今回は尿失禁・頻尿治療剤で抗コリン薬の「バップフォー」についてお話していきます。

スポンサーリンク

バップフォーとは?

 

まずは名前の由来から。Bladderは”膀胱”、Urineは”尿”、Pollakisuriaは”頻尿”。それぞれの頭文字を取って組み合わせ”BUP”。

 

また4番目の誘導体として合成されたということで治験番号の”P-4”と先ほどの”BUP”を組み合わせてBUP-4:バップフォーと命名されました。一般名はプロピベリンです。

 

バップフォーの作用機序を簡単にお話すると「膀胱が勝手に収縮するのを抑えることで頻尿や尿失禁などの症状を改善する」となります。

 

それではまず過活動膀胱についてお話していきましょう。

過活動膀胱とは?

 

過活動膀胱とはその名の通り膀胱が過剰に活動すること、つまり自分の意に反して勝手に収縮する膀胱の機能障害を意味します。これにより以下の様な症状が現れます。

 

急に尿がしたくなり我慢できない”尿意切迫感”、尿意切迫感の後に尿が漏れてしまう”切迫性尿失禁”、日中トイレが近い”昼間頻尿”、夜中トイレが近い”夜間頻尿”

 

続いて蓄尿と排尿のしくみについて簡単にお話しておきます。蓄尿とは文字通り尿をためること、排尿とは尿を排出することです。これらは自律神経により支配されています。

 

脳は膀胱内に尿がある程度たまるまでは、排泄しないよう命令を出します。

 

具体的には膀胱を弛めてたくさん尿をためることができるようにし、また尿が漏れないように尿道を閉めるということを行います。これを行わなければ常に尿が出っぱなしということになります。

 

そして尿がたくさんたまってくるとまたその情報が脳に伝わります。すると脳は「そろそろ出すか」ということで、膀胱を収縮させ、更に尿道を開くことで尿が出るのです。

 

膀胱の弛緩、収縮を行っているのが膀胱排尿筋、尿道の弛緩、収縮を行っているのが尿道括約筋です。

 

交感神経から放出されるノルアドレナリンにより膀胱排尿筋は弛緩、尿道括約筋は収縮します。副交感神経から放出されるアセチルコリンにより膀胱排尿筋は収縮、尿道括約筋は弛緩します。

 

過活動膀胱は尿があまりたまっていないのに膀胱排尿筋が勝手に収縮してしまう状態のこと。だったらノルアドレナリンやアセチルコリンをどうにかできれば症状が改善できるような気がしますよね。

 

それでは今回のお薬”バップフォー”の作用機序についてお話していきましょう。

スポンサーリンク

バップフォーの作用機序と特徴

 

過活動膀胱は尿があまりたまっていないのに膀胱排尿筋が勝手に収縮すること、また膀胱排尿筋は副交感神経から放出されるアセチルコリンにより収縮するとお話しました。

 

アセチルコリンが膀胱排尿筋のムスカリン受容体に結合すると膀胱排尿筋が収縮するようになっています。

 

ここでバップフォーの登場です。

 

バップフォーはムスカリン受容体に結合することで、アセチルコリンがムスカリン受容体に結合するのを邪魔する作用を持ちます。

 

更にバップフォーはカルシウム拮抗作用も併せ持ちます。膀胱平滑筋(排尿筋)の収縮、拡張に関与しているのがカルシウムイオンです。平滑筋細胞にはカルシウムイオンの出入口であるカルシウムイオンチャネルという部分があります。

 

細胞内にカルシウムイオンが入ると膀胱が収縮する。だったらカルシウムイオンが細胞内に入らないようにしてあげればいいですよね?

 

バップフォーはカルシウムイオンチャネルに結合し、カルシウムイオンが細胞内に入るのを邪魔します。

 

抗コリン作用とカルシウム拮抗作用、この2つの作用により膀胱が勝手に収縮するのを抑えることができ、症状改善が期待できるのです。

バップフォーの副作用

 

副作用についてはムスカリン受容体に対する作用から発現します。ムスカリン受容体にはM1~M5の5つのサブタイプがあり、脳や心臓、腸、眼、唾液腺、膀胱など様々な臓器に分布しています。

 

ザックリですが、脳はM1、心臓はM2、腸、眼、唾液腺はM3、膀胱はM2とM3と覚えて下さい。※唾液腺についてはM1も存在するとされており、完全には解明されていません。

 

それぞれのムスカリン受容体に作用することで、以下のような副作用が出現する可能性があります。

 

まずは口の渇き(口渇)。唾液の分泌が低下することにより現れます。対策としてはうがいをしたり、ガム、あめをなめるなどで症状が軽くなることがあります。

 

続いて便秘。腸管の運動が抑制されますので便秘が出現します。適度な運動、食物繊維の摂取の他、症状が強ければ下剤を併用するケースもあります。麻痺性イレウスのある患者様などは禁忌となります。

 

そしてめまいやかすみ(霧視)などの眼の調節障害。散瞳(黒目が大きくなる)により出現します。散瞳すると眼球を満たす眼房水の排泄が抑えられ眼圧が上昇してしまいます。そのため閉塞隅角緑内障の患者様には禁忌となります。

 

尿道が閉塞して尿がほとんど出なくなる尿閉。前立腺肥大症の患者様の多くは過活動膀胱を合併します。このような方にバップフォーを投与すると症状の悪化や尿閉を引き起こす可能性があります。

 

以上から尿閉を有する患者には禁忌となります。前立腺肥大症の方に使用する際はユリーフなどのα1遮断薬による治療を優先します。

 

また期外収縮や頻脈などの心血管系の副作用が現れる場合もあり、重篤な心疾患の患者様には禁忌です。

 

そして認知障害。認知症治療薬”アリセプト”でもお話しましたが、認知症の患者様は脳内のアセチルコリンが少ないので情報伝達がうまくいかず、記憶力の低下を引き起こすのでした。

 

抗コリン薬は文字通りアセチルコリンの働きを抑えるわけですから、脳内に入れば認知症と似たような症状が出ることは皆さん想像できるかと思います。

 

バップフォーはムスカリン受容体の選択性がないことから、脳へ移行することで認知障害を起こす可能性があるため注意が必要です。

 

最後に、市販の風邪薬などには抗コリン作用を有するものがあります。バップフォー服用中は薬剤師にご相談下さい。

 

それではバップフォーについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。