帯状疱疹を予防するワクチンには、乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」とシングリックスの2種類があります。効果も、接種回数も、費用も違い、さらに打てる人の範囲まで違います。2択で迷いやすいのは、比べるべき項目が多すぎるからです。
この記事では、厚生労働省の資料と両剤の添付文書をもとに、2剤の違いを整理しました。効果と持続、接種回数と打ち方、副反応の出方、打てない人の線引き、費用と定期接種のしくみの順に見ていきます。
- 生水痘ワクチンとシングリックスの効果・回数・費用の違い
- 免疫が低下している人ではどちらが選択肢になるか
- 副反応の発現率と、どれくらいで治まるかの目安
- 定期接種の対象者と、自己負担の考え方
シングリックスと生水痘ワクチンの違いを早見表で
帯状疱疹を予防するワクチンは、国内に2種類あります。乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」(以下、生水痘ワクチン)と、シングリックス筋注用(以下、シングリックス)です。前者は生きたウイルスを弱めて打つ生ワクチン、後者はウイルスを含まない組換えワクチンです。
費用は5倍ほど開きます。まず全体像を押さえます。
分かれ目になるのは3つ(免疫の状態、効果の持続、回数と費用)
比較項目はたくさんありますが、実際に選択を決めているのは次の3つです。
- 免疫の状態。免疫を抑える治療を受けている人には、生水痘ワクチンは接種できません。ここに当てはまると、選択肢はシングリックスだけになります。
- 効果の高さと持続。厚生労働省の整理では、どの時点で比べてもシングリックスのほうが高く出ています。
- 回数と費用。生水痘ワクチンは1回で完了し、費用も抑えられます。シングリックスは2回必要で、自費なら4万円台になることもあります。
1つ目は医学的な線引きなので、本人の希望では動きません。2つ目と3つ目は、その人が何を優先するかで答えが変わります。つまり、最初に確認するのは「免疫を抑える治療を受けているか」です。
2剤ひと目比較表
| 項目 | 生水痘ワクチン「ビケン」 | シングリックス |
|---|---|---|
| 分類 | 生ワクチン(弱毒化した生きた水痘ウイルス) | 組換えワクチン(ウイルスを含まない) |
| 効能・効果 | 水痘の予防/50歳以上の者に対する帯状疱疹の予防 | 帯状疱疹の予防(水痘の予防には転用できない) |
| 接種回数 | 1回 | 2回 |
| 接種方法 | 皮下注射(上腕伸側) | 筋肉内注射(上腕三角筋部) |
| 接種間隔 | 1回で完了 | 通常2か月あけて2回目。2か月を超えても6か月後までに |
| 帯状疱疹の予防効果 (1年/5年/10年時点) | 6割程度/4割程度/記載なし | 9割以上/9割程度/7割程度 |
| 帯状疱疹後神経痛の予防効果(3年時点) | 6割程度 | 9割以上 |
| 主な副反応の出方 | 接種部位の発赤44.0%など。全身の反応は3.9%と少ない | 接種部位の反応81.5%、全身の反応58.2%。多くは2〜3日で軽快 |
| 免疫が低下している人 | 接種できない | 免疫の状態にかかわらず接種できる |
| 費用の目安(自費) | おおむね8,000〜10,000円(1回) | おおむね22,000〜26,000円×2回 |
表の10年時点が生水痘ワクチンだけ空欄なのは、書き忘れではありません。理由は後の章で説明します。
生ワクチンと組換えワクチン、仕組みはどう違うのか
仕組みの話は飛ばしたくなりますが、ここを押さえると後の説明が全部つながります。「なぜ免疫が下がっている人に生ワクチンが打てないのか」も、「なぜシングリックスは副反応が出るのか」も、答えはこの章にあります。
