今回は2017年9月に発売された、新たな抗ヘルペスウイルス薬アメナリーフについて解説します。
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アメナリーフとは?
アメナリーフ
はAmenaliefと表記されますが、インタビューフォームには名前の由来はなしと記載されていますね。ただ一般名のアメナメビル:Amenamevirから来ているような気もしますが…。
アメナリーフの作用を簡単に説明すると「帯状疱疹の原因となるウイルスの増殖を抑える」となります。
アメナリーフの作用機序と特徴
子供の頃に水ぼうそうに感染していると、症状は治まっていても、実は神経の内部にウイルスが潜伏し、発症の機会をうかがっています。
その状態で過労やストレスなどによって免疫が低下した時に、帯状疱疹などという形で顕在化してしまうのです。
ヘルペスウイルスには様々な種類が存在しますが、私達が注意しなければいけないのは、水痘(水ぼうそう)や帯状疱疹を引き起こす水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)です。
水痘・帯状疱疹ウイルスはDNAという遺伝子情報は持っていても、自分自身を複製するシステムを体内に持っておらず、他の動物の細胞を工場にして増殖するしかありません。
DNAにはタンパク質を生み出すための設計図が記載されていますが、ウイルスは自分自身のDNAを人間のDNAに紛れ込ませて、必要なタンパク質を産生するという手段を取っているのです。
水痘・帯状疱疹ウイルスは人間の二重らせん構造であるDNAをまず一本ずつにほどき、一本になったDNAに自分のDNAを合わせて、自分自身を複製させる方法で増殖します。
そこで登場するのが今回のアメナリーフです。
アメナリーフは、水痘・帯状疱疹ウイルスが人間のDNAをほどき、自分のDNAを合成する際に使用しているヘリカーゼ・プライマーゼ複合体を阻害し、DNA依存的ATPase活性も低下させることで、ウイルスの増殖を抑制します。
・ヘリカーゼ:DNAがタンパク質を合成する際に、DNAの二重らせん構造を分解して1本鎖にする酵素。
・プライマーゼ:DNAからタンパク質の合成をスタートさせる際、その起点となるタンパク質をプライマーと呼び、そのプライマーの合成を行うのがプライマーゼという酵素です。
・DNA依存的ATPase:細胞が何らかの挙動をする際に必要となるエネルギーは、ATPという物質を分解する時に生まれるものを使用しています。このATPを分解する酵素をATPaseといい、DNAに依存して産生されるものを「DNA依存的ATPase」と呼んでいます。
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他の抗ウイルス薬との違い
簡単に表にまとめました。
商品名 | 作用機序 | 用法・用量(帯状疱疹) | 代謝経路 | 単位薬価 | 常用量薬価 |
アメナリーフ錠200mg | ヘリカーゼ・プライマーゼ阻害 | 1回400mg 1日1回食後 | 肝代謝 | 1469.7 | 2939.4 |
ゾビラックス錠400 | DNAポリメラーゼ阻害 | 1回800mg 1日5回 | 腎排泄 | 165.5 | 1655 |
アシクロビル錠400mg(後発品) | DNAポリメラーゼ阻害 | 1回800mg 1日5回 | 腎排泄 | 56.1 | 561 |
バルトレックス錠500 | DNAポリメラーゼ阻害 | 1回1000mg 1日3回 | 腎排泄 | 405.6 | 2433.6 |
バラシクロビル錠500mg(後発品) | DNAポリメラーゼ阻害 | 1回1000mg 1日3回 | 腎排泄 | 155.4又は194.4 | 932.4又は1166.4 |
既存の抗ウイルス薬もウイルスのDNA合成を阻害することで効果を発揮します。
この言葉だけ見ると同じなのですが、既存の抗ウイルス薬が作用(阻害)する部分はDNAポリメラーゼと言う酵素であり、これはDNAがほどかれた後、合成を進めていく役割をもつ酵素になります。
一方のアメナリーフはDNAをほどき、合成のスタートを決める酵素を阻害、つまりウイルスが増殖するためのDNA複製を初期段階から阻害します。
