今回は抗インフルエンザ薬の新薬「ゾフルーザ」について解説します。3月14日に薬価収載が決まりました。

 

ただこのゾフルーザ、一部で夢の薬のような認識をされている方もいるようです。誤解を解くためにも最後まで読んで頂ければ幸いです。

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ゾフルーザとは?

ゾフルーザは、A型およびB型のインフルエンザ感染症に適応を持つ内服薬です。世界に先駆けて日本で発売された医薬品であり、「先駆け審査指定制度」において初めての審議対象医薬品となったものです。

先駆け審査指定制度の補足

先駆け審査指定制度では、既存薬と異なる作用機序で、生命に重大な影響を与える疾病を対象にした医薬品であり、既存の治療よりも大幅な有効性の改善が認められ、世界に先駆けて日本での発売がされる医薬品(同時発売を含む)が対象となっています。

それでは名前の由来です。ゾフルーザはXOFLUZAと表記されますが、これはinfluenza:インフルエンザをXO(ノックアウト)するということで、両者の下線部を組み合わせて命名されています。一般名はバロキサビル マルボキシルです。

ゾフルーザの薬価は?

薬価も決まりましたね。

薬品名 単位 薬 価
ゾフルーザ錠10mg 1,507.50
ゾフルーザ錠20mg 2,394.50

通常成人は20mgを2錠服用しますので、4789円。体重80kg以上の場合は20mgを4錠服用しますので、9578円となります。

ゾフルーザの作用機序と特徴

ゾフルーザの作用機序は既存の医薬品とは異なる部位を目標にされており、キャップ依存性エンドヌクレアーゼを阻害することで効果を発揮します。

 

通常ウイルスはDNAのみ、もしくはRNAのみをもつ生命体であり、インフルエンザウイルスはRNAのみを持つ生命体です。

 

インフルエンザウイルスが増殖するためには、宿主の細胞にある複製装置を乗っ取って、自分自身のRNAを複製する必要があります。

 

人間の細胞はDNAを複製するために、まずRNAを作り出しそれを設計図としてDNAを複製します。

 

RNAからDNAが作り出されるためには、キャップと言われる先端部分からの情報伝達が重要となっており、キャップはDNA複製の司令官のような役割を担っているのです。

 

先ほどお話した通り、インフルエンザウイルスは宿主細胞が持つRNAの合成回路を乗っ取ります。

 

具体的には宿主細胞の複製の起点になるキャップ構造を認識してその途中から切り離し、自分自身を複製するように指示を書き換えてしまうのですが、この時に必要な酵素がキャップ依存性エンドヌクレアーゼです。

 

ゾフルーザはインフルエンザウイルスの持つキャップ依存性エンドヌクレアーゼの働きを阻害することで、インフルエンザウイルスが複製装置を乗っ取ることを防ぎ、増殖を抑制することができます。

 

ゾフルーザの特徴ですが、やはり1回の経口投与でOKなところ(用法・用量については事項参照)。錠剤も小さいので高齢者でも服用しやすいと思います。

 

ちなみに粉砕も可能だそうですが、メーカーとしては推奨しないとのこと。顆粒の剤形も今後発売予定となっています。

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ゾフルーザと他の抗インフルエンザ薬との作用機序の違い

ゾフルーザはキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害。他の抗インフルエンザ薬の作用機序はノイラミニダーゼ阻害です。

 

インフルエンザウイルスが分裂し、宿主細胞から遊離する際に必要となるノイラミニダーゼという酵素を阻害します。

 

ウイルスは宿主の細胞を使って増殖したあと、さらに感染を広げるためにその細胞から離れて他の細胞に広がっていく必要があります。

 

この宿主細胞からインフルエンザウイルスを遊離する効果を持つのが、ノイラミニダーゼです。

 

耐性ウイルスの問題から現在はあまり使用されていませんが、A型インフルエンザのみに作用するシンメトレル(成分名:アマンタジン)という薬剤に限っては異なる作用機序を持っています。

 

シンメトレルはインフルエンザウイルスが宿主の細胞の中で、RNAを放出する過程を抑制して効果を発揮します。

ゾフルーザの効能効果・用法用量

ゾフルーザの効能効果・用法用量をみる

効能・効果
A型又はB型インフルエンザウイルス感染症

用法・用量
1.通常,成人及び12歳以上の小児には,20mg錠2錠(バロキサビル マルボキシルとして40mg)を単回経口投与する。ただし,体重80kg以上の患者には20mg錠4錠(バロキサビル マルボキシルとして80mg)を単回経口投与する。

2.通常,12歳未満の小児には,以下の用量を単回経口投与する。

用法及び用量の表

体重 用量
40kg以上 20mg錠2錠(バロキサビル マルボキシルとして40mg)
20kg以上40kg未満 20mg錠1錠(バロキサビル マルボキシルとして20mg)
10kg以上20kg未満 10mg錠1錠(バロキサビル マルボキシルとして10mg)

