今回は漢方薬の猪苓湯について解説します。
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猪苓湯の名前の由来
配合されている5種類の生薬(事項参照)のうち、主薬である猪苓の名をとって猪苓湯と命名されています。
猪苓湯の作用機序と特徴
猪苓湯は膀胱炎や排尿痛、頻尿などの泌尿器に関わる治療でよく用いられている漢方薬で、含まれている生薬は滑石(カッセキ)・沢瀉(タクシャ)・猪苓(チョレイ)・茯苓(ブクリョウ)・阿膠(アキョウ)です。
漢方薬の適応を判断するうえでは、必ずその人の証を確認することが求められます。猪苓湯が適応となる証は熱証・水滞で、むくみやすくて尿量が少なく、ほてって暑がりの人に向いている漢方薬です。
添付文書には以下のように記載されています。
効能又は効果
尿量減少、小便難、口渇を訴えるものの次の諸症:
尿道炎、腎臓炎、腎石症、淋炎、排尿痛、血尿、腰以下の浮腫、残尿感、下痢用法及び用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。ツムラ猪苓湯エキス顆粒(医療用)の添付文書より引用
添付文書で示されている作用は、尿路結石形成抑制作用と抗腎炎作用です。滑石は消炎・解熱効果を持っており、泌尿器に発生している炎症を改善させます。
沢瀉・猪苓・茯苓はともに利水効果を持っており、尿量の減少を改善することによって細菌の排出を促進します。阿膠は止血作用を持つため、尿出血を改善する効力を発揮しているのです。
ただ科学的にその作用機序が明確にわかっているわけではありません。不明なものが多く、予測の域を出ないものです。
まず、猪苓湯に含まれている沢瀉が尿路結石の形成を抑制するというデータはありますが、これは低用量で使用した場合に発揮される効果となっています。高濃度での服用では全くその効果は示されません。
猪苓湯を服用した患者においても尿路結石の形成を抑制するという有意な結果は得られず、服用した群と服用していない群に有意差は認められませんでした。
それでも、尿路結石の形成を抑制する能力がもともと低い人(尿路結石が大きくなりやすい人)に関しては、尿路結石の大きさを小さくしたという報告もあるため、まったく効果がないとも言えない状況です。
既に形成された小径の尿路結石に関しては、その排石を促進することもわかっており、はっきりとは言えませんがその効果はあるとみて間違いないでしょう。
これらの効果は猪苓湯がもつ利水作用によるものと考えられていますが、通常の人が猪苓湯を服用しても尿量が顕著に増加するわけではありません。
猪苓湯が持つのは利尿作用ではなく利水作用であり、利尿作用では体内の水分量に関係なく尿を排泄させますが、利水作用では体内の水分量に応じて尿量を調節するという効果となります。
つまり、尿量が減少して体内にため込んでいる患者に関しては、尿量を増加させるということになります。また、排尿回数は増えるわけではなく、一回当たりの排尿量が増えるという特徴を持っています。
抗腎炎作用に関しては、阿膠と沢瀉の複合した効果と考えられます。免疫複合型腎炎の原因となるⅢ型アレルギー反応による炎症の発生を抑制する効果があるため、抗腎炎作用を持つと考えられますが、その効果がどのような作用機序によるものなのかは未だに判明していません。
腎・膀胱・尿路結石などの泌尿器症状に特異に作用する猪苓湯ですが、その効果には不明な点も多く、なぜ効果を発揮するのかが解明されていないと言えるでしょう。更なる研究の進展によって、その作用機序の解明が待たれるところです。
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猪苓湯の副作用
猪苓湯では副作用の発現頻度が明確になる調査を行っていないため、その詳しい発生頻度は不明です。ただし、重大な副作用の報告はない医薬品であるため、比較的安全に使用できる漢方薬と言えるでしょう。
報告されている副作用は発疹、発赤、掻痒などの過敏症状、胃部不快感などの消化器症状でになります。服用中にこれらの症状が現れた場合は、医師、薬剤師に伝えるようにして下さいね。
猪苓湯の飲み方と注意事項
猪苓湯は生薬をお湯に煮出して服用するタイプの薬でしたが、使い勝手を考慮した結果として煮出した薬液を加工し、散剤としたものです。
そのため、服用する時には元の形に戻した方が効果的だと言われています。あまりに熱いお湯では、薬効成分が揮発してしまうため、約60℃程度のぬるま湯で溶かして服用するのがよいでしょう。
妊婦、産婦、授乳婦等への投与
妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
ツムラ猪苓湯エキス顆粒(医療用)の添付文書より引用
ただ、日本産婦人科学会では頻尿を訴える膀胱炎時の漢方治療では猪苓湯を選択とされており、比較的安全に使用できるものと考えることができます。ただし、その服用は最低限度に抑え、きちんと医師の指示を受けて用いることが大切です。
それでは猪苓湯については以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。