今回は新規経口抗凝固薬(NOAC:novel oral anticoagulants)の「プラザキについてお話していきます。

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プラザキサとは?

 

まずは恒例名前の由来から。プラザキサはPrazaxaと表記するのですが、先頭の”Pr”は「precision:確かな」と「prevention:予防」の2つの言葉、「確かな予防」から来ています。一般名はダビガトランになります。

 

プラザキサの作用機序を簡単に説明すると「血液凝固因子の1つトロンビンの働きを邪魔することで血栓が作られるのを抑える」となります。

 

プラザキサは非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制に適応があります。それではまず心房細動と心原性脳塞栓症について簡にお話していきましょう。

心房細動と心原性脳塞栓症について

 

心房細動は不整脈の1つです。心臓は洞結節と呼ばれる部分から発せられた電気的刺激により収縮するのですが、この刺激が消失せず心房内で旋回(リエントリー)し、心臓が興奮しっぱなしの状態になることにより起こるのが心房細動です。

 

ある意味心臓はけいれんを起こしたような状態になってしまいますので、不規則に収縮することになり、血流が悪くなることで血栓ができやすくなってしまいます。

 

この心臓でできた血栓により起こるのが心原性脳塞栓症です。文字通り心臓にできた血栓が脳に運ばれて、脳内の血管が詰まってしまうタイプの脳梗塞になります。脳ではなく心臓でできた血栓が原因のため突然発症します。また症状は重いことが多いため、なんとしても予防する必要があります。

凝固系と線溶系について

 

続いて凝固系と線溶系についてお話していきます。例えば血管が傷ついて出血したとします。するとその出血を止めるため傷ついた場所に血小板が集まって塊を作りとりあえず止血します。これを一時止血といいます。一時止血はいわば応急処置であるため、これだけでは血液に流されてしまいます。

 

そこで血液を固めるのに必要な成分である凝固因子がやってきて次々に活性化することでプロトロンビンがトロンビンになり、トロンビンはフィブリノーゲンをフィブリンにすると同時に第XⅢ因子を活性化(第XⅢa因子に)する作用を持ちます。

 

フィブリンは網目状の膜であるフィブリン網を作り、その中に血小板等を取り込み、更に第XⅢa因子の働きにより安定した血栓が作られることで止血が完了します。これが二次止血です。

 

凝固系と線溶系

今お話した一連の流れを凝固系といいます(上図左側。クリックで拡大します)。さて止血したのはいいですが、そこには血栓ができているため正直邪魔ですよね。このままでは血流が悪くなってしまいます。そこで登場するのがプラスミンです。

 

血管内に血栓ができるとt-PA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)がプラスミノーゲンをプラスミンにします。プラスミンはフィブリンを分解、つまり血栓を溶解する作用を持っています。この一連の流れを線溶系(上図右側)と言います。

 

プラスミンは通常プラスミノーゲンとして存在しており、必要な時だけプラスミンになります。当然ですよね。血が止まらなくなってしまいますから。

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プラザキサの作用機序と特徴

 

凝固系と線溶系

先ほどの図をもう一度見てみましょう。最終的にフィブリンが作られるのを抑えれば血栓の形成を抑えることができます。

 

「ここに作用すればいいのでは?」と思われる部分がたくさんありますが、プラザキサが作用するのはトロンビンです。

 

トロンビンはフィブリノーゲンをフィブリンにする働きに加え、第ⅩⅢ因子を活性化して第ⅩⅢa因子にする働きを持っています。第ⅩⅢa因子がフィブリンに作用するとその結合は更に強力になり、安定した血栓ができてしまいます。

 

プラザキサはトロンビンの働きを邪魔する作用を持ちます。これにより血栓の生成を抑えることができるのです。

 

ちなみにプラザキサはそのままでは薬効を発揮せず、腸管から吸収された後にエステラーゼで加水分解されて初めて効果を発揮します。このような特性を持った薬をプロドラッグといいます。

 

また、プラザキサは肝薬物代謝酵素による代謝を受けません。腎排泄型の薬であり、約8割が尿中に排泄されます。透析を含む高度の腎障害(クレアチニンクリアランス30mL/min未満)のある患者様は禁忌となります。

 

プラザキサは通常”1回150mgを1日2回”で服用しますが、中等度の腎障害(クレアチニンクリアランス30-50mL/min)のある患者様は”1回110mgを1日2回”に減量して対応します。

 

P-糖蛋白阻害剤を併用している患者様、70歳以上の患者様、消化管出血の既往を有する患者様もリスクが高いため、”1回110mgを1日2回”に減量して対応します。

 

P-糖蛋白とは細胞内の薬物を細胞外に排出するポンプであり、これが阻害されるとプラザキサの血中濃度が上昇し、出血のリスクが高まります。P-糖蛋白阻害剤には抗真菌薬のイトリゾールがあり、こちらは併用禁忌となっています。

 

他にもカルシウム拮抗薬のベラパミル、マクロライド系抗菌薬のクラリスロマイシン、抗不整脈薬のアミオダロン、キニジンなどがありこちらは併用注意となっています。お薬手帳を忘れずに医師、薬剤師に見せるようにして下さい。

プラザキサの副作用

 

血液をサラサラにするわけですから、出血しやすくなるというのは想像に難くないと思われます。そのため出血している方は禁忌となります。青あざができたり、鼻血や歯茎からの出血、血尿、血便などがみられた場合は直ちに医療機関を受診するようにして下さい。

 

また抜歯や内視鏡などの検査があったり、他の病院にかかる際は必ずプラザキサを服用していることを伝えるようにしましょう。

 

消化管出血や頭蓋内出血による死亡例も出ており、安全性速報(ブルーレター)も発出されているため注意が必要です。

 

これは不安を煽っているのではありません。プラザキサは非常に優れた薬であり、適正に使用することでそのリスクを減らすことができるからです。

 

そのため投与開始前に出血傾向はないか、腎機能は問題ないか、他に抗血栓薬やP-糖蛋白阻害剤などを服用していないかなどを十分に確認した上で処方、服用開始後も継続して観察していきます。

 

例えばクレアチニンクリアランス30mL/min未満の方は禁忌ですが、そういった本来使用すべきではない方に処方されると悲しい事故が起こる可能性があります。十分な問診や検査が必要な理由をご理解頂けたでしょうか。

 

他にも消化不良や吐き気、下痢などの消化器症状が報告されており、また食道に留まってしまうと潰瘍を生じる可能性もあります。なるべく食後、多めの水で服用するようにして下さい。ネキシウムカプセルなどの胃薬を併用することもあります。

プラザキサの注意事項

 

妊婦又は妊娠している可能性のある女性については禁忌ではありません。ただ動物実験において胎児への移行が認められており、妊婦にして使用経験がなく安全性が確立していないため基本は使用を控えます。

 

授乳についても動物実験いて乳汁中への移行が報告されていますので服用中は授乳を避ける必要があります。

 

またプラザキサはその作用から出血しやすくなるため、手術前に一時的に服用を中止します。添付文書上では手術の24時間以上前、大手術であれば48時間以上前までに中止とされていますが、これは医療機関によっても異なる場合があります。主治医の指示に従うようにしましょう。

 

最後にプラザキサは吸湿性が高い、つまり湿気に弱いので一包化はできません。PTPシートのままもらうことになると思いますが、必ず服用直前にPTPシートから取り出すようにして下さい。

 

それではプラザキサについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。