前提として、帯状疱疹は新しく感染してかかる病気ではありません。子どものころの水ぼうそう(水痘)のあと、神経節に潜んだ水痘帯状疱疹ウイルスが、再び暴れ出して起こります。これを普段抑え込んでいるのが細胞性免疫です。ウイルスに感染した細胞を見つけて叩く側の免疫で、加齢とともに落ちていきます。
つまり、どちらのワクチンも「落ちてきた細胞性免疫を、もう一度持ち上げる」ために打ちます。持ち上げ方が違うだけです。
生水痘ワクチン「ビケン」は弱毒化した生きたウイルスを打つ
生水痘ワクチンの中身は、弱毒化した生きた水痘ウイルス(岡株)です。0.5mL中に1000PFU以上を含みます。PFUはウイルスの量を数える単位で、感染性のあるウイルス粒子がどれだけ入っているかを表します。
本物のウイルスを弱めたものを軽く感染させ、免疫に「この顔つきの相手だ」と思い出させる設計です。もともとは水痘(水ぼうそう)の予防のためのワクチンで、2016年3月18日に「50歳以上の者に対する帯状疱疹の予防」が効能に追加されました。
着地はここです。弱めてあるとはいえ生きたウイルスなので、免疫が十分に働かない人に打つと、ウイルスが抑え込まれずに増えてしまうおそれがあります。だから免疫を抑える治療を受けている人には打てません。
シングリックスにウイルスは入っていない
シングリックスの中身は2つです。ウイルスの表面にあるgE(糖タンパク質E)という抗原、つまり免疫に覚えさせる似顔絵。そして、AS01Bというアジュバント、つまり「敵が来た」と鳴らすサイレンです。アジュバントは免疫の反応を強めるための添加物で、AS01BはMPLとQS-21という2つの成分を、リポソーム(中身を運ぶための小さな袋)に包んだものです。
似顔絵だけを見せても、加齢で眠くなった見張り役は起きてきません。サイレンをセットで鳴らすから、記憶が叩き起こされます。
着地は2つあります。実際にウイルスを感染させるわけではないので、免疫が下がっている人にも打てます。その一方で、免疫を無理やり起こす設計なので、発熱や筋肉痛が出やすくなります。
仕組みの差が、そのまま「打てる人」と「副反応の出方」の差になる
ここまでを1枚にすると、こうなります。
- 生水痘ワクチンは「生きたウイルスで思い出させる」。だから免疫が弱っている人には使えない
- シングリックスは「似顔絵とサイレンで叩き起こす」。だから免疫の状態を問わないが、反応が強く出る
- 接種後の発熱や筋肉痛は、サイレンが効いている裏返しであり、多くは数日で治まる
患者さんに説明するときは、この最後の1行が効きます。「副反応が出たのは体が反応している証拠で、数日で引きます」と先に伝えておくと、2回目の接種前に不安で来なくなる、という事態を減らせます。
効果と持続期間はどれくらい違うのか
結論から言えば、効果の高さと持続はシングリックスが明確に上です。ただし数字の読み方には注意が要ります。とくに生水痘ワクチンの「約5割」という数字は、出どころを知らずに使うと説明を間違えます。
厚生労働省が整理している比較(1年、5年、10年)
帯状疱疹の予防効果について、厚生労働省の「帯状疱疹ワクチン」のページでは次のように整理されています。
| 時点 | 生水痘ワクチン | シングリックス |
|---|---|---|
| 接種後1年 | 6割程度 | 9割以上 |
| 接種後5年 | 4割程度 | 9割程度 |
| 接種後10年 | 記載なし | 7割程度 |
| 帯状疱疹後神経痛(接種後3年) | 6割程度 | 9割以上 |
帯状疱疹後神経痛(PHN)は、皮疹が治まったあとも痛みが残る状態です。帯状疱疹でいちばん困る後遺症で、高齢になるほど起こりやすくなります。予防効果の差が3年時点で6割程度と9割以上なので、ここは実務上かなり大きな違いです。
10年時点が生水痘ワクチンだけ空欄になっているのは、効果がゼロという意味ではありません。国内で50歳以上に接種したときの免疫持続のデータがない、というのが理由です。インタビューフォームにもその旨が明記されています。
