今回は糖尿病治療薬のメタクトについて解説します。
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メタクトとは?
商品名 | 一般名 | 分類 |
Actos(アクトス) | Pioglitazone(ピオグリタゾン) | チアゾリジン系 |
Metgluco(メトグルコ) | Metformin(メトホルミン) | ビグアナイド系 |
メタクトは上記2剤の合剤になります。医療関係者が覚えやすいように、MetforminとActosの下線部を組み合わせてMETACTと命名されています。
主な作用は以下の3つです。
・インスリン抵抗性を改善する
・肝臓での糖新生を抑制する
・腸管からの糖吸収を抑制する
それでは作用機序の前に、まずはインスリンの働きについてお話していきましょう。
インスリンの働きについて
私達が摂った食事(糖質)はそのまま身体に吸収されず、アミラーゼなどの消化酵素によりブドウ糖まで分解され、初めて小腸から吸収されるようになっています。その後にブドウ糖は血液中に移動するわけです。
いわゆる血糖値は血液中のブドウ糖の量を指します。ブドウ糖は筋肉や肝臓などの全身の臓器に運ばれてエネルギーとして使用されます。また残ったブドウ糖はグリコーゲンや脂肪として蓄えられます。
「ブドウ糖を筋肉や肝臓などの全身の臓器に運ぶ」これを行っているのがインスリンです。ただしブドウ糖が各臓器に運ばれても、臓器を構成する細胞の入り口が閉じていると、ブドウ糖は中に入る事ができません。
インスリンは細胞の入り口を開ける事ができます。こうして初めてブドウ糖は細胞内に入り、エネルギーとして利用できるようになります。また血液中のブドウ糖が減ることで血糖値が下がります。
健康な人はこれらが自然に行われているため、血糖値がきちんと管理されているわけです。
ではインスリンの働きが悪く、入り口のドアを少ししか開けることができない場合どうでしょうか?
入り口が狭いため、ブドウ糖が細胞内に入る量が減ってしまいますよね。このことをインスリン抵抗性といいます。
また入り口を開ける能力を持つインスリンの量が少なかったらどうでしょうか?
こちらも同じようにドアが十分に開かないため、細胞内に入るブドウ糖がいつもより少なくなってしまいます。このことをインスリン分泌不全といいます。
これらが原因でいつもは細胞内に入っていたブドウ糖が血液中に残ってしまい、血糖値が高くなってしまいます。この状態が続くと糖尿病になってしまうわけです。
脂肪細胞は肥大化すると悪さをする
続いて脂肪細胞についてお話します。中性脂肪の保存場所である脂肪細胞ですが、エネルギーが過剰になると取り込まれる脂肪酸の量が増えることで、脂肪細胞が肥大化します。
ただ肥大化(取り込める量)にも限界があります。限界を超えると脂肪細胞は分裂します。肥大化→分裂→肥大化→分裂→…まさに負のスパイラル…これがいわゆる肥満ですね。
肥満細胞はアディポサイトカインという物質を分泌します。アディポサイトカインにはいくつかありますが、ここでは善玉のアディポネクチン、悪玉のTNF-α、PAI-1(プラスミノーゲン活性化抑制因子)についてお話します。
肥満細胞は小さいと善玉アディポサイトカインを分泌しますが、肥大化すると悪玉アディポサイトカインや遊離脂肪酸を多量に分泌するようになるのです。
アディポサイトカインとは?
