.5kg以上の小児
通常、オセルタミビルとして1回75mgを1日1回、10日間経口投与する。

用法及び用量に関連する使用上の注意

3.成人の腎機能障害患者では、血漿中濃度が増加するので、腎機能の低下に応じて、次のような投与法を目安とすること(外国人における成績による)。小児等の腎機能障害患者での使用経験はない。
クレアチニンクリアランス(mL/分):Ccr>30
投与法(治療):1回75mg 1日2回
クレアチニンクリアランス(mL/分):Ccr>30
投与法(予防):1回75mg 1日1回
クレアチニンクリアランス(mL/分):10<Ccr≦30
投与法(治療):1回75mg 1日1回
クレアチニンクリアランス(mL/分):10<Ccr≦30
投与法(予防):1回75mg 隔日
クレアチニンクリアランス(mL/分):Ccr≦10
投与法:推奨用量は確立していない
Ccr:クレアチニンクリアランス

タミフルは腎排泄型の薬のため、腎機能障害のある方にはクレアチニンクリアランスに応じて減量したり投与間隔を延長して対応します。

クレアチニンクリアランス:腎機能を評価する指標の1つ。

タミフルドライシロップ3%

タミフルの効能効果・用法用量をみる

用法及び用量

1. 治療に用いる場合
(1) 成人
通常、オセルタミビルとして1回75mgを1日2回、5日間、用時懸濁して経口投与する。
(2) 小児
通常、オセルタミビルとして以下の1回用量を1日2回、5日間、用時懸濁して経口投与する。ただし、1回最高用量はオセルタミビルとして75mgとする。
幼小児の場合
2mg/kg(ドライシロップ剤として66.7mg/kg)
新生児、乳児の場合
3mg/kg(ドライシロップ剤として100mg/kg)

2. 予防に用いる場合
(1) 成人
通常、オセルタミビルとして1回75mgを1日1回、7~10日間、用時懸濁して経口投与する。
(2) 小児
通常、オセルタミビルとして以下の1回用量を1日1回、10日間、用時懸濁して経口投与する。ただし、1回最高用量はオセルタミビルとして75mgとする。
幼小児の場合
2mg/kg(ドライシロップ剤として66.7mg/kg)

用法及び用量に関連する使用上の注意

3.成人の腎機能障害患者では、血漿中濃度が増加するので、腎機能の低下に応じて、次のような投与法を目安とすること(外国人における成績による)。小児等の腎機能障害患者での使用経験はない。
クレアチニンクリアランス(mL/分):Ccr>30
投与法(治療):1回75mg 1日2回
クレアチニンクリアランス(mL/分):Ccr>30
投与法(予防):1回75mg 1日1回
クレアチニンクリアランス(mL/分):10<Ccr≦30
投与法(治療):1回75mg 1日1回
クレアチニンクリアランス(mL/分):10<Ccr≦30
投与法(予防):1回75mg 隔日又は1回30mg 1日1回
クレアチニンクリアランス(mL/分):Ccr≦10
投与法:推奨用量は確立していない
Ccr:クレアチニンクリアランス

<参考>
国外では、幼小児における本剤のクリアランス能を考慮し、以下に示す体重群別固定用量が用いられている(「小児における薬物動態」の項参照)。
体重:15kg以下
固定用量※:1回30mg
体重:15kgを超え23kg以下
固定用量※:1回45mg
体重:23kgを超え40kg以下
固定用量※:1回60mg
体重:40kgを超える
固定用量※:1回75mg
※用量(mg)はオセルタミビルとして治療に用いる場合は1日2回、予防に用いる場合は1日1回

今まではいずれの抗インフルエンザ薬も1歳未満の適応がありませんでしたが、平成28年11月24日公知申請により、タミフルドライシロップ3%が1歳未満に対して処方可能となっています。

 

ただ、タミフルドライシロップは苦味があるため、どうしても服用を嫌がる子がいます。

 

人それぞれ好みはありますが、一般的に以下のような物と混ぜると飲みやすく、また飲みづらくなる傾向があります。参考にしてみてくださいね。

相性が良い物(飲みやすくなりやすい)

チョコアイス、ヨーグルト、イチゴヨーグルト、オレンジジュース、スポーツドリンク、ココアなど

相性が悪い物(飲みづらくなりやすい)