「生ワクチンは約5割」という数字はどこから来ているのか
生水痘ワクチンの予防効果として、51.3%という数字がよく使われます。これは米国のZOSTAVAXという製剤の試験の数値で、日本のビケンの試験の数値ではありません。同じ岡株から作られた本質的に同じワクチンなので援用されているのですが、国内データそのものではない点は押さえておく必要があります。
一方で、国内の数値も公的資料に載っています。国立感染症研究所の帯状疱疹ワクチンファクトシート(第2版)には、50歳以上を対象にした国内の報告として、帯状疱疹の予防効果27.8%、帯状疱疹後神経痛の予防効果73.8%と記載されています。
つまり、同じ資料の中に国内27.8%と海外51.3%が並んでいます。厚生労働省の表の「1年時点で6割程度」とも開きがあります。数字が割れているので、「生ワクチンの効果は◯%です」と1つの数字で言い切らないほうが正確です。
「日本のワクチンは力価が低いから効果が落ちる」という説明を見かけますが、国立感染症研究所のファクトシートは「ZOSTAVAXと比較して、日本の乾燥弱毒生水痘ワクチン『ビケン』はウイルス力価と大きな差はない」と記載しています。力価の差を理由にした説明は、この記載と食い違います。
持続についても、海外のZOSTAVAXでは接種後4〜7年で帯状疱疹の発症が39.6%減少、7〜11年では21.1%減少と、年数とともに下がっていくことが示されています。日本皮膚科学会の帯状疱疹診療ガイドライン2025も、発症予防効果は8年で統計学的に有意な効果が消失すると記載しています。生水痘ワクチンは打った直後がいちばん効いていて、年が経つほど薄れていく、と理解しておくのが実態に近いです。
シングリックス側は、国際共同の第III相試験で50歳以上97.16%、70歳以上89.79%という有効率が示されています。長期の追跡については、国立感染症研究所のファクトシートに、2回目接種後8年で83.3%以上、9年で72.7%、10年で73.2%と記載されています。厚生労働省の表の「10年時点で7割程度」は、この数字と整合します。
打っても帯状疱疹になることはある
有効率は「発症を減らす割合」であって、「打てば発症しない」ではありません。9割以上でも、残りは発症します。ここを説明せずに接種を勧めると、発症したときに「打ったのになぜ」となります。
実務では、次のように伝えると納得が得られやすくなります。ワクチンは発症そのものを減らし、発症しても軽く済ませ、帯状疱疹後神経痛が残るリスクを下げる。この3段構えで効いている、という説明です。

接種回数・打ち方・スケジュールの違い
生水痘ワクチンは皮下に1回、シングリックスは筋肉内に2回です。この差は、通院回数にも、当日の痛みの感じ方にも効いてきます。
皮下に1回か、筋肉内に2回か
用法用量は次のとおりです。
| 項目 | 生水痘ワクチン「ビケン」 | シングリックス |
|---|---|---|
| 1回量 | 溶解後0.5mL | 0.5mL |
| 経路 | 皮下注射 | 筋肉内注射のみ |
| 部位 | 通常は上腕伸側 | 通常は上腕三角筋部(臀部には接種しない) |
| 回数と間隔 | 1回 | 2回。通常は2か月あけ、2か月を超える場合も6か月後までに |
シングリックスは筋肉内注射のみで使う製剤です。添付文書には、皮下注射をすると注射部位の発赤や腫脹が増えることがある、と明記されています。「痛そうだから浅く」は成立しません。
2回目が遅れたとき、間隔を短縮できるとき
2回目の予定を過ぎてしまった、という相談は現場で実際によくあります。添付文書上は、2か月を超えた場合でも6か月後までに2回目を接種する、という記載です。数日から数週間ずれた程度で、1回目からやり直しになるわけではありません。
