エフルエルダ筋注は、高齢者向けに抗原量を4倍にした高用量のインフルエンザHAワクチンです。従来のインフルエンザHAワクチンとは、抗原の量だけでなく、注射の打ち方も打てる年齢も違います。
ただし、どちらも「インフルエンザHAワクチン」という同じ名前で呼ばれるため、両者を分ける線がどこにあるのかは名前からは読み取れません。
この記事では、両者の違いを早見表で整理したうえで、抗原量、接種経路、対象年齢、副反応、定期接種での扱いを1つずつ見ていきます。あわせて、2026年8月時点の国内での入手状況を、添付文書と厚生労働省の資料で確認しました。
- エフルエルダ筋注と従来型HAワクチンの違いを1枚にまとめた早見表
- 抗原量が4倍でも効果が4倍にならない理由と、評価項目ごとに変わる数字の意味
- 皮下注射から筋肉内注射に変わることで増える手技と確認事項
- 令和8年度の定期接種で高用量ワクチンが使われないことになった経緯
エフルエルダ筋注と従来型HAワクチンの違い【早見表】
大きな違いは3つです。抗原の量が4倍、注射の打ち方が皮下注射から筋肉内注射に変わる、そして打てる年齢が60歳以上に限られる。まずは表で全体をつかんでください。
| 項目 | エフルエルダ筋注 (高用量) | インフルエンザHAワクチン (従来型・標準用量) |
|---|---|---|
| 抗原量 | 1株あたり60µg (0.7mL中) | 1株あたり15µg (0.5mL中) |
| 接種経路 | 筋肉内注射のみ (皮下注・静注は不可) | 皮下注射 |
| 接種部位 | 左右どちらかの上腕三角筋 | 通常、上腕伸側 |
| 対象年齢 | 60歳以上 | 生後6か月以上 |
| 接種量・回数 | 0.7mLを1回 | 13歳以上は0.5mLを1回または2回 (3歳以上13歳未満は0.5mL×2回、 6か月以上3歳未満は0.25mL×2回) |
| 包装 | 0.7mLプレフィルドシリンジ (注射針は付属しない) | 1mLバイアル1本 |
| 保存 | 2〜8℃、有効期間12か月 | 10℃以下、有効期間は製造日から1年 |
| 効能・効果 | どちらも「インフルエンザの予防」 | |
| 2026年8月時点の 国内での入手 | 承認済みだが未発売 | 流通している |
| 令和8年度 (2026/27シーズン)の 定期接種 | 使用しない | 従来どおり使用する |
ここでいう従来型は、比較の基準としてインフルエンザHAワクチン「生研」(デンカ)の添付文書をもとにしています。標準用量の製剤は複数の会社から出ていて、添加剤や包装は製品ごとに違います。手元の製品の添付文書で確認してください。
抗原量、接種経路、対象年齢が主な違い
両者は「まったく別のワクチン」ではありません。どちらもインフルエンザHAワクチン、つまり発育鶏卵で増やしたウイルスを壊して、感染に関わる部分だけを取り出した不活化ワクチンです。生きたウイルスは入っていません。
HAはヘムアグルチニン(血球凝集素)の略で、ウイルスの表面に生えているトゲのようなタンパク質です。ウイルスが人の細胞に取りつくときの「手」にあたります。この手を免疫に覚えさせておくと、抗体がその手をふさいでくれる。これが両ワクチンに共通する仕組みです。
違うのは、覚えさせる材料の量と、体のどこに置くか、そして誰に使えるかです。中身の設計思想は同じで、量と打ち方を変えた姉妹品にあたります。
【2026年8月時点】エフルエルダは国内では承認済みだがまだ使えない
ここが最初に押さえるところです。エフルエルダ筋注は2024年12月27日に国内で製造販売承認を取得していますが、2026年8月時点で国内では発売されていません。つまり、承認された薬ではあるものの、医療機関で発注して打てる状態にはなっていません。
製造販売元は2026年秋の発売を目指して準備していましたが、国内の製造委託先で製造工程の確立と検証に想定以上の時間がかかり、2026年7月21日に発売時期の変更を公表しました。
「2026年10月から75歳以上はエフルエルダを選べる」と書かれた情報が数多く残っています。これは2026年2月の審議会で了承された当時の方針で、2026年7月21日付の厚生労働省の事務連絡により、令和8年度の定期接種では高用量インフルエンザHAワクチンを使用しないことになりました。患者さんに説明する前に、必ず現時点の情報を確認してください。
