今回は漢方薬の補中益気湯(ホチュウエッキトウ)についてお話していきます。

スポンサーリンク

補中益気湯の名前の由来

 

「中」は漢方で脾胃、つまり消化吸収に関わる消化管を意味します。「気」は飲食摂取により得ることができる元気を意味します。

 

以上から補中益気は、中を補って気を益す、つまり”消化吸収機能が低下した状態を改善し元気を益す効果がある”ということから補中益気湯と命名されています。

補中益気湯の作用機序と特徴

 

補中益気湯は夏バテや疲れやすい人に対して使われる漢方薬で、含まれている生薬は黄耆(オウギ)、蒼朮(ソウジュツ)、人参(ニンジン)、当帰(トウキ)、柴胡(サイコ)、大棗(タイソウ)、陳皮(チンピ)、甘草(カンゾウ)、升麻(ショウマ)、生姜(ショウキョウ)です。

 

日本では蒼朮の代わりに白朮(ビャクジュツ)が配合されている場合もあります。生薬の効果は異なりますが、漢方薬としては同じ適応とされます。ちなみにツムラでは蒼朮が配合されています。

 

漢方薬はすべて、適応となる人を「証」を見て判断します。「証」とは、人の状態を現す東洋医学の考え方であり、補中益気湯の適応となる証は虚証、つまり、体力が衰えている人に向けた漢方薬です。

関連記事漢方薬の処方の基本~証、陰陽、虚実、気血水とは?

 

添付文書には以下のように記載されています。

効能又は効果

消化機能が衰え、四肢倦怠感著しい虚弱体質者の次の諸症:夏やせ、病後の体力増強、結核症、食欲不振、胃下垂、感冒、痔、脱肛、子宮下垂、陰萎、半身不随、多汗症

用法及び用量

通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。

ツムラ補中益気湯エキス顆粒(医療用)の添付文書より引用

 

上記の効果を発揮する作用機序には以下のものがあります。

・免疫調節作用
・精巣能力改善作用

 

漢方薬の作用機序の大部分はいまだに研究段階にあり、正確なものは判明していません。東洋医学的に説明すれば、補中益気湯は「気」を充実させる効果を持っている漢方薬です。気の不足により、慢性的な体調不良を起こしているという考えがその根底に存在しています。

 

含まれている生薬から、体内にある熱を発散するとされる升麻や、体力を充実させるという人参や黄耆によって効果を発揮しているとされています。

 

科学的な根拠を伴った作用機序として免疫機構の改善作用についてですが、樹状細胞やマクロファージ、リンパ球などの機能を増強する作用を持っていることが判明しています。感冒に対する効果や病後の体力増強などは免疫調節作用によって発揮されているのです。

 

人の精巣に作用する効果も持っており、精子の産生に関与するタンパク質の合成を促進し、精子の運動能力を改善します。一部では男性不妊の治療にも使用されています。

 

腹部から気を充実させるというので胃下垂や食欲不振に対して効果を発揮すると言われていますが、科学的な根拠は見当たらず、さらなる研究の進展が待たれるところです。

スポンサーリンク

補中益気湯の副作用

 

補中益気湯では副作用が明確になる調査は行われていません。そのため、その発現頻度に関するデータも存在しておらず、どのくらいの頻度で起こるのかが不明です。

 

ただ発現する可能性は稀ですが、重大な副作用の報告がある医薬品であるため、使用する時には注意しなければいけません。

 

一般的に漢方薬の副作用は、ほぼ含まれている生薬によって決まります。補中益気湯には甘草が含まれているため、重大な副作用もその甘草に由来するものの発生が報告されています。

 

頻度不明ですが偽アルドステロン症やミオパチー、肝機能障害の報告があるので注意が必要です。これらの症状としては血圧の上昇やむくみ、脱力感などがあります。

ミオパチー:ここでは難病である先天性ミオパチーではなく、薬剤性ミオパチーを指しています。薬剤性ミオパチーは何らかの医薬品の影響で筋肉が痩せていき、力が入りにくいという自覚症状を伴います。服用を中止することで改善することが可能です。

 

その他の副作用として、発疹、掻痒感などの過敏症や、食欲不振、胃部不快感、下痢、悪心等の消化器症状の報告も出ています。

 

服用中に何か異常を感じた場合には服用を中止し、処方元の医師や薬剤師に相談するようにしましょう。

補中益気湯の飲み方と注意事項

 

補中益気湯はもともと液剤だったものを抽出して散剤にしたものです。ですので、服用時にはそれに即してぬるめのお湯で服用したほうが効果的だと言われています。

 

約60度のお湯が最も効果的であり、あまりに熱いお湯では有効成分が揮発してしまうので注意しなければいけません。

 

含有生薬に甘草が含まれているため、漢方薬の併用によって重複してしまい、過量投与にならないように注意しなければいけません。甘草が過量投与になってしまうと、前項で紹介した副作用が発現しやすくなってしまいます。

 

添付文章上では、妊娠中の服薬の安全性が確立されていないため、治療上の有益性が危険性を上回る場合に使用するように書かれています。

 

しかし妊娠中の貧血で鉄剤の服用ができない場合などに使用されることがある漢方薬ですので、医師の判断で用いる場合には安全性は高いと言えます。日本臨床漢方医会でも推奨されていることから、信頼性も高いでしょう。

 

ただし、医師は個人の証を判断して処方していますので、自己判断で服用するのは避けて下さいね。

 

それでは補中益気湯については以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。