逆に、間隔を詰められる場合もあります。病気や治療によって免疫の機能が低下した、または低下する可能性がある人で、医師が早期の接種が必要と判断した場合は、間隔を1か月まで短縮できます。これから化学療法や免疫抑制療法を始める予定がある、という状況が典型です。
定期接種でシングリックスを選ぶ場合、2回目が対象年度をまたぐと2回目が全額自費になり得る、と案内している自治体があります。1回目を年度末近くに受けると起こりうる事態なので、接種前にお住まいの自治体の要綱を確認してください。
打つ側の実務も違う(針の長さ、溶解後の扱い、保管)
接種する側から見ると、この2剤は扱いがかなり違います。読者が患者側でも、待ち時間や当日の流れの違いとして表に出るところです。
- シングリックスは抗原製剤と専用溶解用液の2バイアル構成。貯法は2〜8℃で、凍結させてはいけません。有効期間は36か月。調製後はすぐに使用するのが原則で、すぐに使えない場合は遮光して2〜8℃で保管し、6時間以上経過したものは破棄します。筋肉内注射なので、体格に応じて針の長さを選ぶ必要があります
- 生水痘ワクチンは5℃以下で保存し、有効期間は製造日から30か月。日光に弱く、溶解の前後を問わず遮光が必要で、溶解後は直ちに使います
つまり、生水痘ワクチンは溶かしたら待てない製剤です。予約枠の組み方や、当日キャンセルが出たときの扱いに直結します。
副反応の違い(どれくらい出て、いつまで続くか)
「シングリックスは副反応がきつい」という評判は、数字の上では間違っていません。ただし、出る頻度が高いのと、危険であるのとは別の話です。ここを分けて説明できるかどうかで、接種をためらっている人の判断が変わります。
数字で見る発現率(局所と全身)
| 区分 | 生水痘ワクチン「ビケン」 | シングリックス |
|---|---|---|
| 接種部位の反応 | 発赤44.0%、そう痒感27.4%、熱感18.5%、腫脹17.0%、疼痛14.7%、硬結13.5% | 全体で81.5%(疼痛79.1%、発赤38.0%、腫脹26.3%) |
| 全身の反応 | 国内第III相試験で3.9% | 全体で58.2%(筋肉痛41.4%、疲労40.1%、頭痛33.9%など)。このほか発熱16.7% |
| 重大な副反応 | アナフィラキシー、免疫性血小板減少症、無菌性髄膜炎(いずれも頻度不明) | ショック・アナフィラキシー、ギラン・バレー症候群(いずれも頻度不明) |
目立つのは全身の反応の差です。3.9%と58.2%では、体感がまったく違います。シングリックスでは、腕の痛みに加えて筋肉痛や倦怠感、発熱が出ることが珍しくありません。多くは接種後2〜3日で軽快します。
逆に言えば、生水痘ワクチンは腕の反応が中心で、全身の反応は少なめです。翌日に仕事を休めない人にとっては、ここが判断材料になります。
2回目を控えている人にどう説明するか
1回目が軽かったから2回目も同じだろう、と構える人がいます。ただし出方が同じとは限りません。1回目が軽くても2回目に備えておくよう伝えておくと、当日以降の戸惑いを減らせます。
説明としては、次の3点を先に渡しておくと、当日以降の問い合わせが減ります。
- 腕の痛み、だるさ、発熱が出ることがあり、多くは2〜3日で治まる
- 1回目と2回目で出方が違うことがある。1回目が軽くても油断しない
- 翌日に大事な予定を入れない。接種日は週の後半にずらすと調整しやすい
解熱鎮痛薬を使ってよいかを聞かれることもあります。個々の併用の可否は服用中の薬や持病によって変わるため、その場で断定せず、接種した医療機関やかかりつけの薬剤師に確認してもらうのが確実です。
重大な副反応と、すぐ受診してもらう症状
頻度の高い局所反応と、頻度不明の重大な副反応は別物です。後者はまれですが、気づいたら受診が必要なものです。次の症状は、様子を見ずに医療機関へ、と伝えます。
