今回はオピオイドによる副作用についてお話していきます。
代表的なのが嘔気嘔吐、便秘、眠気。オピオイドを使用して痛みがおさまっても、副作用で苦しむことになったら目も当てられませんよね。
患者さんからしたら「飲む前よりつらい!」→「もうオピオイドは飲みたくない!」ということにもなりかねませんから。副作用対策は必須です。
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患者さんへのきちんとした説明が必要
オピオイドの初期投与時、増量時には副作用が生じる可能性があることを事前にきちんと説明する必要があります。そして対策を講じることで防止できることも合わせて説明します。
これをしないと患者さんの不安は大きくなりアドヒアランスが著しく低下してしまいます。緩和ケアの考えからは逸脱してしまうため積極的な予防が必要です。
アドヒアランスとは患者様自身が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けることを意味します。
オピオイドの副作用1~嘔気嘔吐と対策
嘔気嘔吐が発現する機序にはいくつかありますが、今回はオピオイドが関与する3つを取り上げたいと思います。
発現機序により薬を選択し、また場合により併用します。ちなみに嘔気は数日、長くても2週間程度で耐性が生じることが多いです。
1.化学受容器引金帯
延髄第四脳室底にある化学受容器引金帯(chemoreceptortrigger zone:以下CTZ)にはオピオイドμ受容体が存在します。
オピオイドによりCTZのμ受容体を刺激されると化学伝達物質のドパミンの遊離が促され、ドパミンによりドパミンD2受容体が刺激されるとその刺激が嘔吐中枢(vomitingcenter:以下VC)に伝わり嘔気嘔吐が現れます。
オピオイドの初期投与時や増量時に生じるものです。対策としてはドパミン受容体拮抗薬が第一選択となります。
・ノバミン(プロクロルペラジン)
・セレネース(ハロペリドール)
これらで効果が認められない場合、
2.前庭
前庭平衡感覚を司る前庭にはオピオイドμ受容体が存在します。オピオイドにより前庭のμ受容体が刺激を受けるとヒスタミンの遊離が促され、それがCTZに、続いてVCに伝わり嘔気嘔吐が現れます。
前庭が関与する体動時にふらつきやめまいを伴う乗り物酔いのような嘔気嘔吐に対しては抗ヒスタミン薬を使用します。
3.末梢
消化管のオピオイドμ受容体が刺激を受けると消化管運動が抑制されます。すると胃内容物が停滞、貯留してしまい、これが迷走神経を介してCTZやVCを刺激することで嘔気嘔吐が現れます。
消化管運動が低下しているため、対策としては消化管運動亢進薬を使用します。
・ナウゼリン(ドンペリドン)
・プリンペラン(メトクロプラミド)
嘔気の原因としては他にも高カルシウム血症や便秘によるものが挙げられます。高カルシウム血症は一見骨転移の患者様のみに見られると思われがちですが、骨転移がなくても生じる場合があります。
高カルシウム血症の症状としては嘔気、嘔吐、傾眠、全身倦怠感があり、治療法としてはビスホスホネート製剤であるゾメタ(ゾレドロン酸)を使用します。
便秘が原因の場合は排便コントロールを行います。次項でお話します。
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オピオイドの副作用2~便秘と対策
便秘はオピオイドを使用する患者さんの多くに見られます。嘔気と違い、耐性は生じません。オピオイド開始と同時に下剤を併用し、使用中は飲み続ける必要があります。
原因は主に2つ。オピオイドにより消化管運動が抑制されてしまうこと、肛門括約筋が緊張してしまうことが挙げられます。
便の水分は腸で吸収されます。消化管運動が抑制されると便が腸内に留まる時間が延長してしまうため、その分多くの水分が吸収され、固い便になってしまうのです。また肛門括約筋の緊張はいわば便の出口を塞いでしまう状態です。
対策としては以下のような下剤を使用します。場合により併用します。
・酸化マグネシウム
・ミルマグ(水酸化マグネシウム)
・アローゼン、プルゼニド(センナジツ、センノシド)
・ラキソベロン(ピコスルファートナトリウム)
・テレミンソフト(ビサコジル)
・新レシカルボン坐剤(炭酸水素ナトリウム・無水リン酸二水素ナトリウム)
・モニラックシロップ(ラクツロース)
・ガスモチン(モサプリド)
・大建中湯
・スインプロイク(ナルデメジン)
下剤は患者さんが普段の排便頻度になるまで増量していきます。例えばプルゼニドであれば通常4錠までの使用ですが、オピオイドによる便秘の場合は10錠以上使用するケースもあります。
また薬だけでなく、お腹の「のの字マッサージ」やお腹や腰に温めたタオルを当てる「温罨法(おんあんぽう)」も有効です。
他にもオピオイドローテーションで対応する場合もあります。
例えばフェントステープやデュロテップパッチ(フェンタニル)はμ受容体の中でもμ1受容体の親和性が高く、μ2への親和性が低いため便秘の副作用が少ないという特徴があります。
モルヒネやオキシコドンを使用している患者さんであればフェンタニルにスイッチすることで症状の軽減期待できます。
またモルヒネやオキシコドンでも経口薬から注射薬へスイッチすることで効果が期待できる場合があります。
これは経口薬では消化管のμ受容体が直接刺激を受けてしまいますが、注射薬ですとそれを回避することができるためです。
平成29年6月7日にオピオイド誘発性便秘症(OIC)治療薬としてスインプロイクが発売になりました。スインプロイクは腸管内のμ受容体に拮抗する薬になります。薬価が1錠272.1円という部分がネックではありますが、それを抜きにすればスインプロイクがベストでしょう。
オピオイドの副作用3~眠気
オピオイド開始後や増量時に眠気がみられる場合があります。ただ眠気は数日間で耐性が生じることが多いです。
眠気は痛みが強くて眠れなかった患者さんがオピオイドを投与することで眠れるようになることで生じたものであれば特別問題はありません。
対策が必要なのは腎機能障害のある患者さんに対してモルヒネが投与されており眠気が生じている場合。
モルヒネは肝臓で多くが代謝され、活性代謝物のモルヒネ-6-グルクロニド(M6G)と非活性代謝物のモルヒネ-3-グルクロニド(M3G)になります。
腎機能が低下している患者様だとM6Gが蓄積することで傾眠や吐き気、呼吸抑制などの副作用が出やすくなるため注意が必要です。その場合はフェンタニルやオキシコンチンにスイッチして対応します。
また便秘対策同様、経口薬から注射薬へのスイッチで改善がみられる場合があります。
後はオピオイドを増量しても痛みが改善せず、眠気だけが出てしまっている場合。この時はオピオイドでは効かない痛みである可能性が高いため、鎮痛補助薬を併用します。
鎮痛補助薬には抗うつ薬や抗てんかん薬、抗不整脈薬、ステロイドなどを症状に応じて使い分けます。
他にも先ほどお話しした高カルシウム血症が原因で眠気が生じている可能性もあります。
今回はオピオイドの副作用の中でも多く見られる便秘・悪心嘔吐・眠気についてお話しました。
オピオイドの副作用には他にも呼吸抑制やせん妄などもありますが、長くなりましたのでまた別の機会にお話させて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。