バニラアイス、乳酸菌飲料(ヤクルト等)、アップルジュースなど

リレンザ

リレンザの効能効果・用法用量をみる

用法及び用量

1. 治療に用いる場合
通常、成人及び小児には、ザナミビルとして1回10mg(5mgブリスターを2ブリスター)を、1日2回、5日間、専用の吸入器を用いて吸入する。

2. 予防に用いる場合
通常、成人及び小児には、ザナミビルとして1回10mg(5mgブリスターを2ブリスター)を、1日1回、10日間、専用の吸入器を用いて吸入する。

リレンザは専用の吸入器を用いて服用します。

リレンザは、国内における腎機能障害患者を対象とした試験が行われておらず、添付文書には投与量の調節について記載がありません。

 

ただ海外において、リレンザは体内への吸収量がわずかであると推定され、また腎機能障害のある成人においても、特有の有害事象の発現が認められなかったことから、投与量の調節は不要とされています。

 

またリレンザには添加物として乳糖が含まれています。リレンザとの因果関係が否定できないアナフィラキシーの報告があったため、乳製品へのアレルギーがある患者に投与する際は注意が必要です。

 

これは処方される側としても知っておきましょう。

イナビル吸入粉末剤20mg

イナビルの効能効果・用法用量をみる

用法及び用量
1. 治療に用いる場合
成人:
ラニナミビルオクタン酸エステルとして40mgを単回吸入投与する。
小児:
10歳未満の場合、ラニナミビルオクタン酸エステルとして20mgを単回吸入投与する。
10歳以上の場合、ラニナミビルオクタン酸エステルとして40mgを単回吸入投与する。

2. 予防に用いる場合
成人:ラニナミビルオクタン酸エステルとして40mgを単回吸入投与する。また、20mgを1日1回、2日間吸入投与することもできる。
小児:
10歳未満の場合、ラニナミビルオクタン酸エステルとして20mgを単回吸入投与する。
10歳以上の場合、ラニナミビルオクタン酸エステルとして40mgを単回吸入投与する。また、20mgを1日1回、2日間吸入投与することもできる。

イナビルもリレンザ同様吸入薬ですが、専用の吸入器は不要であり、1つの吸入器にラニナミビルが20mg充填されています。1回使い切りタイプなのも特徴の1つです。

 

例えば成人の場合、2個吸入したらそれで治療完了です。そのため、院外処方で調剤薬局で吸入するよう指示を出す医師も多いですね。

 

イナビルは平成28年9月、10歳未満の小児の予防投与の適応が追加になりました。

 

同時に成人・10歳以上の小児の予防投与についても、以前は「1回20mgを1日1回 2日間」のみだったのですが、「1回40mgを1日1回(治療と同じ)」でもOKになっています。

 

さて、イナビルもリレンザ同様、添加物に乳糖を使用しているため、乳製品へのアレルギーがある患者に投与する際は注意が必要となります。

 

イナビルの腎機能障害のある患者に対しての仕様ですが、添付文書に以下のような記載があります。

重要な基本的注意
3.高齢者、基礎疾患(糖尿病を含む慢性代謝性疾患、慢性腎機能障害、慢性心疾患)を有する患者、あるいは免疫低下状態の患者等では本剤の使用経験が少ない。これらの患者へ投与する場合には、患者の状態を十分に観察しながら投与すること。

イナビルは上記のような患者に対して使用する場合も、特に用量調節は不要です。

 

ただイナビル吸入後に症状が悪化していないか、副作用が発現していないか経過観察する必要があります。

ラピアクタ

ラピアクタの効能効果・用法用量をみる

用法・用量
成人:通常,ペラミビルとして300mgを15分以上かけて単回点滴静注する。
合併症等により重症化するおそれのある患者には,1日1回600mgを15分以上かけて単回点滴静注するが,症状に応じて連日反復投与できる。
なお,年齢,症状に応じて適宜減量する。
小児:通常,ペラミビルとして1日1回10mg/kgを15分以上かけて単回点滴静注するが,症状に応じて連日反復投与できる。投与量の上限は,1回量として600mgまでとする。

用法・用量に関連する使用上の注意

3. 腎機能障害のある患者では,高い血漿中濃度が持続するおそれがあるので,腎機能の低下に応じて,下表を目安に投与量を調節すること。本剤を反復投与する場合も,下表を目安とすること。小児等の腎機能障害者での使用経験はない。

