今回は漢方薬の十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ)について解説します。
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十味敗毒湯の名前の由来
「万病回春」に記されている荊防敗毒散(けいぼうはいどくさん)を基本として、江戸時代の外科医である華岡青洲によって創り出された漢方薬です。
十種類の生薬から構成されていることから「十味」、皮膚における化膿等の毒を敗退させる(毒をなくす)ということから「敗毒」、この2つを組み合わせて十味敗毒湯と命名されています。
十味敗毒湯の作用機序と特徴
十味敗毒湯はニキビや湿疹の治療に用いられることが多い漢方薬で、含まれている生薬は桔梗(キキョウ)、柴胡(サイコ)、川芎(センキュウ)、茯苓(ブクリョウ)、防風(ボウフウ)、甘草(カンゾウ)、荊芥(ケイガイ)、生姜(ショウキョウ)、独活(ドクカツ)、桜皮(オウヒ)です。
東洋医学では漢方薬の適応を判断するため、個別の患者の状態を判断する「証」という概念を用います。十味敗毒湯に適している証は中間証~実証、熱証、水滞であり、体力が中等度でほてり気味、むくみやすい人に用いられます。
基本的には桜皮を使用するべきものですが、基にしている出典が異なることで、メーカーによっては桜皮ではなく樸そく(ボクソク)が加えられているものもあります。
どちらの生薬も皮膚の収れん作用を持っていますが、収れん作用については樸そくの効果が顕著であるものの、桜皮では解熱作用やエストロゲン作用なども併せ持っている点で優れていることが判明しています。
添付文書には以下のように記載されています。
効能又は効果
化膿性皮膚疾患・急性皮膚疾患の初期、じんましん、急性湿疹、水虫用法及び用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。ツムラ十味敗毒湯エキス顆粒(医療用)の添付文書より引用
十味敗毒湯は皮膚の炎症を抑えて毒の発散を促し、血行を改善して皮膚の新陳代謝を活発にすることで効果を示していると考えられますが、その他にも表皮の殺菌作用などの効果も併せ持っています。
通常漢方薬は経験則に則って使用されているため、薬理学的な作用機序は不明なものが多いですが、十味敗毒湯に関しては皮膚科医の間で臨床応用が多く、ある程度の薬理作用は判明しています。
まず、添付文書上における作用機序では、好中球活性化作用・活性酸素抑制作用により炎症・アレルギー反応を抑え、皮膚症状に効果を現していることが報告されています。
ニキビの原因と考えられているのは、表皮に存在しているアクネ菌や皮脂による毛穴の詰まりなどです。男性ホルモンの増加や黄体ホルモンの増加によって皮脂分泌が増加し、ニキビとして炎症を起こしてしまっていると考えられます。
十味敗毒湯では、桜皮によるエストロゲンの分泌促進効果により、男性ホルモン・黄体ホルモンの作用を抑え、皮脂分泌の改善も含めて体質を整えることにより、ニキビや皮疹の症状を緩和するという報告が存在します。
体質改善によって治療していくため、劇的な効果は感じにくいものですが、エストロゲン受容体が男性よりも多い女性では、特に効果を感じやすいと言えるでしょう。
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十味敗毒湯の副作用
十味敗毒湯は副作用の発現頻度が明確になる調査を行っていないため、その詳しい発生頻度は不明です。重大な副作用としては甘草に由来するものが報告されており、使用する際にはその兆候となる症状に注意が必要です。
低カリウム血症や血圧の上昇、浮腫を引き起こしてしまう偽アルドステロン症、前述の低カリウム血症の結果として筋肉の動きに悪影響を与えてしまうミオパチーの発生が報告されています。それらの可能性がある場合には、服用の中止やカリウム剤の投与などの適切な処置が必要になります。
その他の副作用として、発赤や掻痒感・皮疹などの過敏症状、食欲不振や胃部不快感などの消化器症状の報告があります。服用中にこれらの症状が現れた場合は、医師、薬剤師に伝えるようにして下さいね。
十味敗毒湯の飲み方と注意事項
十味敗毒湯は1日2~3回に分けて空腹時に服用するのが効果的です。もし服用を忘れて食事をしてしまった場合には、効果は減弱してしまう可能性はありますが気づいた時点で服用しても大丈夫です。
十味敗毒湯は生薬をお湯に煮出して服用するタイプの薬でしたが、使い勝手を考慮した結果として煮出した薬液を加工し、散剤としたものです。そのため、服用する時には元の形に戻した方が効果的だと言われています。
あまりに熱いお湯では、薬効成分が揮発してしまうため、約60℃程度のぬるま湯で溶かして服用するのがよいでしょう。
有効成分の重複には注意を要するものがあり、特に甘草を含む漢方薬の併用には注意しなければいけません。甘草の有効成分であるグリチルリチン酸を使用している医薬品も同様に注意する必要があり、併用注意となっています。
妊娠中の服薬に関しては、添付文書では有益性がある場合のみ使用することとなっていますが、場合によっては使用する可能性のある薬です。
ただし、皮膚疾患であれば外用薬のみでコントロールしていくことも多いため、自己判断での使用はせず、必ず医師の判断のもとで使用するようにしてください。
それでは十味敗毒湯については以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。