今回は漢方薬の四物湯(シモツトウ)について解説します。
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四物湯の名前の由来
4種類の生薬で配合されていることを「四物」とし、これを処方名としています。
四物湯の作用機序と特徴
四物湯は産後の体力回復、月経不順、冷え性、しもやけ、しみ、血の道症に適応を持つ漢方薬で、含まれている生薬は以下の4種類になります。
- 地黄(ジオウ)
- 芍薬(シャクヤク)
- 川芎(センキュウ)
- 当帰(トウキ)
東洋医学では漢方薬の適応を判断するため、個別の患者の状態を判断する「証」という概念を用います。
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四物湯に適応のある証は虚証・寒証・血虚であり、体力が低下していて華奢で、冷え性があって顔色が悪いタイプの人に向いている漢方薬です。血虚に対する最重要な方剤であり、女性の補血に効果的なものとして広く知られています。
添付文書には以下のように記載されています。
効能又は効果
皮膚が枯燥し、色つやの悪い体質で胃腸障害のない人の次の諸症
産後あるいは流産後の疲労回復、月経不順、冷え症、しもやけ、しみ、血の道症用法及び用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。
ツムラ四物湯エキス顆粒(医療用)の添付文書より引用
漢方薬は科学的な薬理作用が解明されていないものが多く、四物湯も例外ではありません。そこで、含まれている生薬からその効果を考察していく必要があります。
当帰・芍薬・地黄は内臓機能を正常化に導いて補血を促し、また、当帰・川芎は血管拡張効果によって血液の循環を改善します。当帰・芍薬・川芎は鎮静作用と自律神経の調節作用があり、子宮筋の働きを補助する効果も併せ持っています。
これらの効果により、生理不順などの月経異常や、それに伴うイライラ感の緩和、生理に伴う痛み、また不妊症に対しても効果を発揮します。
ただし、造血剤というわけではないため、単純な貧血に単独で使用したとしても効果は薄いとされています。
また、その効能効果から血虚がある男性にも使用することが可能で、男性の冷え性や高血圧症にも効果的です。
四物湯は「腎の働きが衰え、肝の機能が乱れ、それによって動悸を起こしている病態に用いる」とされており、これが男性であっても証さえ合っていれば効果を発揮する根拠になります。
女性の生理にともなう症状は多岐に及び、その症状に応じて漢方処方も切り替えていく必要があります。たとえば、むくみが強い場合であれば、四物湯のみでは効果が期待できません。
この場合は、四物湯から川芎を除き、乾燥・発散作用を持つ白朮・茯苓・沢瀉を加えた、当帰芍薬散などが適応となります。単純な病名だけで判断はせず、細かな症状から適切な漢方処方を選択していく必要があります。
四物湯は桂枝加芍薬湯と合わせて精神科領域で用いられることがある方剤です。
いずれも神経症などへの適応はありませんが、四物湯には自律神経のバランスを整えて鎮静を促す効果があり、桂枝加芍薬湯と合わせることで胃腸におけるセロトニン代謝を改善して、不安症を改善する効果を発揮すると考えられます。
特に、PTSDによるフラッシュバックの治療に対して有効性が報告されており、数多く処方されている組み合わせです。
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四物湯の副作用
四物湯では副作用の発現頻度が明確になる調査を行っていないため、その詳しい発生頻度は不明です。ただし、重大な副作用の報告はないため、比較的安全に使用できる漢方薬だと言えるでしょう。
報告されているその他の副作用は、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢などの消化器症状です。服用中にこれらの症状が現れた場合は、かかりつけの医師、薬剤師に伝えるようにして下さい。
四物湯の飲み方と注意事項
四物湯は1日2~3回に分けて空腹時に服用するのが効果的です。もし服用を忘れて食事をしてしまった場合には、効果は減弱してしまう可能性はありますが、気づいた時点で服用しても構いません。
服用に当たっては、約60℃のぬるま湯で溶かして服用する方が効果的だと言われています。あまりに熱いお湯では薬効成分が揮発する可能性があるため、注意してください。
含まれている当帰や川芎により、胃腸への不快感が出てしまうことがあります。著しく胃腸虚弱の患者や悪心・食欲不振を感じている患者には、慎重に使用することが求められます。
妊娠中の使用は、添付文書では有益性が危険性を上回る場合に服用するとなっていますが、含まれている生薬は母体・胎児に悪影響を及ぼす可能性は低いものです。
妊娠中の貧血には、四物湯をベースにした漢方薬が選択されることも多いため、安全性は高いものだと言えるでしょう。とはいえ、自己判断ではなく医師の判断の上で使用するようにして下さいね。
それでは四物湯については以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。