以上から、アメナリーフの方が効果も早く、より顕著に作用すると考えられます。また、耐性ウイルスに対しても効果が期待できる医薬品と言えるでしょう。
また、既存の抗ウイルス薬の欠点として、
・1日3~5回の服用が必要
・腎機能によって用量の調節が必要
というものがありましたが、アメナリーフは1日1回の服用で、肝代謝であるために腎機能による用量調節が不要となっています。
薬価についてはバルトレックスと比較して1日505.8円、バルトレックスの後発品と比較して1773円又は2007円高いという計算になります。
また、アメナリーフの適応は「帯状疱疹のみ」であり、以下の適応はありませんので注意が必要です。
・単純疱疹
・造血幹細胞移植における単純ヘルペスウイルス感染症(単純疱疹)の発症抑制
・水痘
・性器ヘルペスの再発抑制
アメナリーフの副作用
アメナリーフには重大な副作用の報告はなく、主な副作用としてNAG増加、α1ミクログロブリン増加、フィブリン分解産物増加、心電図QT延長が報告されています。
あまり聞き慣れない専門用語が多いと思いますので、下記を参照して下さい。また発疹などの皮膚書状、吐き気、嘔吐、下痢などの消化器症状が現れる場合もあります。
・NAG:血液中に存在している加水分解酵素の一種で、通常は尿中に排泄されないもの。腎障害や尿細管傷害によって尿中に排泄される。
・α1ミクログロブリン:名前の通り、体内に存在している小さなタンパク質の一種。糸球体は通過するが尿細管から再吸収されるため、基本的には尿中に排泄されないもの。尿細管に機能障害が発生した場合、尿中に排泄されてしまう。
・フィブリン分解産物(FDP):出血を伴う怪我をした際、血液が凝固して止血されるが、その後に傷が回復し、凝固した血液が分解される際に生まれるのがフィブリン分解産物。この指標が増加している場合、何らかの血液凝固障害の可能性はあるが、原因となる疾患や怪我は数多くある為、この検査のみで疾病の確定はできない。
アメナリーフの相互作用(飲み合わせ)
アメナリーフは、代謝酵素であるCYP3A及びCYP2B6を誘導(増やす)することが知られており、さらにCYP3Aによって代謝を受けます。
そのため、CYP3Aを誘導する医薬品やCYP3Aによって代謝される医薬品との併用には注意する必要があります。
特に抗結核薬のリファンピシンと併用すると、相互にCYP3Aを誘導してしまい、どちらの血中濃度も低下してしまうことから併用禁忌となっています。
他にもCYP3Aを阻害するグレープフルーツジュースやクラリスロマイシン、CYP3Aの基質となるブロチゾラムやニフェジピン、CYP3Aを誘導するカルバマゼピン、セイヨウオトギリソウ含有食品、CYP2B6の基質となるエファビレンツ等併用に注意を要する医薬品があります。
お薬手帳を忘れずに提示するようにしてくださいね。
アメナリーフの注意事項
他の抗ウイルス薬と同様、発病初期に近いほど効果を発揮するのは同じです。そのため、皮疹出現後5日以内に投与を開始するようにします。また原則7日間使用し、効果判定を行います。自己判断で中止するのは避けて下さい。
アメナリーフはフィルムコーティング剤であるため、つぶすことは控えるように添付文書には記載されています。
適用上の注意
服用時
本剤はコーティングを施しているので、錠剤をつぶすことなく服用させること。
ただ吸湿性はなく、各種条件下でも3か月間の安定性が確認されており、粉砕不可ということではないように考えられますが、識別性向上の目的や味の問題などが影響しているようですね。
また食事の影響を受けることが報告されているため、食後で服用する必要があります。空腹時の服用では吸収が遅延してしまい、血中濃度の低下や効果発現までの時間延長が起きる可能性があります。
最後に授乳婦・妊婦への投与についてですが、動物実験(マウス)において乳汁中への移行、胎盤を通過して胎児に移行することが報告されています。
よっていずれの場合も投与を避けるのが基本ではありますが、医師の判断により処方されるケースもあるでしょう。その場合はくれぐれも医師の指示に従って服用するようにして下さい。
それではアメナリーフについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。
出典:
アメナリーフ錠200mg 添付文書・インタビューフォーム
バルトレックス錠500 添付文書・インタビューフォーム