この記事の内容は2026年8月時点の添付文書と厚生労働省の資料に基づいています。発売時期は今後あらためて案内される見込みなので、最新の状況は厚生労働省と製造販売元の発表で確認してください。
抗原量は1株15µgから60µgへ4倍になる
いちばん有名な違いがこれです。1つのウイルス株あたりの抗原量が、標準用量の15µgに対して高用量は60µg。ちょうど4倍です。厚生労働省の審議会資料でも、15µgになるよう調整したものを標準量、60µgになるよう調整したものを高用量と呼び分けています。
液の量も0.5mLから0.7mLへ増えています。ただし抗原が4倍なのに液量は1.4倍なので、1mLあたりの濃さそのものが濃くなっていると理解してください。
なぜ4倍なのか、4倍にすると何が変わるのか
抗原を増やす狙いは、反応が鈍くなった高齢者の免疫に、大きな声で呼びかけることにあります。
ワクチンは、免疫に「この顔を覚えておいて」と写真を見せる作業に似ています。若いうちは写真を1枚見せれば覚えてくれます。ところが年齢とともに免疫の反応が鈍くなり、同じ1枚では記憶に残らなくなる。そこで写真を4枚に増やして、覚えてもらう確率を上げよう。これが高用量ワクチンの発想です。
実際、60歳以上の日本人を対象にした国内の試験では、高用量を打った群のほうが接種28日後の抗体価が高く、株によって標準用量の2倍から3倍でした。抗体がつく人の割合(抗体陽転率)も、標準用量の40〜50%程度に対して高用量は70〜80%程度でした。
つまり、同じワクチンでも量を増やせば高齢者でも抗体は上がる。ここまでは数字ではっきり示されています。
4倍量でも効果が4倍になるわけではない
抗原が4倍だからといって、予防効果が4倍になるわけではありません。抗体価の比は2〜3倍、発症を防ぐ上乗せ分は約24%です。ここを取り違えると患者さんへの説明が過大になります。
免疫の反応は、材料を足せば足しただけ比例して伸びるものではありません。声を4倍大きくしても、聞こえる人が4倍になるわけではないのと同じです。ある程度までは届く量が増えますが、そこから先は頭打ちになります。
だから現場での言い方はこうなります。「量を増やしたぶん、抗体はしっかり上がります。感染をゼロにするものではありませんが、発症する人と、肺炎などで入院する人を減らす方向に働きます」。上乗せの中身は後の章で数字ごとに整理します。
皮下注射から筋肉内注射に変わると、手技は何が違うのか
打つ側にとって、いちばん手が変わるのがここです。従来型は皮下注射、エフルエルダは筋肉内注射で、皮下注射や静脈内注射で打つことはできません。添付文書ではっきり禁じられています。
皮下注射は皮膚をつまんで浅く入れる打ち方、筋肉内注射は皮膚に対してほぼ垂直に刺して筋肉の層まで届かせる打ち方です。同じインフルエンザワクチンという名前でも、手技が別物になります。
接種部位は上腕三角筋、皮下注射はできない
エフルエルダの接種部位は、左右どちらかの上腕三角筋です。肩の丸みをつくっている筋肉と考えてください。従来型の皮下注射は通常、上腕伸側(二の腕の外側)に打ちます。同じ腕でも、狙う深さと位置が違います。
添付文書に書かれている接種時の注意を、手順として並べます。
- 冷蔵庫から出して室温になってから、必ず振り混ぜて均等にする
- 他のワクチンと混ぜて接種しない
- 筋肉内接種に足る長さの針を、被接種者ごとに選ぶ。神経や血管、骨に届かない長さにする
- 神経が走っている部位を避けて刺す
- 針先が血管内に入っていないことを確かめる
- 刺したときに激痛を訴えたり血液が逆流したりしたら、直ちに針を抜いて部位を変える

針の長さを「被接種者ごとに決める」と書かれているのは、皮下脂肪の厚みが人によってまるで違うからです。同じ長さの針でも、痩せた人では骨に近づきすぎ、脂肪の厚い人では筋肉に届かず皮下注射になってしまう。届かなければ筋注として打ったことにならないので、体格を見て針を選ぶところまでが手技に含まれます。
針が付いていないので注射針を別に用意する
見落とされがちな実務がこれです。エフルエルダは0.7mLのシリンジに薬液が充填された形で供給されますが、注射針は付いていません。滅菌済みのディスポーザブル注射針を別に用意する必要があります。
従来型の「生研」は1mLのバイアルなので、バイアルのゴム栓をアルコールで消毒し、針を刺して必要量を吸い上げる形です。一度針を刺したバイアルは、遮光して10℃以下で保存し、24時間以内に使い切ります。準備の段取りそのものが違うので、両方を同じ日に扱う外来では動線を分けておくと取り違えを防げます。
