今回は脂質異常症の治療薬でHMG-CoA還元酵素阻害剤、いわゆるスタチン系の「リポバス」についてお話します。

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リポバスとは?

 

まずは名前の由来からいきます。後述するリポ蛋白の異常を改善するとともに、血管病変(動脈硬化) を改善することが期待される薬、ということでlipoprotein (リポ蛋白) の LIPO と vascular (血管)の VASを組み合わせてLIPOVAS:リポバスと命名されました。一般名はシンバスタチンです。

 

リポバスの作用を簡単に説明すると「肝臓内でHMG-CoA還元酵素の働きを邪魔することによりコレステロールの合成を抑える」となります。それではまず脂質異常症について説明します。

脂質異常症とは?

 

脂質異常症は以前は高脂血症と呼ばれていた病気です。詳しくはこの後説明しますが、悪玉であるLDLコレステロール、中性脂肪の多くを占めるトリグリセリドが高いと、一方善玉のHDLコレステロールが低いと動脈硬化を生じやすくなります。

 

HDLは低いと問題なのにそれを高脂血症と呼ぶのはおかしいですよね。そこで脂質が異常値を示している病気という事で脂質異常症と改められたのです。

 

脂質異常症は脅すわけではありませんが、動脈硬化の原因となるため非常に危険です。動脈硬化が進行すると狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こす可能性が高くなります。

 

脂質異常症は採血しないと値がわからない上自覚症状がほとんどなく、気付いた時にはかなり進行しているといった事が少なくないため、サイレントキラーと呼ばれることもあります。

 

ただコレステロール自体は細胞膜の構成成分であったり、ホルモンの材料であるなど私達の体になくてはならないものなのです。

 

私達の体内のコレステロールの内訳は通常食事から2~3割、肝臓での合成が7~8割となっています。仮にコレステロールを食事から多く摂り過ぎた時は肝臓での合成が抑制され、一定の値になるよう調節されています。

 

しかし何事もほどほどが大切。不規則な食生活やアルコールの過剰摂取、運動不足、喫煙、ストレスなどにより脂質異常症が引き起こされます。

 

それでは脂質の値がどれくらいだと異常なのか。下の診断基準をご覧下さい。

脂質異常症の診断基準(空腹時)

LDL(悪玉コレステロール) 140mg/dL以上 高LDLコレステロール血症
120~139mg/dL 境界域高LDLコレステロール血症
HDL(善玉コレステロール) 40mg/dL未満 低HDLコレステロール血症
TG(中性脂肪) 150mg/dL以上 高TG血症

※日本動脈硬化学会編 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版より

 

LDLについては140mg/dL以上で高LDLコレステロール血症、120~139mg/dLでは境界域、要は予備軍という事で必要に応じて治療を行います。

 

HDLについては40mg/dL未満で低HDLコレステロール血症、中性脂肪の多くを占めるトリグリセリド(以下TG)については150mg/dL以上で高TG血症となります。

 

これらは空腹時に採血を行うことで判定します。

リポ蛋白とは?

 

続いてリポ蛋白についてお話します。コレステロールは脂質、つまり油ですから水と馴染みません。このままでは血液中を移動する事ができないのです。

 

そこで登場するのがアポ蛋白と呼ばれるタンパク質です。アポ蛋白はよく船に例えられ、アポ蛋白に乗客が乗った状態をリポ蛋白といいます。

 

リポ蛋白にはカイロミクロン、VLDL、LDL、HDLなどがあり、それぞれ乗客が異なります。

リポ蛋白の種類

カイロミクロン(CM) 乗客にTGが多い
超低比重リポ蛋白(VLDL) 乗客にTGが多い
低比重リポ蛋白(LDL) 乗客にコレステロールが多い
高比重リポ蛋白(HDL) 乗客にコレステロールが多い

かなりザックリですがこんな感じで認識して下さい。

 

ここではまずLDLとHDLの役割についてお話します。LDLとHDLはどちらもコレステロールを運びますが、運び方が異なります。

 

LDLは体の各組織にコレステロールを運ぶ。HDLは組織で余ったコレステロールを回収して肝臓に運ぶ。

 

つまり我々にとってはLDLが悪、HDLが善となります。LDLに乗っているコレステロールを悪玉コレステロール、HDLに乗っているコレステロールを善玉コレステロールと呼ぶのはここからきています。

 

続いてカイロミクロンについて。カイロミクロンの主な乗客はトリグリセリドでしたね。これは食事から摂ったものが多くを占めます。

 

カイロミクロンはリポ蛋白リパーゼ(LPL)という酵素の作用を受けると、トリグリセリドの一部が脂肪酸とグリセリンに分解されます。

 

このカイロミクロンからトリグリセリドが少なくなった状態をカイロミクロンレムナントといいます。カイロミクロンレムナントは肝臓に取り込まれ、VLDLとなり再び血液中に分泌されます。

 

ただ過剰になると肝臓が受け付けず、血液中に残ります。カイロミクロンレムナントは中性脂肪が少なくなった事で小さくなっており、血管壁に侵入しやすいため動脈硬化の原因となる危険性があります。

 

そしてVLDLについて。VLDLも主な乗客はトリグリセリドであり、カイロミクロンと同様にLPLの作用を受けると、トリグリセリドの一部が脂肪酸とグリセリンに分解されます。この状態をVLDLレムナントといいます。

 

VLDLレムナントも肝臓に取り込まれます。そして肝性トリグリセリドリパーゼ(HTGL)という酵素によりLDLになります。

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リポバスの作用機序と特徴

コレステロールと胆汁酸の流れ

 

