今回は漢方薬の苓姜朮甘湯(リョウキョウジュツカントウ)について解説します。

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苓姜朮甘湯の名前の由来

 

含まれる4種の生薬、茯苓、乾姜、白朮、甘草からそれぞれ1文字ずつ取って苓姜朮甘湯と命名されています。

苓姜朮甘湯の作用機序と特徴

 

苓姜朮甘湯は冷えやむくみがある場合に用いられている漢方薬で、腰痛や夜尿症に対して効果を発揮します。

 

不妊の原因となりうる下半身の冷えや子宮内の水分滞留を緩和する働きがあるため、不妊治療の一環としても用いられている漢方薬です。

 

含まれている生薬は茯苓(ブクリョウ)、乾姜(カンキョウ)、白朮(ビャクジュツ)甘草(カンゾウ)です。

 

東洋医学では漢方薬の適応を判断するため、個別の患者の状態を判断する「証」という概念を用います。

 

苓姜朮甘湯に適応がある証は虚証・寒証で気虚・水滞となっている状態であり、体力が低下していて体が冷え、むくみやすく倦怠感がある人に効果的な漢方薬です。

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苓姜朮甘湯の主な効果は、茯苓と白朮による体内の気と水分を調節する効果にあります。

 

過剰になった水分を排泄させ、不足している気を補って症状を緩和させていることが主な作用であり、それに加えて体を温めて湿を取る効果がある乾姜が合わさることで、よりその効果は強力になります。

 

甘草は体を温める作用を持ちながら、鎮痛・抗炎症作用も持っており、漢方薬に配合することでそれぞれの生薬の効果を束ね上げて調節する効果も発揮しています。

 

ただ漢方薬は科学的な作用機序が判明していないものが多く、苓姜朮甘湯も例外ではありません。

 

たとえば、夜尿症に対して効果を発揮する医薬品は、膀胱平滑筋を弛緩させたり、筋収縮を増強させたりするような効果を持ちますが、苓姜朮甘湯には存在しません。

 

エビデンスは存在しますが、なぜ効果を発揮しているのかは不明なままなのです。腰痛に関しても同様に、明確な科学的な作用機序は不明のままです。

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苓桂朮甘湯との違い

 

苓姜朮甘湯と苓桂朮甘湯は、含有生薬の乾姜と桂枝の違いがあるのみで、そのほかの配合生薬は全く同じものです。

 

そのため、どちらも水と気を調節することが主な作用となっており、それに加える乾姜と桂枝の作用の違いが、この二つの漢方薬の違いを生んでいるということになります。

 

桂枝は気と血を巡らせる効果があり、主に上半身に起きる水滞や気滞の症状を緩和します。乾姜は冷えを取り除き腹部から下を温める効果があるため、下半身に起きている水滞の症状を緩和します。

 

簡単にまとめれば、苓姜朮甘湯が下半身の冷えを伴う症状に効果を発揮し、苓桂朮甘湯は上半身のむくみをともなう症状に効果を発揮するのです。

苓姜朮甘湯の副作用

 

苓姜朮甘湯では副作用の発現頻度が明確になる調査を行っていないため、その詳しい発生頻度は不明です。重大な副作用としては甘草に由来するものが報告されており、使用する際にはその兆候となる症状に注意が必要です。

 

低カリウム血症や血圧の上昇、浮腫を引き起こしてしまう偽アルドステロン症、前述の低カリウム血症の結果として筋肉の動きに悪影響を与えてしまうミオパチーの発生が報告されています。それらの可能性がある場合には、服用の中止やカリウム剤の投与などの適切な処置が必要になります。

 

なお、その他の副作用の報告はありません。

苓姜朮甘湯の飲み方と注意事項

 

苓姜朮甘湯は1日2~3回に分けて空腹時に服用するのが効果的です。もし服用を忘れて食事をしてしまった場合には、効果は減弱してしまう可能性はありますが気づいた時点で服用しても大丈夫です。

 

苓姜朮甘湯は生薬をお湯に煮出して服用するタイプの薬でしたが、使い勝手を考慮した結果として煮出した薬液を加工し、散剤としたものです。そのため服用する時には元の形に戻した方が効果的だと言われています。

 

あまりに熱いお湯では、薬効成分が揮発してしまうため、約60℃程度のぬるま湯で溶かして服用するのがよいでしょう。

 

有効成分の重複には注意を要するものがあり、甘草を含む漢方薬の併用には注意しなければいけません。甘草の有効成分として含有されているグリチルリチン酸を使用している医薬品も同様に注意する必要があり、併用注意となっています。

 

添付文書では妊娠中の服用は有益性が危険性を上回る場合のみに使用することとなっていますが、妊娠中の冷え性や腰痛症などに用いられることがある漢方です。

 

胎児に悪影響を及ぼす可能性がある生薬も配合されていないため、医師の判断のもとで使用すれば安全性が高い漢方薬です。とは言え自己判断での服用は避けるようにしましょう。

 

それでは苓姜朮甘湯については以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。