抗凝固薬を飲んでいる人は接種要注意者に入っている
筋注に変わったことで、従来型には無かった注意が1つ増えました。エフルエルダの添付文書には、血小板減少症、凝固障害のある人、抗凝固療法を受けている人が接種要注意者として挙げられています。理由は、筋肉内注射の部位で出血するおそれがあるためです。
従来型HAワクチン「生研」の添付文書には、この項目はありません。皮下注射なので出血のリスクの考え方が違うからです。
接種要注意者は禁忌ではなく、「予診をよく行い、必要性と副反応を説明したうえで、注意して接種するかどうかを判断する人」という位置づけです。ワルファリンや直接経口抗凝固薬(DOAC)を飲んでいる高齢者は珍しくないので、問診票の抗凝固薬の欄を、従来型のとき以上に丁寧に確認することになります。
予診で見る項目を、2つに分けて並べます。左は「注意して打つかどうかを判断する人」、右は「その日は打たない人」です。混同すると、打てる人を帰してしまったり、打ってはいけない人に打ってしまったりします。
つまり、高用量に切り替わると「打つ前に見る項目」が1つ増える。ここは病棟でも外来でも、事前の申し送りに入れておきたいところです。
誰に何回打てるか(対象年齢と接種回数)
効能・効果は、どちらも「インフルエンザの予防」で変わりません。違うのは、誰に何回打てるかです。
エフルエルダは60歳以上に1回、従来型は生後6か月から
エフルエルダの用法・用量は、60歳以上の人に0.7mLを1回、筋肉内に接種します。回数の選択肢はありません。
従来型は年齢で細かく分かれます。生後6か月以上3歳未満は0.25mLを2回、3歳以上13歳未満は0.5mLを2回、13歳以上は0.5mLを1回または2回です。2回打つ場合の間隔は、乳幼児と小児がおよそ2〜4週間、13歳以上がおよそ1〜4週間。免疫効果を考えると4週間あけるのが望ましいと添付文書に書かれています。
| 年齢 | 従来型(皮下注) | エフルエルダ(筋注) |
|---|---|---|
| 生後6か月以上3歳未満 | 0.25mL×2回 | 使えない |
| 3歳以上13歳未満 | 0.5mL×2回 | 使えない |
| 13歳以上60歳未満 | 0.5mLを1回または2回 | 使えない |
| 60歳以上 | 0.5mLを1回または2回 | 0.7mLを1回 |
60歳未満には使えない
エフルエルダの承認された適応は60歳以上です。59歳以下に接種することは適応外にあたります。「基礎疾患があるから若くても高用量を」という考え方は、承認の範囲を外れます。
もともと高齢者の免疫老化を前提に設計されたワクチンなので、若い人での有効性と安全性は国内の承認にあたって評価されていません。妊婦・授乳婦や小児についても、60歳以上という適応の外なので対象になりません。
添加剤・保存・包装で現場が困るところ
細かく見えて、現場では効いてくる違いです。チメロサールの有無、保存温度、開封後の扱いが変わります。
チメロサールの有無は製剤ごとに確認する
チメロサールは、細菌が増えないようにするために古くから使われてきた水銀化合物の保存剤です。
従来型HAワクチン「生研」は、1mL中にチメロサールを0.004mg含んでいます。添付文書には、チメロサール含有製剤の接種により過敏症を示したことがある人には注意する旨の記載があります。
一方、エフルエルダの添加剤は塩化ナトリウム、無水リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム一水和物、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルで、チメロサールの記載はありません。
標準用量の製剤は複数の会社が製造していて、添加剤の内容は製品ごとに違います。「従来型はすべてチメロサール入り」とは言えません。過敏症の既往がある人には、手元の製品の添付文書で確認してください。
保存温度と有効期間、開封後の扱い
エフルエルダは凍結を避けて2〜8℃で保存し、有効期間は12か月です。従来型「生研」は凍結を避けて10℃以下で保存し、有効期間は製造日から1年、外箱を開けた後は遮光して保存します。
差が出るのは開封後です。「生研」は一度針を刺したら、遮光して10℃以下で保存し、24時間以内に使い切ります。1mLのバイアルなので複数回分を取れますが、時間の制限がつきます。エフルエルダは1シリンジで1回分なので、この管理は発生しません。