接種後に、手足の力が入らない・しびれが上に広がる・歩きにくい(ギラン・バレー症候群を示唆)、紫斑や鼻出血・口の中の出血(免疫性血小板減少症)、発熱に強い頭痛や嘔吐・首のこわばりを伴う(無菌性髄膜炎)、じんましんや息苦しさ・血圧低下(アナフィラキシー)。いずれも速やかに医療機関を受診してください。
もう1つ、シングリックスの添付文書には、接種直後や接種後に血管迷走神経反射として失神があらわれることがある、と記載されています。転倒を避けるため、接種後は一定時間座らせて状態を観察することが望ましい、という注意です。生水痘ワクチンの添付文書に同じ記載はありません。接種後にすぐ立ち上がらせない運用は、シングリックスでとくに意識しておく点です。
打てない人・注意が必要な人
2剤の差がいちばん大きく出るのがここです。生水痘ワクチンは打てない人の範囲が広く、シングリックスは免疫の状態を問いません。感染制御認定薬剤師として現場で見ていても、選択が実質的に1つに決まるのはこの条件によることがほとんどです。
生水痘ワクチンが打てないのはどんな人か
帯状疱疹の予防として使う場合、次に当てはまる人は接種不適当者とされています。
- 明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する人
- 免疫抑制をきたす治療を受けている人
- 妊娠していることが明らかな人
さらに、副腎皮質ステロイド剤(プレドニゾロンなどの注射剤・経口剤)と、免疫抑制剤(シクロスポリン、タクロリムス、アザチオプリンなど)は併用禁忌です。長期または大量に投与されていた場合は、中止後6か月以内も接種しません。生物学的製剤やメトトレキサートなどで免疫抑制状態にある場合も避けます。
ここに矛盾があります。免疫が下がっている人ほど帯状疱疹になりやすいのに、その人にこそ生水痘ワクチンが打てません。日本皮膚科学会の帯状疱疹診療ガイドライン2025も、帯状疱疹発症リスクの高い患者に接種できないという現状がある、と記載しています。
だから実務では、まず服用中の薬を洗い出します。ステロイドや免疫抑制剤が入っていれば、その時点で生水痘ワクチンは外れます。
妊娠、輸血・ガンマグロブリン、他の生ワクチンとの間隔
生ワクチン特有の時間の制約もあります。定期接種の主な対象は高齢者ですが、任意で接種する年代では妊娠の条件が効いてきます。
| 状況 | 生水痘ワクチンでの扱い |
|---|---|
| 妊娠中 | 接種不適当(禁忌) |
| 妊娠する可能性がある人 | 接種前約1か月は避妊し、接種後約2か月は妊娠を避ける |
| 輸血・ガンマグロブリン製剤のあと | 通常3か月あける。200mg/kg以上の大量療法後は6か月 |
| 他の注射生ワクチンとの間隔 | 27日以上あける |
なお、帯状疱疹ワクチンは、医師が特に必要と認めた場合に、インフルエンザワクチンや新型コロナワクチンなどと同時に接種することが可能とされています。高齢者向けのインフルエンザワクチンにも高用量の製剤とこれまでの製剤の違いがありますので、同じ時期に複数を検討している場合は、順番と間隔を医療機関で相談してください。
シングリックスは免疫が下がっていても打てる
シングリックスは、免疫不全または免疫機能が低下している(可能性がある)18歳以上の人も接種対象に含みます。造血幹細胞移植後、固形腫瘍や造血器腫瘍、腎移植後の患者などでの免疫原性と有効性のデータがあります。厚生労働省のリーフレットも、組換えワクチンの接種条件を「免疫の状態に関わらず接種可能」と記載しています。
接種不適当者として挙がっているのは、発熱している人、重篤な急性疾患にかかっている人、本剤の成分でアナフィラキシーを起こしたことがある人などが中心です。免疫の状態そのものは除外条件になりません。