症状発現後、48時間以内に投与を開始します。

 

また、胆汁排泄のため腎機能障害の患者において減量の必要がありません。これはメリットと言えるでしょう。

ゾフルーザの副作用

ゾフルーザは使用した患者のうち、約5.4%に副作用の発現が認められています。

 

主な副作用は下痢(1.3%)・ALT増加(0.9%)など。12歳以下の小児の場合には、下痢(1.9%)が主な副作用となっています。その他の副作用として、頭痛の報告があります。

 

副作用については他の抗インフルエンザ薬よりも少ないといえます。

 

ただゾフルーザに限らず、新薬には未知の副作用があることを想定した上で使用する必要があります。

なぜゾフルーザ錠10mgのみ割線が入っているの?

「体重10kg未満の小児に対し、1回5mg」という適応を取ろうとした名残。

タミフルよりもゾフルーザの方が症状が早く改善する?

既存の抗インフルエンザ薬と比較してゾフルーザは抗ウイルス活性が高く、ウイルスの排出に掛かる期間はタミフルでは72時間を必要とするのに対し、ゾフルーザでは24時間となっています。

 

ただこれについてはちょっと注意が必要です。「タミフルよりもゾフルーザを服用した方が症状が早く改善する!」は間違いです。

 

罹患期間の短縮効果については同等、つまり患者自身の症状改善速度はゾフルーザとタミフルでは変わりません。あくまで他の人に感染させる期間が短縮されるということです。

 

ここはしっかり覚えておいてくださいね。マスコミの報道や週刊誌などを鵜呑みにしないことが大切です。

ゾフルーザの注意事項

なんかすでにやっている人もいるようですが、ゾフルーザは有効性及び安全性が確立していないため、予防投与はできません。

 

そして今問題になっているのが耐性ウイルスについて。ゾフルーザを服用するとインフルエンザウイルスの遺伝子が変異して効かなくなるというものです。成人よりも小児で多くみられます。

 

院内でもゾフルーザの勉強会を開催したのですが、この遺伝子変異については全く触れてなかったんですよね。これはきちんと説明してほしかった。

 

一応採用にはなりましたが、幸いなことに当院の医師は経口可能な場合はほぼタミフルを処方しています。やはり遺伝子変異について懸念があるようです。

 

あとは他の抗インフルエンザ薬と共通の注意事項ですね。

 

ゾフルーザ自体に異常行動の報告はありませんが、タミフルなどの抗インフルエンザ薬を使用した患者では異常行動を起こす可能性が指摘されてきました。

 

厚生労働省は「抗インフルエンザ薬と異常行動の因果関係はない」と結論づけています。

 

ただ、インフルエンザの症状として異常行動を起こす場合もあるため、ゾフルーザ服用中も同様の注意は必要でしょう。

 

つまり、少なくとも発熱から2日間は転落等の事故に対する防止対策が必要だということです。窓や玄関の施錠は忘れずに。

 

妊娠中の使用は、有益性が危険性を上回る場合のみ使用します。動物実験では催奇形性は確認されていないものの、流産の危険性が高まるという報告もあります。

 

また、動物実験において、母乳中への移行が確認されているため、授乳中の使用も避けた方がよいでしょう。

最後に

ゾフルーザは1回の経口投与で治療が完了します。更に現段階では副作用も軽減されているとのこと。

 

その有効性、安全性、利便性から、既存の抗インフルエンザ薬よりもゾフルーザが処方されている現状があります。

 

近年学会や現場からの要望もあり、海外に先駆けて我が国で承認される薬が増えてきています。

 

ゾフルーザも発売後は添付文書未記載の副作用がみられることも十分認識した上で使用する必要がありますね。

 

そしてマスコミを始め、サイトやブログで情報発信する我々も、数字を稼ぎたいあまりメリットだけ伝えるようなことがあってはなりません。

 

安易なゾフルーザの処方はインフルエンザウイルスをただただ強化してしまうことになりますからね。

 

MRもメリットだけではなく、有症状期間がタミフルとは変わらないこと、遺伝子変異のこと、しっかり勉強会で伝えるべきです。

 

抗菌薬(抗生物質)だって風邪に対して安易に使用しないよう、国を挙げて薬剤耐性(AMR)対策に取り組んでいるわけじゃないですか。抗ウイルス薬だって同様に考える必要があると思います。

 

それではゾフルーザについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

出典:
・新潟大学大学院 医歯学総合研究科 国際保健学分野「インフルエンザウイルスの薬剤耐性」
・筑波大学 医学医療系 感染生物学「インフルエンザウイルスの増殖サイクル」
・塩野義製薬株式会社 「新規インフルエンザ治療薬候補 S-033188 の国内製造販売承認申請について -先駆け審査指定制度下での承認申請を実施-」
・朝日新聞 「1回飲むだけのインフル新薬、5月に発売へ」
・ゾフルーザ錠 添付文書・インタビューフォーム