つまり、バイアルは「開けたら時計が動き出す」、シリンジは「開けたら使い切り」。集団接種の日程を組むときに効いてくる違いです。
なぜ高齢者に高用量ワクチンが考えられたのか
理由は1つで、高齢者では従来型ワクチンの効きが落ちるからです。ここが分かると、なぜ適応が60歳以上に限られているのか、なぜ若い人向けの製品が作られないのかが一本でつながります。
免疫老化で、高齢者ではワクチンの効きが落ちる
免疫老化とは、加齢に伴ってT細胞がつくられる量が減り、細胞が老化し、代謝が変わることで、免疫の反応そのものが鈍くなる現象です。感染症にかかる頻度が上がる背景にもなっています。
ワクチンで言えば、写真を見せても覚えてくれる係の人手が減っている状態です。同じ枚数を見せても、記録に残る量が減る。だから抗体の上がり方が鈍ります。
海外のシステマティックレビュー・メタ解析では、インフルエンザワクチンの効果は65歳以上で30.6%、18歳未満で48.6%、18〜64歳で36.7%と、高齢者で明らかに低い結果でした。国内のメタ解析でも、65歳未満の40.1%に対して65歳以上は12.9%でした。
つまり、いちばん重症化する危険が高い人たちで、いちばんワクチンの効果が落ちる。この食い違いを埋めるために抗原量を増やしたのが高用量ワクチンです。だから適応は60歳以上に限られていて、免疫の反応が保たれている若い世代では、量を増やす理由がそもそもありません。
標準用量ワクチンの高齢者での有効性はどれくらいか
効果が落ちるとはいえ、従来型ワクチンが無意味というわけではありません。ここを誤解させると、接種そのものを避ける人が出ます。
国内の研究では、高齢者福祉施設の入所者で、発病を34〜55%阻止し、インフルエンザを契機とした死亡を82%阻止したと報告されています。ただしこれは特定のシーズンの観察研究で、流行株とワクチン株の一致具合によって数字は動きます。あくまで目安として扱ってください。
効果の持続についても、従来型の添付文書に記載があります。3週間隔で2回接種した場合、接種1か月後に77%が有効予防水準に達し、3か月後で78.8%、5か月後には50.8%に下がります。株が一致した場合の効果の持続は3か月です。
この数字は接種時期の相談にそのまま使えます。日本では例年12月から3月に流行し、1月末から3月上旬にピークを迎えるので、12月中旬までに接種を終えておくのが望ましいとされています。「早すぎると切れませんか」と聞かれたときの根拠が、この持続期間です。
高用量ワクチンの効果はどこまで示されているのか
結論を先に言うと、示されているのは「従来型と比べてどれだけ上乗せされるか」という相対的な差であり、その数字は何を測ったかによって大きく変わります。ここを一つの数字にまとめてしまうと、必ず説明がずれます。
| 何を測ったか | 従来型と比べた結果 |
|---|---|
| 接種28日後の抗体価 | 株により2〜3倍高い(国内・60歳以上) |
| 検査で確定した インフルエンザの発症 | 24.2%少ない(海外・65歳以上) |
| 肺炎またはインフルエンザ による入院 | 8.8%少ない(海外・65歳以上) |
| 検査で確定した インフルエンザによる入院 | 31.9%少ない(同上・副次評価項目) |
| 心肺疾患による入院 | 6.3%少ない(同上・副次評価項目) |
| 原因を問わない入院 | 2.2%少ない(同上・副次評価項目) |
国内試験で示されたのは抗体価であって発症予防そのものではない
国内で行われた第III相試験は、60歳以上の日本人2,100例を対象に、高用量(筋注)と国内既承認の標準用量(皮下注)を比べたものです。ここで測られた主な項目は抗体価と抗体陽転率で、実際にインフルエンザにかからなかったかどうかではありません。
結果は、接種28日後の抗体価が株により標準用量の2〜3倍、抗体がついた人の割合は標準用量の40〜50%程度に対して高用量が70〜80%程度で、あらかじめ決めた優越性の基準を満たしました。
抗体価は「効きそうかどうかの代わりの目印」です。実際の発症をどれだけ防いだかは、別の試験で確かめる必要があります。国内試験の結果だけを根拠に「日本人で発症予防効果が証明された」と言うのは、一歩踏み込みすぎです。
発症を24.2%減らした試験と、入院を8.8%減らした試験は別物