これが、定期接種の対象に「60歳から64歳で、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方」が含まれている理由ともつながります。この層は生水痘ワクチンの接種不適当者に当たるため、実際にはシングリックスを選ぶことになります。
シングリックスで注意が要る人
免疫の状態を問わないとはいえ、無条件ではありません。筋肉内注射であることに由来する注意があります。血小板減少症、凝固障害のある人、抗凝固療法を受けている人は、注射部位から出血するおそれがあるため接種要注意者とされています。
ワルファリンや直接経口抗凝固薬を飲んでいる人は珍しくありません。添付文書が求めているのは薬を止めることではなく、接種する利益と出血のリスクを見比べて判断することです。判断するのは診察をした医師なので、お薬手帳を持参して、接種前に必ず申告してもらいます。



費用の違いと、定期接種のしくみ
以下の金額はいずれも2026年8月時点のもので、自治体と医療機関で変わります。目安として扱ってください。ここで押さえるべきなのは、金額そのものより「どういう枠組みで決まるか」です。
自費の相場と、定期接種の自己負担
両剤とも添付文書の「保険給付上の注意」に、本剤は保険給付の対象とならない(薬価基準未収載)と明記されています。つまり、定期接種や自治体の助成の枠から外れれば、全額自費です。
| 区分 | 生水痘ワクチン「ビケン」 | シングリックス |
|---|---|---|
| 自費の相場 | おおむね8,000〜10,000円(1回) | おおむね22,000〜26,000円(1回)を2回 |
| 定期接種の自己負担(例) | 広島市で4,900円 | 広島市で18,100円を2回 |
| 合計の目安 | 1万円前後で完了 | 4万円台から5万円になることもある |
表の自己負担額は一例です。助成額も回数の上限も自治体ごとに違い、生活保護世帯や市民税所得割非課税世帯は免除としている自治体もあります。実際の金額は、お住まいの自治体の案内で確認してください。
定期接種の対象者と経過措置
2025年度から、帯状疱疹ワクチンが予防接種法に基づく定期接種になりました。本人の希望で接種するB類疾病の枠です。対象は次のとおりです。
- その年度に65歳になる人
- 60歳から64歳で、HIVによる免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な人
- 経過措置として、2025年度から2029年度の5年間は、その年度内に70歳・75歳・80歳・85歳・90歳・95歳・100歳になる人も対象。100歳以上は2025年度に限り全員が対象
接種できるのは生水痘ワクチンか組換えワクチンのいずれか1種類で、機会は原則として生涯に1回です。過去に接種歴がある場合や罹患歴がある場合に対象になるかは、市町村への確認が必要です。健康被害が起きた場合は予防接種法の救済制度の対象になります(任意接種で受けた場合は医薬品医療機器総合機構の救済制度になります)。
65歳前後は、肺炎球菌ワクチンの定期接種の案内が届く時期とも重なります。どれをいつ受けるかで迷ったら、まとめて医療機関に相談したほうが整理がつきます。
値段だけの話ではない。公的な費用対効果分析はどう見ているか
「高いほうが効くのだからシングリックス一択」で終わらせない材料もあります。国立感染症研究所のファクトシートには、医療経済の観点からの分析が載っています。
そこでは、費用対効果の基準値を1QALY(質調整生存年、生きた年数を生活の質で重みづけした指標)あたり500万円および600万円に設定した場合、すべての年齢階層でいずれかのワクチン接種が非接種に比べて費用対効果の点で優れることが確認された、と整理されています。年齢別に見ると、50歳から65歳までは組換えワクチンが概ね優れていたものの、それ以上の年齢ではシナリオや基準値によって生ワクチンが推奨される場合もあった、とされています。
