今回は漢方薬の柴陥湯(サイカントウ)について解説します。
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柴陥湯の名前の由来
小柴胡湯と小陥胸湯の合方であることから、小柴胡湯より「柴」、小陥胸湯より「陥」を抜き出して組み合わせて柴陥湯と命名されています。別名では小柴胡湯合小陥胸湯とも呼ばれています。
柴陥湯の作用機序と特徴
柴陥湯は咳や咳による胸痛に適応を持つ漢方薬で、含まれている生薬は以下になります。
- 柴胡(サイコ)
- 半夏(ハンゲ)
- 黄芩(オウゴン)
- 大棗(タイソウ)
- 人参(ニンジン)
- 黄連(オウレン)
- 甘草(カンゾウ)
- 生姜(ショウキョウ)
- 栝楼仁(カロニン)
東洋医学では漢方薬の適応を判断するため、個別の患者の状態を判断する「証」という概念を用います。
関連記事:漢方薬の処方の基本~証、陰陽、虚実、気血水とは?
柴陥湯に適応のある証は虚証~中間証・熱証・水滞であり、体力が中程度でほてりやすく、むくみやすい状態の人に向いている漢方薬です。
添付文書には以下のように記載されています。
効能又は効果
咳、咳による胸痛用法及び用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。ツムラ柴陥湯エキス顆粒(医療用)の添付文書より引用
漢方薬の科学的な作用機序は解明されていないものが多く、柴陥湯も例外ではありません。そこで、含まれている生薬からその効能効果を考察していく必要があります。
柴陥湯は柴胡・半夏を主薬とする方剤で、柴胡・黄芩・黄連の三種が組み合わさることで抗炎症効果を強く発揮し、半夏でノドのつかえや胸部痛の緩和が期待できます。また、人参・大棗が落ちた体力を補い、栝楼仁が去痰作用を発揮します。
咳を鎮める効果はそこまで強くはなく、胸痛を緩和する作用がメインだと言えるでしょう。抗結核薬がなかった時代には、結核の治療薬としても重用されていました。
柴陥湯には化学療法時に併用することで、胸水を減少させたという研究報告が存在します。
柴胡に含まれるサイコサポニンには抗炎症作用と副腎皮質刺激作用があり、ステロイド用効果も期待できる成分です。そこに黄芩を加えることで、黄芩の持つ抗炎症作用・抗アレルギー作用も相加的に作用します。
栝楼仁には血小板凝集・血管透過性亢進作用を持つトロンボキサンA2の働きを抑制するという報告があり、半夏と合わせることで強力な去痰作用を発揮します。
全体として免疫調節作用と抗炎症作用を発揮して、さらに利水作用も発揮することで胸水に効果を発揮していると考えられています。
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柴陥湯の副作用
柴陥湯では副作用の発現頻度が明確になる調査を行っていないため、その詳しい発生頻度は不明です。重大な副作用としては甘草に由来するものが報告されており、使用する際にはその兆候となる症状に注意が必要です。
低カリウム血症や血圧の上昇、浮腫を引き起こしてしまう偽アルドステロン症、前述の低カリウム血症の結果として筋肉の動きに悪影響を与えてしまうミオパチーの発生が報告されています。それらの可能性がある場合には、服用の中止やカリウム剤の投与などの適切な処置が必要になります。
その他の副作用として、発疹や蕁麻疹などの過敏症状が報告されています。服用中にこれらの症状が現れた場合は、かかりつけの医師、薬剤師に伝えるようにして下さい。
柴陥湯での報告はありませんが、類似した漢方薬である小柴胡湯において間質性肺炎や肝機能障害、膀胱炎の副作用が報告されています。特にインターフェロンとの併用を行う場合には、注意した方が良いでしょう。
柴陥湯の飲み方と注意事項
柴陥湯は1日2~3回に分けて空腹時に服用するのが効果的です。もし服用を忘れて食事をしてしまった場合には、効果は減弱してしまう可能性はありますが、気づいた時点で服用しても構いません。
服用に当たっては、約60℃のぬるま湯で溶かして服用する方が効果的だと言われています。あまりに熱いお湯では薬効成分が揮発する可能性があるため、注意してください。
有効成分の重複には注意を要するものがあり、甘草を含む漢方薬の併用(飲み合わせ)には注意しなければいけません。
前述している甘草による副作用が発現してしまう可能性があるため、甘草を含有している漢方薬はもちろん、甘草の有効成分として含有されているグリチルリチン酸を使用している医薬品も同様に注意する必要があり、併用注意となっています。
また著しく体力低下している虚証の患者では、悪心・嘔吐などの消化器症状を起こしやすくなってしまうため、使用する際には症の確認をしっかりと行う必要があります。
妊娠中の使用では、添付文書では「有益性が危険性を上回る場合」となっています。含有している半夏が、妊娠中に使用することで副作用を発現しやすくなるという報告はありますが、生姜と同時に配合されていることでその危険性は低くなります。
ただ咳に対する使用であれば、妊娠中でも安全に使用できる医薬品が他にも存在しているため、あえて柴陥湯を使用するケースは少ないとは思いますが、医師の判断のもとで使用する分には危険性は低いと判断していいでしょう。
それでは柴陥湯については以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。
出典:
ツムラ柴陥湯・添付文書
ツムラ柴陥湯・インタビューフォーム
日東医誌:「ダサニチブによる胸水に対し柴陥湯が奏功したフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病の1例」
廣川書店「医療における漢方・生薬学」