この2つの数字は、よく混ざって伝わっています。24.2%は「発症」の相対有効率であって、入院が24%減ったという意味ではありません。
24.2%のもとになったのは、北米で65歳以上を対象に行われた大規模なランダム化二重盲検比較試験です。主要な評価項目は検査で確定したインフルエンザの発症で、発症率は高用量群1.43%、標準用量群1.89%。その差から算出された相対的なワクチン有効率が24.2%でした。
入院への効果を見たのは別の試験です。デンマークとスペインで65歳以上の延べ466,320人を組み入れた2つの大規模試験を、あらかじめ決めた方法で統合した解析があり、主要な評価項目である肺炎またはインフルエンザによる入院を8.8%低下させました。
副次的な評価項目では、検査で確定したインフルエンザによる入院が31.9%、心肺疾患による入院が6.3%、原因を問わない入院が2.2%それぞれ低下しています。
数字がこれだけばらつくのは当然です。網の目が細かいアウトカムほど差は大きく出て、網が粗いアウトカムほど差は小さく出ます。「検査で確定したインフルエンザによる入院」はワクチンが直接効く相手なので31.9%と大きく、「原因を問わない入院」には骨折も心不全も含まれるので2.2%にとどまる。同じワクチンの同じ解析でも、こうなります。
つまり、患者さんや家族に伝えるときは「何が何%減るのか」をセットにする。これを外すと、期待値だけが独り歩きします。
年齢が上がるほど上乗せが大きい傾向
ランダム化比較試験と観察研究をまとめたシステマティックレビュー・メタ解析でも、65歳以上でインフルエンザ様疾患の発症、インフルエンザ関連の入院、肺炎による入院、心血管疾患による入院など複数の項目が、従来型より低い結果でした。
注目したいのは年齢による傾向です。インフルエンザ様疾患の発症で見ると、65歳以上全体の14.3%に対して75歳以上では24.8%と、年齢が上がるほど上乗せ分が大きくなっています。
理屈で考えると自然です。もともと従来型の効果が落ちる人ほど、抗原を増やしたときの伸びしろが大きい。この傾向が、後述する「まず75歳以上から」という制度設計の根拠の1つになりました。
副反応は従来型と比べて強いのか
先に答えを言うと、注射部位の痛みなど軽い反応は高用量のほうが多い一方、重篤な有害事象の頻度は従来型と同程度というのが、これまでに示されている結果です。
注射部位の痛みは高用量で多い
エフルエルダの添付文書では、10%以上に見られる副反応として注射部位疼痛43.8%、頭痛、筋肉痛、倦怠感が挙げられています。0.1〜10%未満には紅斑、腫脹、硬結、内出血、そう痒感、下痢、嘔吐、悪寒、発熱、疲労などが並びます。
従来型全体の目安としては、注射した部位の発赤・腫脹・疼痛が接種者の10〜20%程度、発熱・頭痛・悪寒・倦怠感といった全身の反応が5〜10%程度です。いずれも通常2〜3日で消えます。
国内の第III相試験では、質的な違いも見えています。局所の発赤や腫脹は皮下注射の標準用量でやや高く、局所の痛みと全身の反応は筋肉内注射の高用量でやや高い傾向でした。両群とも大多数は軽度で、発熱の頻度は1%未満でした。
打ち方が変われば出方も変わります。浅く入れれば表面が赤く腫れ、深く入れれば筋肉が張って痛む。だから「腫れは減るかもしれないが、痛みは強く感じるかもしれない」と先に伝えておくと、あとから不安の電話が減ります。
重い副反応の項目は従来型と同じ
重大な副反応として添付文書に挙げられている項目は、高用量と標準用量で同じです。
ショック・アナフィラキシー、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、脳炎・脳症・脊髄炎・視神経炎、ギラン・バレー症候群、けいれん、肝機能障害・黄疸、喘息発作、血小板減少性紫斑病・血小板減少、血管炎、間質性肺炎、皮膚粘膜眼症候群および急性汎発性発疹性膿疱症、ネフローゼ症候群です。
副反応疑い報告の基準についても、標準用量に合わせて変更しない方針が示されています。
厚生労働省の小委員会は、局所反応や筋肉痛、頭痛、発熱などの全身性の有害事象は高用量で頻度が高い傾向にあるものの、軽度から中等度の一過性のものが多く、重篤な有害事象の頻度は同程度で、重大な懸念は認められないと評価しています。
患者さんに伝えるときの言い方にすると、こうなります。「腕は痛くなりますが、危険性が跳ね上がるわけではありません」。