これはモデルを使った集団レベルの分析であって、一人ひとりの得失を決めるものではありません。「85歳なら生ワクチンのほうがよい」とは読めません。ただ、経過措置で85歳や90歳が対象になる年度がある以上、高年齢の人に「安いほうを選ぶのは損」と言い切るのは適切ではない、という根拠にはなります。
こんな場合はどちらを選ぶか
ここまでの内容を、実際に相談されやすい場面に当てはめます。決めるのは診察をした医師ですが、話をする前に材料があるかどうかで進み方が変わります。
免疫抑制治療を受けている、これから始める人
生水痘ワクチンは接種できません。ステロイドや免疫抑制剤との併用は禁忌で、長期・大量に使っていた場合は中止後6か月以内も避けます。したがって、検討の対象はシングリックスになります。
これから治療を始める場合は、時間の使い方が論点になります。医師が早期の接種が必要と判断すれば、シングリックスの間隔を1か月まで短縮できます。治療開始の予定が決まっているなら、そのスケジュールを持って早めに相談したほうが選択肢が残ります。
過去に帯状疱疹になった人、水疱瘡の記憶がない人
どちらも「打つ意味がない」わけではありません。厚生労働省のQ&Aでは、帯状疱疹や水痘にかかったことがある人も、ワクチンの種類にかかわらず定期接種の対象になるとされています。帯状疱疹は再発することがあり、日本皮膚科学会のガイドライン2025には国内の報告として6.41%という再発率が記載されています。
罹患してからどれくらいあければよいか、という質問には、国内の一次情報に明確な決まりが見当たりません。年数を断定せず、いつ発症したかを伝えたうえで主治医と相談する、というのが正確な答えになります。
水疱瘡にかかった記憶がない場合も、接種の意義は失われません。日本の成人はおよそ9割が水痘帯状疱疹ウイルスの抗体を持つとされており、覚えていないだけで感染している可能性が高いためです。どうしても確認したい場合は、水痘の抗体検査という手段もあります。
生水痘ワクチンをすでに打った人はシングリックスを打てるのか
正確な答えは「データがない」です。シングリックスの添付文書には、本剤と他の帯状疱疹ワクチンの互換性に関する安全性、免疫原性、有効性のデータはない、と記載されています。打てる、打ち直したほうがよい、と言い切れる根拠は国内にありません。
実務では2階建てで考えます。定期接種として受けられるかどうかは、接種記録を持って市町村に確認します。医学的に接種してよいかどうかは、医師の判断になります。制度上の可否と医学的な可否は別の窓口です。
米国では、帯状疱疹の既往の有無にかかわらず組換えワクチン2回が推奨されており、生ワクチンにあたるZOSTAVAXは2020年11月18日に販売を終了しています。ただし日本では2剤とも現役で、どちらも定期接種に使えます。海外の推奨をそのまま国内の推奨として読まないでください。
よくある質問
- 帯状疱疹ワクチンは何年おきに打ち直すのですか。
-
定期接種として受けられる機会は原則として生涯に1回です。追加接種の時期について、国内で確立した基準は見当たりません。効果が年数とともに薄れることは分かっているので、打ち直しを検討する場合は接種歴を持って医療機関で相談してください。
- シングリックスの2回目が6か月を過ぎてしまったらどうなりますか。
-
添付文書では、2か月を超える場合でも6か月後までに2回目を接種するとされています。それを過ぎた場合の取り扱いは定められていません。自己判断で見送らず、1回目を接種した医療機関に接種日を伝えて相談してください。
- 「帯状疱疹ワクチンは打たないほうがいい」という声もありますが。
-
接種後の発熱や強い腕の痛みが話題になりやすいことが背景にあります。頻度の高い副反応は多くが2〜3日で軽快する一方、重大な副反応は頻度不明とされています。持病や服用中の薬によって判断は変わるので、不安な点は接種前に医療機関で確認してください。