ラピアクタ腎機能障害時の投与量

ラピアクタは腎排泄型のため、クレアチニンクリアランスに応じて1回量を減量する必要があります。剤形は注射薬であり、内服や吸入が困難な患者に対しても使用できるのはメリットです。

 

ラピアクタも1回の投与で治療完了です。反復投与するケースもありますが、全国的にみても少なく、300mgの単回投与がメインですね。

抗インフルエンザ薬の予防投与における注意事項

重要な事を1点。予防投与の場合はいかなる場合も保険適応外(自費)となります。

 

抗インフルエンザ薬の中で、ラピアクタのみ予防投与の有効性、安全性は確立していないとの事で、予防投与には使用することができません。

 

また勘違いされている方がたまにいらっしゃいますが、予防投与は服用している間だけ効果があります。

 

ワクチンの代わりにはなりませんのでご注意下さい。ただしイナビルは1日又は2日間の服用で10日間有効とされています。

関連記事インフルエンザワクチンのまとめ|持続効果、妊婦への接種の是非、副反応等について

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抗インフルエンザ薬の使い分け

抗インフルエンザ薬の作用機序はノイラミニダーゼ阻害という事で変わりはありません。よってこれらを併用することは原則ありません。併用により効果が低下するという報告もあります。

 

また効果の方も細かな違いがありますが、解熱効果については優位な差はないと言われています。その代わり剤形(経口か吸入か点滴か)が異なります。

 

それぞれの薬は場合により使い分けます。外来治療が可能な方(受診した後帰宅できる方)であればタミフル、リレンザ、イナビルのいずれかが、また経口、吸入が難しい方にはラピアクタが選択されるかと思います。

 

今後は経口投与が可能な患者であればゾフルーザが第一選択になるでしょう。ラピアクタはあくまでセカンドチョイスです。

 

吸入できるのであればイナビルがオススメです。病院や調剤薬局で1回吸入すればそれで治療終了だからです。ただし吸入がきちんと行えるというのが大前提となります。

 

服用すれば(飲み込みさえすれば)確実に効果を発揮するタミフルと違い、イナビルはきちんと吸入できず容器内に薬が残ってしまうケースも報告されています。

 

その場合は十分な効果が得られませんので、対象患者様は慎重に選別する必要があります。

 

ちなみにイナビルは5歳未満ですと吸入が難しいケースもあります。処方時は吸入確認用のデバイスを使用して吸入の可否を判断します。

 

次に肺炎などを合併している重篤(重症)なケース。この時は呼吸状態も悪化しており、吸入する事自体が難しいため、リレンザ、イナビルは避けることが望ましいでしょう。

 

肺炎治療に対し抗菌薬を点滴したり、輸液による栄養管理を行っている可能性もあります。この場合は患者様の状態により、タミフルorラピアクタでしょう。

 

タミフルは世界で最も多く使用されていますので、重症例での使用経験はラピアクタよりも多く、可能であればタミフルが望ましいでしょう。経口投与が困難であればラピアクタということになるかと思います。

抗インフルエンザ薬の副作用について

副作用はいずれも下痢、悪心(吐き気)、嘔吐などの消化器系の副作用がメインであり、安全性が高いです。

 

やはり特に注意が必要なのは突然興奮したりする異常行動でしょう。

 

この異常行動ですが、抗インフルエンザ薬を使用していなくても、解熱剤だけの使用でも現れることがあります。インフルエンザ自体が引き起こすとも言われています。

 

ただ異常行動は上記抗インフルエンザ薬4剤全てで報告されており、タミフルがその中で一番多いです。そのためタミフルは10歳以上の未成年の患者には原則使用しないこととされています。

 

未だ因果関係ははっきりしないものの、特に小児や未成年は少なくとも2日間は患者を1人にさせないことが重要です。親御さんはお子さんから目を離さないようにして下さいね。

 

それでは抗インフルエンザ薬については以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

インフルエンザに対して処方される薬には漢方薬の麻黄湯もあります。興味がある方は以下の記事もどうぞ。

関連記事麻黄湯の特徴~飲み方や副作用、インフルエンザに有効な理由

 

・出典
タミフルカプセル75 添付文書・インタビューフォーム
リレンザ 添付文書・インタビューフォーム
イナビル吸入粉末剤20mg 添付文書・インタビューフォーム
ラピアクタ点滴静注液バッグ300mg/ラピアクタ点滴静注液バイアル150mg 添付文書・インタビューフォーム