接種後の失神(血管迷走神経反射)に注意する
エフルエルダの添付文書には、接種後に恐怖心や疼痛をきっかけとした血管迷走神経反射として失神があらわれることがあり、接種後一定時間は座らせるなどしたうえで観察することが望ましいと記載されています。
血管迷走神経反射は、痛みや緊張で自律神経が過剰に反応し、血圧と脈が下がって一時的に意識が遠のく現象です。ワクチンの成分による反応ではなく、採血で気分が悪くなる人がいるのと同じ仕組みです。倒れて頭を打つほうが問題になるので、立たせないことが対策になります。
あわせて、アナフィラキシーの観点から接種後30分は医療機関の中で安静にして様子を見ることが勧められています。筋注に変わって痛みが強く出るぶん、待機の声かけはこれまで以上に丁寧にしたいところです。
接種後にじんましん、息苦しさ、顔やのどの腫れが出た場合はただちに医療機関へ。接種から数日〜2週間のうちに、発熱・頭痛・けいれん・意識の障害、手足に力が入らない、しびれが広がるといった症状が出たときも、すみやかに受診するよう説明します。
定期接種はどうなるのか(2026年度は従来型のみ)
ここが2026年8月時点でいちばん誤情報の多いところです。令和8年度(2026/27シーズン)のインフルエンザ定期接種は、引き続き従来型のインフルエンザHAワクチンのみで実施されます。
令和8年度の定期接種は従来型HAワクチンのみで実施される
厚生労働省は2026年7月21日付の事務連絡「令和8年度のインフルエンザに係る定期の予防接種について」で、令和8年度のインフルエンザの定期接種は引き続きインフルエンザHAワクチンのみを用いることとし、高用量インフルエンザHAワクチンについては令和8年度の定期接種では使用しないと各自治体に通知しました。
理由は有効性や安全性の問題ではありません。製造販売業者から、製造工程における技術的な課題により令和8年度の流行期からの供給が困難である旨の報告があったためです。
定期接種の対象そのものは従来どおりです。インフルエンザは予防接種法上のB類疾病で、対象は65歳以上の人、および60歳以上65歳未満で心臓・腎臓・呼吸器の機能障害またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能障害があり、日常生活がほとんど不可能な程度の人です。目的は個人の発病と重症化の防止に置かれています。
自己負担額と実施期間は自治体ごとに毎年度決まります。無料の自治体もあれば、2,500円程度の自己負担を設定している自治体もあります。金額と期間は必ずお住まいの自治体の案内で確認するよう伝えてください。
一度は決まっていた「75歳以上でエフルエルダ」はどうなったか
2026年2月12日の第64回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会で、令和8年度の流行期から、定期接種に用いるワクチンとして高用量インフルエンザHAワクチンを位置づける方針が了承されていました。対象は75歳以上とされ、標準用量か高用量のいずれかを毎年度1回という形が想定されていました。
75歳という線引きには根拠がありました。高用量の上乗せ効果が年齢とともに大きくなる傾向にあること、費用対効果の分析で75歳以上に導入する方針が最も優れていたこと、そしてワクチンの安定供給と国内の生産体制を維持する観点です。65歳以上全員に広げても費用対効果は良好と評価されていました。
この方針が、供給の問題を受けて2026年7月に見送られたという流れです。方針そのものが撤回されたわけではなく、令和8年度の定期接種では使用しないことが決まった、という段階です。今後の扱いは、供給の見通しが立った段階であらためて示されることになります。
自治体によっては、令和8年度の案内に「75歳以上は高用量も選べます」と書かれた資料が先に出ていた可能性があります。患者さんが持ってきた自治体の案内と、目の前の運用が食い違うことがあり得るので、問い合わせを受けたときは最新の通知に沿って説明してください。
学会は60歳以上への接種を推奨しているが、現時点では入手できない
日本感染症学会インフルエンザ委員会は2026年6月27日、高用量不活化インフルエンザワクチンの使用についての見解を出しています。定期接種の対象が75歳以上であることを踏まえたうえで、適応年齢である60歳以上のすべての人に接種を推奨するという内容です。
