今回は漢方薬の芎帰膠艾湯(キュウキキョウガイトウ)について解説します。
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芎帰膠艾湯の名前の由来
含まれる7種の生薬(次項参照)のうち、主薬である川芎、当帰、阿膠、艾葉より1文字ずつ取って芎帰膠艾湯と命名されています。
芎帰膠艾湯の作用機序と特徴
芎帰膠艾湯は痔などによる下半身の出血に対して用いられている漢方薬で、含まれている生薬は以下です。
- 地黄(ジオウ)
- 芍薬(シャクヤク)
- 当帰(トウキ)
- 艾葉(ガイヨウ)
- 甘草(カンゾウ)
- 川芎(センキュウ)
- 阿膠(アキョウ)
四物湯の構成生薬である地黄、芍薬、川芎、当帰に追加して、止血作用を持つ阿膠・艾葉と鎮痛作用を持つ甘草が配合された方剤となっています。
東洋医学では漢方薬の適応を判断するため、個別の患者の状態を判断する「証」という概念を用います。
関連記事:漢方薬の処方の基本~証、陰陽、虚実、気血水とは?
芎帰膠艾湯に適応のある証は、虚証・寒証・血虚・瘀血であり、虚弱気味で冷え性があり、血色が悪く青あざができやすいタイプの人に向いている漢方薬です。
添付文書には以下のように記載されています。
効能又は効果
痔出血用法及び用量
通常、成人1日9.0gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。ツムラきゅう帰膠がい湯エキス顆粒(医療用)の添付文書より引用
漢方薬は科学的な薬理作用が解明されていないものが多く、芎帰膠艾湯も例外ではありません。そのため、含まれている生薬からその効能効果を考察していく必要があります。
まず、芎帰膠艾湯は四物湯から派生した漢方薬であるため、効果の基本は四物湯に準じています。
血を補って循環を改善し、自律神経の調節作用によって精神面にも作用し、子宮をつかさどる平滑筋の調節作用によって月経不順や血の道証を改善するのが四物湯の効果でした。
その効果に加えてより強力に止血効果をもつ阿膠・艾葉を配合し、痛みに対して甘草を配合したのが芎帰膠艾湯です。適応となっているのは痔出血ですが、血尿や不正出血などの下半身に起きている症状には効果が期待できます。
子宮筋腫に対して芎帰膠艾湯が処方される例も多くあります。子宮筋腫とは、女性であればだれでも発生する可能性がある良性の腫瘍です。
子宮筋腫があることによって、月経時の下腹部の痛みや、月経出血過多などが起きる可能性があります。良性であるため、基本的には経過観察を行い、閉経によって子宮筋腫が収縮するまでフォローを行うのが通常の治療です。
臨床現場では、子宮筋腫に伴って発生する月経不順や不正出血、下腹部の痛みに対して、症状に応じて芎帰膠艾湯を使用することによって対処を行う治療が実施されています。
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芎帰膠艾湯の副作用
芎帰膠艾湯では副作用の発現頻度が明確になる調査を行っていないため、その詳しい発生頻度は不明です。重大な副作用としては甘草に由来するものが報告されており、使用する際にはその兆候となる症状に注意が必要です。
低カリウム血症や血圧の上昇、浮腫を引き起こしてしまう偽アルドステロン症、前述の低カリウム血症の結果として筋肉の動きに悪影響を与えてしまうミオパチーの発生が報告されています。それらの可能性がある場合には、服用の中止やカリウム剤の投与などの適切な処置が必要になります。
その他の副作用として、胃部不快感や食欲不振、悪心・嘔吐、下痢などの消化器症状が報告されています。
芎帰膠艾湯の飲み方と注意事項
芎帰膠艾湯は1日2~3回に分けて空腹時に服用するのが効果的です。もし服用を忘れて食事をしてしまった場合には、効果は減弱してしまう可能性はありますが、気づいた時点で服用しても構いません。
服用に当たっては、約60℃のぬるま湯で溶かして服用する方が効果的だと言われています。あまりに熱いお湯では薬効成分が揮発する可能性があるため、注意してください。
含まれている当帰や川芎により、胃腸への不快感が出てしまうことがあります。著しく胃腸虚弱の患者や悪心・食欲不振を感じている患者には、慎重に使用することが求められます。
有効成分の重複には注意を要するものがあり、甘草を含む漢方薬の併用には注意しなければいけません。
前述している甘草による副作用が発現してしまう可能性があるため、甘草を含有している漢方薬はもちろん、甘草の有効成分として含有されているグリチルリチン酸を使用している医薬品や、体内のカリウム濃度に影響を与える利尿剤も同様に注意する必要があり、併用注意となっています。
妊娠中の使用は、添付文書では「有効性が危険性を上回る場合のみ」と記載されています。ただし、芎帰膠艾湯は古くから妊娠中の不正出血に対して用いられてきた歴史ある漢方薬です。
自己判断ではなく、医師の指示の下で使用していれば、安全性が高いものだと言えるでしょう。
それでは芎帰膠艾湯については以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。
出典:
ツムラ芎帰膠艾湯・添付文書
ツムラ芎帰膠艾湯・インタビューフォーム
廣川書店「医療における漢方・生薬学」
日本産婦人科学会「婦人科における漢方療法」
日本臨床漢方医会HP