今回は抗凝固薬の「イグザレルト」についてお話していきます。

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イグザレルトとは?

 

まずは恒例名前の由来からいきましょう。作用機序の詳細は後述しますが、イグザレルトは血液を固めるのに必要な第Xa因子に作用することで効果を発揮します。

 

この作用部位である第Xa因子を含む用語を用いた合成用語ということで”Xarelto:イグザレルト”と命名されました。一般名はバーロキサバンになります。

 

イグザレルトの作用機序を簡単に説明すると「第Xa因子に作用することで血栓の形に関与するトロンビンが作られるのを抑える」となります。

 

イグザレルトの適応は以下になります。

効能又は効果/用法及び用量

●非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制
●深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症の治療及び再発抑制

イグザレルトの添付文書より引用

それではまず心房細動と心原性脳塞栓症について簡単にお話していきましょう。

心房細動と心原性脳塞栓症について

 

心房細動は不整脈の1つです。心臓は洞結節と呼ばれる部分から発せられた電気的刺激により収縮するのですが、この刺激が消失せず心房内で旋回(リエントリー)し、心臓が興奮しっぱなしの状態になることにより起こるのが心房細動です。

 

ある意味心臓はけいれんを起こしたような状態になってしまいますので、不規則に収縮することになり、血流が悪くなることで血栓ができやすくなってしまいます。

 

この心臓でできた血栓により起こるのが心原性脳塞栓症です。文字通り心臓にできた血栓が脳に運ばれて、脳内の血管が詰まってしまうタイプの脳梗塞になります。脳ではなく心臓でできた血栓が原因のため突然発症します。また症状は重いことが多いため、なんとしても予防する必要があります。

静脈血栓塞栓症について

 

静脈血栓塞栓症とは文字通り静脈に血栓ができてつまってしまう病気であり、深部静脈血栓症肺血栓塞栓症があります。

 

深部静脈血栓症は下肢に血栓ができてつまってしまい、腫れ、痛み、発赤、表面の静脈が拡張するなどの症状が現れる病気。肺血栓塞栓症は下肢でできた血栓が血流に乗って肺に到達し肺を詰まらせてしまう病気で、胸が苦しい、痛い、呼吸が苦しい、冷や汗が出るなどの症状が現れます。

 

深部静脈血栓症は入院など、ベッドで寝ている時間が長くなることなどが原因で血流が悪くなることに加え、血液が固まりやすくなる条件(妊娠や出産、癌など)や血管壁の障害(外傷や手術など)などが合わさって起こるとされています。

 

肺血栓塞栓症は例えば手術後ずっと寝ていたのに、はじめて立ち上がったりした時やトイレに起きた時など、血流が一気によくなることで血栓が肺に運ばれることにより起こりやすくなります。

凝固系と線溶系について

 

続いて凝固系と線溶系についてお話していきます。例えば血管が傷ついて出血したとします。するとその出血を止めるため傷ついた場所に血小板が集まって塊を作りとりあえず止血します。これを一時止血といいます。一時止血はいわば応急処置であるため、これだけでは血液に流されてしまいます。

 

そこで血液を固めるのに必要な成分である凝固因子がやってきて次々に活性化することでプロトロンビンがトロンビンになり、トロンビンはフィブリノーゲンをフィブリンにすると同時に第XⅢ因子を活性化(第XⅢa因子に)する作用を持ちます。

 

フィブリンは網目状の膜であるフィブリン網を作り、その中に血小板等を取り込み、更に第XⅢa因子の働きにより安定した血栓が作られることで止血が完了します。これが二次止血です。

 

凝固系と線溶系

今お話した一連の流れを凝固系といいます(上図左側。クリックで拡大します)。さて止血したのはいいですが、そこには血栓ができているため正直邪魔ですよね。このままでは血流が悪くなってしまいます。そこで登場するのがプラスミンです。

 

血管内に血栓ができるとt-PA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)がプラスミノーゲンをプラスミンにします。プラスミンはフィブリンを分解、つまり血栓を溶解する作用を持っています。この一連の流れを線溶系(上図右側)と言います。

 

プラスミンは通常プラスミノーゲンとして存在しています。そりゃそうです。血が止まらなくなってしまいますからね。

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イグザレルトの作用機序と特徴

 

血栓の形成を抑えるにはどうすればいいのでしょうか。そう、最終的にフィブリンが作られるのを抑えればいいことがわかりますね。イグザレルトが作用するのは第Xa因子です。第Xa因子はプロトロンビンをトロンビンにする働きを持っています。

 

イグザレルトにより第Xa因子の働きが抑えられるとトロンビンの生成が抑えられるため、結果的にフィブリンの生成が抑えられることになります。これにより血栓が作られるのを抑えることができるのです。

 

イグザレルトは2/3が肝臓で代謝され活性を持たない物質となり、残りの1/3が腎排泄されます。つまり肝機能、腎機能が悪い方には投与が制限されます。

 

具体的には中等度以上の肝障害(Child-Pugh分類B又はCに相当)のある患者様と腎不全の患者様です。イグザレルトの血中濃度が上昇し、出血のリスクが増大するため禁忌となっています。

Child-Pugh(チャイルドピュー)分類:肝性脳症、腹水、アルブミン、総ビリルビン、プロトロンビン時間の5項目をそれぞれ評価し、合計点数により肝障害度を示すもの。クレアチニンクリアランスは腎機能を評価する指標の1つ

 

イグザレルトは適応により用法・用量が異なります。

・非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制

15mgを1日1回食後に経口投与。クレアチニンクリアランスが15~49mL/minの方は血中濃度が上昇する可能性もあるため1回10mgに減量します。15mL/min未満の患者様は禁忌です。

 

・深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症の治療及び再発抑制

初期3週間は15mgを1日2回食後に経口投与し、その後は15mgを1日1回食後に経口投与。クレアチニンクリアランス30mL/min未満の患者様は禁忌となります。

イグザレルトの副作用

 

血液をサラサラにするわけですから、出血しやすくなるというのは想像に難くないと思われます。そのため出血している方は禁忌となります。青あざができたり、鼻血や歯茎からの出血、血尿などがみられた場合は医療機関を受診して下さい。

 

特に深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症の治療及び再発抑制の場合は初期3週間は30mg服用することになるため十分注意が必要です。

 

他にも稀ですが、肝機能障害、黄疸、間質性肺疾患なども報告されています。体がだるくなったり、皮膚や白目が黄色くなったり、咳や息切れ、発熱などの症状が現れた場合は直ちに医療機関を受診するようにして下さい。

イグザレルトの相互作用と注意事項

 

イグザレルトは主に肝臓の薬物代謝酵素CYP3A4及びCYP2J2により代謝されます。そのためCYP3A4及びP-糖蛋白を阻害するHIVプロテアーゼ阻害剤、アゾール系抗真菌剤については併用禁忌となります。お薬手帳を忘れずに医師、薬剤師に見せるようにして下さい。

 

また妊婦又は妊娠している可能性のある女性も禁忌となります。理由として動物実験において、奇形や死産などの増加が見られること、また胎盤を通過することが認められているためです。授乳についても動物実験において乳汁中への移行が報告されていますので服用中は授乳を避ける必要があります。

 

またイグザレルトはその作用から出血しやすくなるわけですから、手術前に一時的に服用を中止します。添付文書では手術の24時間前より中止となっていますが、この期間は病院により異なる場合があります。主治医の指示に従って下さい。

 

それではイグザレルトについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。