海外では、米国CDCと英国JCVIが高用量ワクチンなどを標準用量より優先することを推奨し、ドイツは60歳以上に推奨しています。
ただし、この見解が出されたのは発売時期の変更が公表される前です。2026年8月時点では、国内で高用量ワクチンを入手する手段がありません。定期接種でも任意接種でも、打ちたくても打てないというのが現状です。
この時期のインフルエンザ予防としてできることは、従来型HAワクチンを流行前に接種することです。高齢者では効果が落ちるとはいえ、発病と死亡を減らす方向の報告があり、定期接種として位置づけられている根拠もそこにあります。「高用量を待って、今年は打たない」という判断にならないよう説明することが、現時点でいちばん実務的なポイントです。
患者や家族に聞かれたとき、どう説明するか
窓口や病棟で実際に返せる言い回しを、3つの場面でまとめます。
「新しいワクチンが出たと聞いた」と言われたら
まず、承認と発売は別だという点をほどいてから話すと伝わります。
- 高齢の方向けに、抗原の量を4倍にしたインフルエンザワクチンが国の承認を受けています
- ただし、製造工程の準備が間に合わず、今シーズンはまだ発売されていません
- 今年度の公費のインフルエンザ予防接種は、これまでどおりのワクチンで行います
- 今年打たない理由にはならないので、流行前に接種しておくことをおすすめします
「効かないから中止になった」と受け取られないよう、理由が供給側にあることをはっきり言うのが大事です。ここを曖昧にすると、従来型への不信につながります。
「4倍量は危なくないのか」と言われたら
量が4倍という言葉の印象が強いので、何が増えて何が増えないのかを分けて答えます。
増えるのは、腕の痛みや筋肉痛、頭痛、だるさといった軽い反応の起こりやすさです。多くは軽度から中等度で、数日で治まります。一方、重い副反応の項目は従来型と同じで、重篤な有害事象の頻度も同程度と評価されています。
「量が4倍だから副反応も4倍」ではありません。増えているのは覚えさせる材料の量であって、体に毒になるものを4倍入れているわけではないという説明が、いちばん腑に落ちてもらえます。
「mRNAワクチンなのか」と言われたら
違います。ここは断言して構いません。
国内で高齢者に使えるインフルエンザワクチンは、標準用量のHAワクチンと高用量のHAワクチンの2種類で、どちらもウイルスを壊して一部を取り出した不活化ワクチンです。このほかに経鼻の弱毒生ワクチンがありますが、2歳以上19歳未満が対象で定期接種の対象外です。
インフルエンザ用のmRNAワクチンやレプリコン(自己増幅型mRNA)ワクチンは、国内で承認も使用もされていません。レプリコンワクチンは新型コロナウイルス感染症用のもので、インフルエンザとは別の話です。組換えタンパク型ワクチンとアジュバント添加型の不活化ワクチンも、国内では未承認です。
不安を否定するのではなく、「そのタイプのインフルエンザワクチンは日本にはありません」と事実で答えるのがいちばん早く収まります。
よくある質問
- 卵アレルギーがあると接種できませんか
-
どちらも発育鶏卵でつくられるため、鶏卵や鶏肉などにアレルギーを起こすおそれのある人は接種要注意者とされています。禁忌ではなく、予診のうえで判断する扱いです。ただし、その成分でアナフィラキシーを起こしたことがある人は接種不適当者になります。自己判断せず医師に相談するよう伝えてください。
- 2025/26シーズンから4価ではなく3価になったのはなぜですか
-
B型の山形系統が世界的に検出されなくなったため、世界保健機関(WHO)の指針に沿って除外されました。2026/27シーズンの製造株はA/H1N1、A/H3N2、B/ビクトリア系統の3株です。株が減ったから効果が落ちた、ということではありません。
- 他のワクチンと同時に接種できますか
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どちらの添付文書にも、医師が必要と認めた場合は他のワクチンと同時に接種できると記載されています。ただし同じ注射器で混ぜることはできず、接種部位を変える必要があります。定期接種の実施要領でも、同時接種は医師が特に必要と認めた場合に行えるとされ、他のワクチンとの接種間隔の定めは置かれていません。
- ワクチンを打ったせいでインフルエンザにかかることはありますか