- 帯状疱疹は周囲の人にうつりますか。
-
帯状疱疹そのものがうつるのではなく、水疱瘡にかかっていない人に水痘として感染することがあります。水疱の中にウイルスがいるためです。感染性は水痘そのものより低いとされています。皮疹が乾いてかさぶたになるまでは、乳児や妊婦との接触を控えるよう説明します。
- 定期接種の対象年齢を過ぎていると接種できませんか。
-
公費の対象から外れるだけで、任意接種として自費で受けることはできます。金額は医療機関ごとに異なります。任意接種で健康被害が生じた場合の救済は、予防接種法ではなく医薬品医療機器総合機構の制度が窓口になります。
シングリックスと生水痘ワクチンの違い、選ぶときの整理
2剤の違いは項目が多く見えますが、実際に選択を動かしているのは限られています。
- 免疫を抑える治療を受けている人には生水痘ワクチンは接種できず、シングリックスが検討対象になる
- 効果と持続はシングリックスが上。厚生労働省の整理では5年時点で9割程度と4割程度の差がある
- 生水痘ワクチンは皮下に1回で完了し費用も抑えられるが、年数とともに効果は薄れていく
- シングリックスは接種部位の反応81.5%、全身の反応58.2%。多くは2〜3日で軽快する
- 生ワクチンの「約5割」は海外ZOSTAVAXの数値。国内の報告では27.8%とされ、単一の数字では語れない
- 定期接種は生涯1回が原則で、2回目が年度をまたぐと自費になり得る自治体がある
相談を受けたときに最初に確認するのは、年齢でも費用でもなく服用中の薬です。ステロイドや免疫抑制剤が入っていれば、その時点で生水痘ワクチンは外れ、話は「シングリックスをいつ打つか」に移ります。抗凝固薬が入っていれば、今度は筋肉内注射の出血リスクを主治医と詰める必要が出てきます。お薬手帳を1枚見るだけで、話の筋道が決まります。
そこが問題にならない人では、優先順位の確認になります。長く効かせたいならシングリックス、通院1回で済ませたい・費用を抑えたいなら生水痘ワクチン、という軸です。翌日に休みが取れるかどうかも、実際の相談ではよく決め手になります。
説明するときは、「打てば防げる」と言わないことです。発症を減らし、発症しても軽く済ませ、帯状疱疹後神経痛が残るリスクを下げる。この3段構えで伝えると、接種後に発症した場合でも話が食い違いません。最終的にどちらを接種するかは、持病と治療内容を確認したうえで主治医が判断します。
参考文献
- シングリックス筋注用 添付文書(グラクソ・スミスクライン、2026年6月改訂・第6版/PMDA掲載)
- 乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」 添付文書(阪大微生物病研究会、2026年6月改訂・第6版/PMDA掲載)
- 乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」 インタビューフォーム(阪大微生物病研究会、2026年6月改訂・第18版/PMDA掲載)
- 厚生労働省「帯状疱疹ワクチン」(Q&Aは2025年4月1日版)
- 厚生労働省「帯状疱疹ワクチンの定期接種を実施します。」リーフレット(2025年11月)
- 国立感染症研究所「帯状疱疹ワクチンファクトシート 第2版」(2024年6月20日改訂、2024年11月1日一部修正)
- 日本皮膚科学会「帯状疱疹診療ガイドライン2025」(日本皮膚科学会雑誌135巻3号、2025年3月20日発行)
- 米国疾病予防管理センター(CDC)「Shingles Vaccination」(2025年8月19日最終確認版。米国の推奨とZOSTAVAXの販売終了)
- 広島市「帯状疱疹ワクチンの定期接種」(令和8年度・2026年7月13日更新)