上の画像を見て下さい。食事により体内に入った糖質、脂質、タンパク質が分解されていく過程でアセチルCoAができます。肝臓内ではこのアセチルCoAを材料としてコレステロールが作られます。

 

途中少し省略しながら進めていきます。アセチルCoAはHMG-CoAとなり、HMG-CoAにHMG-CoA還元酵素が作用するとメバロン酸となり、コレステロールができます。そしてコレステロールを材料として胆汁酸ができます。

 

だったらHMG-CoA還元酵素の働きを邪魔してしまえば肝臓内でのコレステロールの合成が抑えられますよね。それを行うのがリポバスなのです。

 

リポバスにより肝臓内のコレステロールが減少すると肝臓は「胆汁酸などが作れなくなる!血液中から取り込んでしまえ!」と不足分のコレステロールを血液中から補おうとします。

 

具体的にはLDL受容体の数を増やすという事を行います。LDL受容体はLDLに乗っているコレステロールを取り込む働きがあり、この数を増やせば血液中のコレステロールを減らす事ができます。

 

つまりリポバスの作用はHMG-CoA還元酵素の働きを邪魔し、間接的にLDL受容体の数を増やす事で血液中のコレステロールを減らすというものになります。

 

リポバスの特徴としてプロドラッグ製剤である事が挙げられます。リポバスはそのままでは薬効を発揮せず、腸管から吸収された後肝臓で移行し、代謝されてオープンアシッド体となり初めて効果を発揮するのです。

 

ではなぜプロドラッグとして開発されたのか。それは活性代謝物よりもシンバスタチンの方が肝臓に移行しやすいからです。これにより肝臓に特異的に作用することができます。

 

またリポバスは脂溶性で肝薬物代謝酵素CYP3A4で代謝されます。以下のようなCYP3A4を阻害する薬と併用すると代謝が阻害され、横紋筋融解症等が出現しやすくなるため併用禁忌となっています。

・イトリゾール(イトラコナゾール):抗真菌薬
・フロリード(ミコナゾール):抗真菌薬
・レイアタッツ(アタザナビル):抗HIV薬
・インビラーゼ(サキナビルメシル酸塩):抗HIV薬
・テラビック(テラプレビル):慢性C型肝炎治療薬
・スタリビルド(コビシスタットを含有する製剤):抗HIV薬

グレープフルーツ(ジュース)の摂取も控えましょう。グレープフルーツの成分であるフラノクマリンはCYP3A4を阻害する作用を持ちます。

 

服用中どうしても柑橘系を摂りたくなった時は、フラノクマリンを含まないレモンや温州みかん、バレンシアオレンジ、かぼす等の柑橘系で我慢しましょう。

 

他にもクラリスのようなマクロライド系抗菌薬などもCYP3A4を阻害する作用を持つため注意が必要です。お薬手帳を忘れずに提示してくださいね。

 

またベザトールSRなどのフィブラート系の薬との併用により、急激な腎機能悪化を伴う横紋筋融解症が現れやすくなります。そのため腎機能が低下している方は原則禁忌となっています。

リポバスの副作用

 

主なものは痒み、倦怠感、嘔気・嘔吐などです。やはり注意が必要なのは筋融解症ですね。これは骨格筋の細胞が壊死することで、筋肉の成分であるミオグロビンやクレアチンキナーゼが血液中や尿中に流出する病気です。

 

これらの成分により腎臓の尿細管が傷害され、急性腎不全を起こす可能性があります。また腎機能が低下していると薬の排泄が低下し、横紋筋融解症が発生する可能性が高まります。

 

横紋筋融解症の初期症状としては

筋肉の痛み、手足のしびれ、こわばり、だるい、力が入らない、尿の色が赤くなる

などがあります。これは覚えておきましょう。

 

横紋筋融解症は服用後半年以内に出現しやすいと言われていますが、長期間服用後にいきなり出現する可能性もありますので、服用中の血液検査は必須です。

 

他の副作用としては肝機能障害があります。吐き気や食欲の低下、体のだるさ、黄疸、ASTやALT等の肝機能データの上昇などが報告されています。

リポバスの注意事項

 

ヒトでは妊娠3ヵ月までの間に服用した場合、胎児に奇形が生じる可能性があります。動物実験でも発育に悪影響が出る等も報告されています。またラットにおいて乳汁中への移行が報告されているため妊婦、授乳婦の方は禁忌となっています。

 

また重篤な肝機能障害のある方は禁忌となります。理由として、肝臓に特異的に作用する事で症状が悪化する可能性、また主に肝臓で代謝されることで血中濃度が上昇する可能性もあるためです。

 

続いて服用時間について。コレステロールの合成は夜間に亢進すると言われています。同じスタチン系であるクレストールやリピトールは半減期が長いため、服用時間の制限はありませんでした。

用法及び用量に関連する使用上の注意
2. 服用時間
コレステロールの生合成は夜間に亢進することが報告されており、本剤の臨床試験においても、朝食後に比べ、夕食後投与がより効果的であることが確認されている。したがって、本剤の適用にあたっては、1日1回夕食後投与とすることが望ましい。

リポバスの添付文書より引用

しかしリポバスは半減期が2~3時間程度と短く、臨床試験でも朝食後よりも夕食後の服用が効果的である事が報告されており、上記の通り、1日1回夕食後の服用が推奨されています。

 

それではリポバスについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。