今回は認知症治療薬で唯一の貼付剤、コリンエステラーゼ阻害剤のリバスタッチ、イクセロンについて解説していきます。
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リバスタッチ・イクセロンとは?
では名前の由来からいきますね。リバスタッチとイクセロンはいずれも一般名がリバスチグミンで、貼り薬になります。販売名が異なりますが、薬としては全く同じものです。
リバスタッチは一般名の『リバスチグミン』と貼り薬をイメージした『タッチ』を組み合わせてリバスタッチと命名されました。イクセロンについては特別名前の由来はないそうです。
リバスタッチ、イクセロンの効能効果、用法用量は以下です。
効能又は効果
軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制用法及び用量
通常、成人にはリバスチグミンとして1日1回4.5mgから開始し、原則として4週毎に4.5mgずつ増量し、維持量として1日1回18mgを貼付する。また、患者の状態に応じて、1日1回9mgを開始用量とし、原則として4週後に18mgに増量することもできる。
本剤は背部、上腕部、胸部のいずれかの正常で健康な皮膚に貼付し、24時間毎に貼り替える。リバスタッチパッチの添付文書より引用
作用を短くまとめると『アセチルコリンの分解を抑制し、アセチルコリンの量を増やすことで脳内の情報伝達をスムーズにする』となります。これだけではわかりずらいのでもう少し詳しく見ていきます。
認知症とは?
リバスタッチ・イクセロンの作用機序を説明する前に認知症についてお話します。認知症とは何らかの原因で脳細胞が破壊されることにより、脳の働きが徐々に低下し、日常生活に支障が生じる程度まで症状が重くなった状態をいいます。
認知症は引き起こす原因によりアルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などに分類されますが、ここではその中で最もよくみられるアルツハイマー型認知症についてお話ししていきます。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症の原因は未だ完全に解明されていませんが、以下のようなメカニズムにより発症すると考えられています。
アミロイド仮説
私達の脳内では、βアミロイドという異常タンパク質が作られているのですが、中性エンドペプチダーゼという酵素により分解されるため、通常蓄積はしません。
しかし何らかの原因で中性エンドペプチダーゼの量が減ったり、作用が弱くなるとβアミロイドがどんどん増えていき、やがて塊を形成します。
この塊は老人斑と呼ばれます。老人斑は毒性が強く、周囲の神経細胞が死滅します。この一連の流れをアミロイド仮説といいます。
タウ仮説
次にタウ蛋白のリン酸化が起こるのですが、まずはタウ蛋白について説明していきましょう。細胞の形を決定する細胞骨格の一つに微小管と呼ばれる中空の筒状の構造物があります。
タウ蛋白はこの微小管に結合して細胞骨格を安定化させる作用を持ちます。そのためタウ蛋白は微小管結合タンパクと呼ばれます。また微小管は細胞内の成分の通り道にもなっています。
このタウ蛋白がリン酸化されると微小管との結合が離れてしまいます。その結果微小管が壊れてしまい、細胞骨格が不安定となるため細胞死を引き起こすと考えられています。
またリン酸化されたタウ蛋白同士が集まって塊を作ります。これを神経原線維変化と呼びます。タウ蛋白はリン酸化されると毒性を持ち、細胞死を引き起こします。これをタウ仮説といいます。
コリン仮説
続いて神経細胞の末端はシナプスと呼ばれる構造を持ちます。神経細胞同士はくっついておらず、数万分の1mm離れており、この隙間をシナプス間隙といいます。
シナプスから神経伝達物質『アセチルコリン』がシナプス間隙に放出され、それが次の神経細胞に到達することで情報が伝達するのです。神経細胞が死滅すると、シナプスから放出されるアセチルコリンの量が減ってしまいます。
その結果脳内の情報伝達が上手くいかなくなり、記憶力の低下を引き起こします。これがアルツハイマー型認知症です。ちなみにこれをコリン仮説といいます。
これらは未だ解明されていないため、全て仮説となっているのです。
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リバスタッチ・イクセロンの作用機序と特徴
上のアルツハイマー型認知症の発症の流れを見ると、治療薬としては以下のようなものが考えられますよね。
2.タウ蛋白のリン酸化防止or脱リン酸化
3.アセチルコリンの合成促進or分解抑制
リバスタッチとイクセロンはアセチルコリンの分解を抑制する薬です。
アセチルコリンはアセチルコリンエステラーゼという酵素により分解されるのですが、もう一つブチリルコリンエステラーゼという酵素によっても分解される事がわかっています。
リバスタッチとイクセロンは上記2つの酵素を邪魔することでアセチルコリンの分解を抑えて、その量を増やす作用を持っています。
実はアリセプトもブチリルコリンエステラーゼを阻害しますが、アセチルコリンエステラーゼの阻害に特化しており、ブチリルコリンエステラーゼの阻害作用は上記2剤よりも弱いです。
これだけ見るとアリセプトよりも作用が強そうなイメージがありますが、ブチリルコリンエステラーゼを阻害する事でどれだけ効果があるのかがまだハッキリわかっておらず、現段階では両者の効果に大きな差はないと言われています。
ただアリセプト同様、作用するのはコリン仮説の部分です。減ったアセチルコリンを増やすだけで、認知症そのものを改善する薬ではありません。
神経細胞の死滅を抑制、つまりアミロイド仮説とタウ仮説の部分で作用する薬があればいいのですが、現段階ではまだ発売されておりません。
リバスタッチ・イクセロンともにあくまで『進行を若干遅らせる』『症状を一時的に軽くする』薬だと認識する必要があります。
リバスタッチ・イクセロンの副作用
やはり貼り薬のため、多いのは皮膚障害です。貼付部位が赤くなったり、痒くなったりする事があります。
これらは皮膚を保湿したり、毎回同じ場所に貼らないなどで減らすことはできます。症状が強い場合はステロイドの塗り薬や痒み止めを使用する場合もあります。
また皮膚から薬剤がゆっくりと吸収されるため、急激な血中濃度上昇は抑えられますが、アリセプトより少ないものの、嘔気、嘔吐、食欲不振などの消化器系の副作用はやはりあります。特に初回9mg開始の場合は注意が必要です。
またアセチルコリンには膀胱を収縮する作用がありますので頻尿がみられる場合もあります。ただ逆の尿閉もみられますが、これについてはまだ原因がわかっていません。
またアセチルコリンの量が増えることでドパミンとのバランス関係が崩れ、ふるえや運動機能の低下などパーキンソン病のような症状が現れることもあります。他にも心不全などの副作用報告もあり、服用するのは高齢者が多いため十分注意する必要があります。
リバスタッチ・イクセロンの注意事項
適応は「軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」です。軽度及び中等度という部分に注意。コリンエステラーゼ阻害剤で高度のアルツハイマー型認知症に使用できるのはアリセプトだけです。
4週毎に増量するのはアリセプト同様、吐き気などの消化器系副作用があるためです。少しずつ量を増やすことで徐々に慣らしていきます。
他の認知症治療薬との併用について
併用可能な認知症治療薬ばNMDA受容体拮抗薬のメマリーのみです。他に認知症治療薬としてレミニール、アリセプトなどがありますが、いずれもコリンエステラーゼ阻害剤のため併用はできません。
それではリバスタッチ・イクセロンについては以上となります。最後まで読んで頂きありがとうございました。