今回は漢方薬の木防已湯(モクボウイトウ)について解説します。
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木防已湯の名前の由来
含まれる4種類の生薬(次項参照)のうち、主薬の木防已より木防已湯と命名されています。
木防已湯の作用機序と特徴
木防已湯は心臓疾患、腎臓疾患に基づくむくみや呼吸困難などに用いられている漢方薬で、含まれている生薬は石膏(セッコウ)、防已(ボウイ)、桂皮(ケイヒ)、人参(ニンジン)です。
東洋医学では漢方薬の適応を判断するため、個別の患者の状態を判断する「証」という概念を用います。
木防已湯に適応のある証はやや虚証・熱証・湿証であり、体力が低下気味でむくみやすく、ほてりがあるタイプの人に向いています。
添付文書には以下のように記載されています。
効能又は効果
顔色がさえず、咳をともなう呼吸困難があり、心臓下部に緊張圧重感があるものの心臓、あるいは、腎臓にもとづく疾患、浮腫、心臓性喘息用法及び用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。ツムラ木防已湯エキス顆粒(医療用)の添付文書より引用
漢方薬は科学的に作用機序が解明されていないものが多数ですが、木防已湯ではその有用性から科学的な研究も進められています。
防已・桂皮によって水分の停滞を取り除いてむくみの改善を促し、石膏・人参で胸部の息詰まった感覚を緩和して、効果を発揮しますが、心不全や不整脈に対して有用な効果を発揮し、生命予後を改善させることが報告されています。
ジギタリス製剤のような強心作用は、一時的に心機能を改善させるものの予後は悪化すると言われています。
しかし木防已湯では直接的な強心作用ではないジギタリス様作用であるため、心臓への負担が少なく、しかも血管平滑筋弛緩作用によって心負荷を軽減することが知られており、特に既存治療が有効ではない慢性心不全にも効果を発揮します。
また、PGI2やNOの産生を亢進させることに加え、カルシウムイオンチャネルの阻害効果も併せて血管平滑筋を弛緩させ、心筋の異常活動電位を抑制することで不整脈の症状も緩和します。
腎疾患を併発している場合でも、心臓・腎臓双方からの利水作用を発揮することで臓器への負担を軽減しており、心筋保護作用も発揮します。
木防已湯は人間に対して心筋保護作用、抗不整脈作用、血管平滑筋弛緩作用などを発揮しますが、犬の慢性心不全に対しても有用であることが報告されています。
通常のカルシウム拮抗薬やアンジオテンシン変換酵素阻害薬などでは、犬の身体的に副作用の発現率が極めて高く、長期間安全に使用することができません。
それに対して木防已湯では、下痢や嘔吐などの消化器症状が出ることはあるものの、時間経過とともに改善されることが多く、長期的な危険性は低いことから選択される薬剤となっています。
・PGI2(プロスタグランジンI2):血管内皮細胞から産生され、血小板機能抑制作用と血管拡張作用を持っている生体物質。
・NO(一酸化窒素):血管内皮細胞から産生され、血小板機能抑制作用と血管拡張作用を持っている生体物質。過剰に産生された場合には酸化物質として障害的に機能し、減少し過ぎた場合には血栓症や心疾患などの原因となってしまう。
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木防已湯の副作用
木防已湯では副作用の発現頻度が明確になる調査を行っていないため、その詳しい発生頻度は不明です。ただし、重大な副作用の報告はないため、比較的安全に使用できる漢方薬だと言えるでしょう。
報告されているその他の副作用は、食欲不振や胃部不快感、下痢などの消化器症状や、発疹・発赤などの過敏症状です。服用中にこれらの症状が現れた場合は、かかりつけの医師、薬剤師に伝えるようにして下さい。
木防已湯の飲み方と注意事項
木防已湯は1日2~3回に分けて空腹時に服用するのが効果的です。もし服用を忘れて食事をしてしまった場合には、効果は減弱してしまう可能性はありますが、気づいた時点で服用しても構いません。
木防已湯は生薬をお湯に煮出して服用するタイプの薬でしたが、使い勝手を考慮した結果として煮出した薬液を加工し、散剤としたものです。そのため服用する時には元の形に戻した方が効果的だと言われています。
あまりに熱いお湯では、薬効成分が揮発してしまうため、約60℃程度のぬるま湯で溶かして服用するのがよいでしょう。
木防已湯は、添付文書では「有益性が危険性を上回る場合に使用すること」となっていますが、切迫早産を予防する医薬品(ウテメリン)の副作用による動悸・頻脈を緩和する働きがあるため、妊娠中でも使用されることのある漢方薬です。
ただし使用する際には、必ず医師の指示のもとで使用するようにしましょう。
それでは木防已湯については以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。