今回は漢方薬の麻杏よく甘湯(まきょうよくかんとう)について解説します。

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麻杏よく甘湯の名前の由来

含まれる4種類の生薬、麻黄、杏仁、 苡仁、甘草から一文字ずつ取って、麻杏よく甘湯と命名されています。

麻杏よく甘湯の作用機序と特徴

麻杏よく甘湯は関節痛・神経痛・筋肉痛に適応を持つ漢方薬で、含まれている生薬はヨクイニン、杏仁(キョウニン)、麻黄(マオウ)、甘草(カンゾウ)の四種です。

 

ツムラの製品では本品7.5g中、下記の割合の混合生薬の乾燥エキス3.0gが含まれています。

  • 日局ヨクイニン 10.0g
  • 日局マオウ    4.0g
  • 日局キョウニン  3.0g
  • 日局カンゾウ   2.0g

東洋医学では漢方薬の適応を判断するため、個別の患者の状態を判断する「証」という概念を用います。

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麻杏よく甘湯に適応のある証は実証・寒証・水滞であり、体力が中等度以上でむくみやすく、どちらかといえば冷え性気味の人に向いている漢方薬です。

 

漢方薬の薬理的な作用機序は解明されていないものが多く、麻杏よく甘湯も例外ではありません。そのため、配合されている生薬からその薬理作用を考察していく必要があります。

 

東洋医学における関節などの痛みは、体内に溜まった過剰な水分(湿)が影響していると考えられるため、麻杏よく甘湯には湿を発散する効果を持った生薬が配合されています。

 

ヨクイニン・麻黄は湿を発散させる効果を持ち、さらにそれによって神経から発生している痛み・しびれを緩和する効果があります。甘草も鎮痛効果を持っているため、この作用を補助する働きを持っています。

 

麻黄・杏仁は、体内の過剰な風邪を放出させる効果を持っており、痛みの原因を排出させる効果も発揮します。

 

西洋医学的には、麻黄に含まれるエフェドリンが交感神経を刺激して痛みの感受性を緩和し、痛みに対する効果を発揮していると考えられます。

 

麻杏よく甘湯は関節痛に効果を発揮するため、運動によって痛みを感じている場合にも有用な漢方薬だと言えるでしょう。

 

特にダイエット中には水分の偏りが発生しやすいため、過度な運動によって関節痛を感じてしまったような人には、最適なものだと言えます。

 

痛みに用いられている漢方薬では、痛散湯も同様に関節痛や神経痛に用いられているものです。

麻杏よく甘湯の効能効果・用法用量

麻杏よく甘湯の効能効果・用法用量をみる

効能又は効果
関節痛、神経痛、筋肉痛

用法及び用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。

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麻杏よく甘湯と痛散湯の違い

痛散湯は再春館製薬が独自に開発したと言われているものですが、その内容は麻杏よく甘湯に防已を加えたものであり、別名「麻杏よく甘湯加防已」とも言われています。

 

防已は熱を除去して痛みを和らげる効果を持った生薬であり、麻杏よく甘湯にもともと配合されている生薬と同様の効果を示します。

 

鎮痛効果は穏やかながら持続的に発揮され、この効果には軟骨保護作用と筋緊張緩和作用も加わって関与しているものと考えられています。

 

麻杏よく甘湯の副作用

麻杏よく甘湯では副作用の発現頻度が明確になる調査を行っていないため、その詳しい発生頻度は不明です。重大な副作用としては甘草に由来するものが報告されており、使用する際にはその兆候となる症状に注意が必要です。

 

低カリウム血症や血圧の上昇、浮腫を引き起こしてしまう偽アルドステロン症、前述の低カリウム血症の結果として筋肉の動きに悪影響を与えてしまうミオパチーの発生が報告されています。

 

それらの可能性がある場合には、服用の中止やカリウム剤の投与などの適切な処置が必要になります。

ミオパチー:ここでは難病である先天性ミオパチーではなく、薬剤性ミオパチーを指しています。薬剤性ミオパチーは何らかの医薬品の影響で筋肉が痩せていき、力が入りにくいという自覚症状を伴います。服用を中止することで改善することが可能です。

 

その他の副作用として、排尿障害や麻黄の影響による不眠や心悸亢進、悪心、食欲不振の報告があります。服用中にこれらの症状が現れた場合は、かかりつけの医師、薬剤師に伝えるようにして下さい。

麻杏よく甘湯の飲み方と注意事項

麻杏よく甘湯は一日2~3回に分けて空腹時に服用するのが効果的です。もし服用を忘れて食事をしてしまった場合には、毎回でなければ気づいた時点で服用しても構いません。ただし、効果が増強して副作用が発現しやすくなる可能性があるため、十分に注意しましょう。

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心疾患や高血圧などの持病がある人や、甲状腺疾患、胃腸虚弱、排尿障害のある人では、麻黄に含まれるエフェドリンが体に負担をかけてしまう可能性があるため、慎重に服用する必要があります。

 

また、麻黄は以下の薬剤と併用することで交感神経興奮作用が増強する可能性があります。お薬手帳を忘れずに提出するようにして下さいね。

・MAO(モノアミン酸化酵素)阻害薬
・アドレナリンなどのカテコールアミン製剤
・テオフィリンなどのキサンチン系製剤
・チロキシンなどの甲状腺製剤
・エフェドリン含有・麻黄含有の製剤

 

他にも甘草を有効成分として含んでいるため、甘草を含んでいる漢方薬との併用はもちろん、その有効成分であるグリチルリチン酸を使用している医薬品も同様に注意する必要があります。

 

妊娠中の使用は、添付文章上では有益性が危険性を上回る場合にのみ使用することとなっています。強い効果ではありませんがヨクイニンは子宮収縮を促すという報告もあるため、基本的には使用しない方が良いでしょう。

 

それでは麻杏よく甘湯については以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

出典:
麻杏薏甘湯加防已の膝関節痛と慢性筋肉痛に対する効果の検討
○ 長岡 功1)、朝長 昭仁2)、渡邉 景太3)、深川 光彦4)
1)順天堂大学大学院医学研究科生化学・生体防御学 2)田奈整形外科・外科
3)北新横浜整形外科・外科 4)新横浜篠原口整形外科・皮膚科
ツムラ 麻杏よく甘湯 添付文書・インタビューフォーム
廣川書店「医療における漢方・生薬学」
再春館製薬 痛散湯HP