アディポネクチン(善玉)
アディポネクチンはAMPキナーゼという酵素を活性化します。
AMPキナーゼの働きを活発にすることでGLUT4が細胞膜に移動するのが促されます。
GLUTとはブドウ糖輸送体(glucose transporter)の略。いわゆるブドウ糖の運び屋。中でもGLUT4は骨格筋、心筋、脂肪細胞等に存在します。
GLUT4は細胞の入口のドアを開けるのを手伝い、細胞内にブドウ糖を取り込みます。これがインスリン抵抗性の改善です。アディポネクチンは他にも動脈硬化を抑制したり、抗炎症作用などを持ちます。
PAI-1、TNF-α(悪玉)
PAI-1はt-PA(組織プラスミノーゲン活性化因子)の働きを失わせます。
t-PAはプラスミノーゲンをプラスミンに活性化する作用を持ちます。プラスミンは血液の凝固に関わるフィブリンを分解し血栓を溶解する酵素です。
つまり『t-PAが阻害される=血栓が溶けにくくなる』ということが言えます。すると動脈硬化が進行し、脳梗塞や心筋梗塞を起こす危険性が高まります。
TNF-α(腫瘍壊死因子α)はGLUT4が細胞膜まで移動するのを抑制します。これにより糖が細胞内に取り込まれにくくなるのです。
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メタクトの作用機序と特徴
ピオグリタゾンの作用機序
アクトスは脂肪細胞に存在するPPARγ(ピーパーガンマ:ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ)と呼ばれる転写因子を刺激し、活性化します。
すると肥大化した脂肪細胞が分解され小さくなるのです。その結果、アディポネクチンの分泌が促進し、PAI-1、TNF-αの分泌が抑制されます。これによりインスリン抵抗性が改善します。
メトホルミンの作用機序
1.インスリン抵抗性の改善
インスリン抵抗性はインスリンの働きが悪く、入り口のドアを少ししか開けることができない状態と先ほどお話しましたね。
ではこの状態を改善するにはどうしたら良いでしょうか?そこで注目したいのがGLUT4とAMPキナーゼです。
GLUT4は普段は細胞内で休んでいるのですが、分泌されたインスリンが細胞膜上のインスリン受容体に結合すると、細胞膜まで出てきて細胞の入口のドアを開けるのを手伝い、更に細胞内にブドウ糖を取り込んでくれます。
メトホルミンはGLUT4を細胞膜まで移動させるAMPキナーゼを活性化することで、ブドウ糖の取り込みを活発にする作用を持ちます。その結果血糖値が下がるのです。
2.肝臓での糖新生の抑制
糖尿病はインスリンの量が減ったり、働きが悪くなることで細胞の入り口のドアが狭くなり、ブドウ糖を取り込めない状態です。
この時人間の身体は「使える糖がない!」と判断してしまい、アミノ酸などから糖を作り出す(糖新生)という事を行うのですが、この過程にはグルコース-6-フォスファターゼなどの酵素が関与しています。
メトホルミンはこれらの酵素群を阻害することで、糖が作られるのが抑え、血糖値を下げるのです。
3.腸管からの糖吸収の抑制
メトホルミンは小腸から吸収されるブドウ糖を減らす作用を持ちます。これにより血糖値を下げることができます。
メタクトの副作用
ピオグリタゾンの副作用
浮腫(むくみ)が手足や顔等に見られることがあります。腎臓の集合管にはPPARγが多く存在しています。またナトリウムチャネルと呼ばれるナトリウムが細胞を出入りする専用の入口もあります。
アクトスがPPARγを活性化すると、ナトリウムの吸収が促進します。ナトリウムと水は基本的に同じ動きをしますので、循環血液量が増えることで浮腫が生じるのです。結果体重も増加します。
心臓に負担がかかるため、心不全を発症したり、悪化させる場合があります。そのため尿量を増やして浮腫をとるラシックスなどの利尿剤を併用する場合もあります。
また浮腫は女性、またインスリンを併用すると出現する可能性が高くなります。そのため、女性、インスリン併用時、生理機能が低下している高齢者は15mgからの開始が推奨されています。
骨密度を低下させる可能性も指摘されています。念のため、年1回は程度は骨密度検査をしておきましょう。
メトホルミンの副作用
主な副作用は吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などの消化器系の副作用ですね。これは以下の乳酸アシドーシスの初期症状としても現れることがあります。
一番注意が必要なのが乳酸アシドーシスです。これは体の中の乳酸が増えることで、血液が酸性に傾く状態を指します。非常に危険で、50%は死亡してしまいます。
乳酸アシドーシスを回避するために、「なぜメトホルミンを服用すると乳酸アシドーシスを起こしやくなるのか?」以下に確認していきましょう。
1.肝臓での糖新生の抑制
メトホルミンにより乳酸からブドウ糖を作る過程が阻害されるため、乳酸が溜まりやすくなります。
2.肝臓の機能低下
糖新生は肝臓で行われているため、肝機能が低下すると糖新生が減少し、乳酸アシドーシスを起こしやすくなります。
3.腎臓の機能の低下
乳酸は腎臓で排泄されるため、腎機能が低下すると乳酸の排泄量が低下し、乳酸が貯まりやすくなります。
4.脱水や感染症による循環不全
脱水や感染症による循環不全により酸素が十分に供給されない時は、ブドウ糖は乳酸に変換されやすくなります。
例えばラシックスなどの利尿剤やスーグラなどのSGLT2阻害薬などと併用することで、脱水が起こりやすくなります。夏場は特に注意が必要です。
5.造影剤の使用
ヨード造影剤の使用より、一時的に腎機能が低下することで乳酸アシドーシスを起こしやすくなります。造影剤を使用した心臓カテーテル検査やCT検査の際は検査前後48時間(医療機関により異なる場合あり)は服用を中止します。
メタクト服用中に腹痛や嘔吐、下痢、むくみ、体重増加、動悸、息切れなどの症状が出た場合は、服用を中止し医療機関を受診するようにしましょう。
それではメタクトについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。