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不活化ワクチンなので、接種によってインフルエンザを発病することはありません。ウイルスを壊して一部だけを取り出しており、増える力が残っていないためです。なお、2歳以上19歳未満が対象の経鼻の弱毒生ワクチンは生きたウイルスを使うため、この点の扱いが異なります。
- 健康被害が起きたとき、救済制度はどうなりますか
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定期接種として受けた場合は予防接種法に基づく健康被害救済制度、自費の任意接種として受けた場合は医薬品副作用被害救済制度や生物由来製品感染等被害救済制度が窓口になります。どちらに当たるかで申請先が変わるため、接種した医療機関か自治体に確認するよう案内してください。
エフルエルダ筋注と従来型HAワクチンの違い(まとめ)
- 違いは3つ。抗原量が1株15µgから60µgへ、皮下注射から上腕三角筋への筋肉内注射へ、対象年齢が60歳以上に限られる
- エフルエルダは2024年12月27日に承認されたが、2026年8月時点で国内では未発売
- 令和8年度の定期接種は従来型HAワクチンのみ。高用量は使用しない(2026年7月21日 厚生労働省事務連絡)
- 効果の上乗せは評価項目ごとに違う。発症24.2%、肺炎・インフルエンザによる入院8.8%、検査確定インフルエンザによる入院31.9%
- 注射部位の痛みは高用量で多いが、重大な副反応の項目は従来型と同じで、重篤な有害事象の頻度も同程度
- 抗凝固療法中・血小板減少症・凝固障害のある人は、高用量では接種要注意者に入る
この記事の結論を1つに絞るなら、「高用量は高齢者向けに抗原量を増やし、打ち方を筋注に変えたインフルエンザHAワクチンだが、2026年8月時点の日本ではまだ使えない」ということです。違いを理解しておく価値はありますが、今シーズンの選択肢としては挙がりません。
そのうえで、外来や病棟で確認したいことを整理します。
まず、問い合わせを受けたら「今年度の公費接種は従来型のみ」と答えられる状態にしておくこと。自治体の案内が先に配られている場合、患者さんの手元の情報のほうが古いことがあります。そのうえで、今年の接種を先送りしないよう促してください。
定期接種の対象は65歳以上と、60歳以上65歳未満で心臓・腎臓・呼吸器の機能障害またはHIVによる免疫機能障害がある人です。費用と実施期間は自治体ごとに違うので、金額を断定せず案内で確認してもらいます。
次に、高用量が使えるようになったときに備えて、確認する項目が1つ増えることを頭に入れておくこと。抗凝固療法中かどうかです。あわせて、針が付属しないこと、皮下注射では打てないこと、60歳未満には使えないことも、切り替え時に取り違えが起きる場所です。
最後に、卵アレルギーの人や過去に接種後の体調不良があった人など、判断が要るケースは主治医に確認するよう伝えます。どのワクチンを選ぶかを決めるのは主治医で、この記事の役割はそのときに話す材料をそろえることです。制度と発売の状況は今後動くので、接種の前には厚生労働省と自治体の最新の案内を確認してください。
参考文献
- エフルエルダ筋注 添付文書(サノフィ株式会社、2024年12月作成・第1版/PMDA掲載)
- エフルエルダ筋注 インタビューフォーム(サノフィ株式会社、2025年4月改訂・第2版)
- インフルエンザHAワクチン「生研」添付文書(デンカ株式会社/製造販売、2026年7月改訂・第10版)
- 厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部予防接種課 事務連絡「令和8年度のインフルエンザに係る定期の予防接種について」(令和8年7月21日/岡山県ホームページ掲載)
- 「エフルエルダ®筋注」発売時期変更のご案内(サノフィ株式会社、2026年7月/厚生労働省ホームページ掲載)
- 厚生労働省「高用量インフルエンザワクチンについて」第64回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 資料1-4(2026年2月12日)
- 日本感染症学会インフルエンザ委員会「高齢者に対する高用量不活化インフルエンザワクチンの使用について〜医療機関の皆様へ〜」(2026年6月27日)
- 厚生労働省「インフルエンザワクチン(季節性)」・インフルエンザQ&A(2025年12月19日版)




