今回は漢方薬の平胃散(へいいさん)について解説します。
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平胃散の名前の由来
平胃は「胃を平らか(安らか)にする」という意味です。つまり、「胃の働きを正常な状態にする」という薬効から平胃散と命名されています。散は元の剤形がは散剤であることに由来します。
平胃散の作用機序と特徴
平胃散は胃がもたれて消化不良を起こしている場合に用いる漢方薬で、含まれている生薬は蒼朮(ソウジュツ)、厚朴(コウボク)、陳皮(チンピ)、大棗(タイソウの)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)となっています。
ツムラの製品では下記の組成となっています(7.5g中)。
- 日局ソウジュツ 4.0g
- 日局コウボク 3.0g
- 日局チンピ 3.0g
- 日局タイソウ 2.0g
- 日局カンゾウ 1.0g
- 日局ショウキョウ 0.5g
漢方薬に含まれる「朮」は白朮が本来の配合であるものが多いですが、平胃散が目標にしている胃部の湿を除去するという目的では、より湿を発散させる蒼朮が適しているといえるでしょう。
東洋医学では漢方薬の適応を判断するため、個別の患者の状態を判断する「証」という概念を用います。
関連記事:漢方薬の処方の基本~証、陰陽、虚実、気血水とは?
平胃散に適応のある証は虚証・寒証・水滞であり、体力が低下気味で冷え性となり、むくみやすい状態の人に向いている漢方薬です。そのなかでも、特に炎症反応が出ている場合により効果的だと言えるでしょう。
漢方薬の薬理作用は科学的に解明されていないものが多く、平胃散も例外ではありません。そこで、含まれている生薬から、その効能効果について考察していく必要があります。
まず、消化不良などの胃の問題は、胃・脾に湿邪が蓄積することにより発生していると考えられます。
平胃散では、含まれている蒼朮・厚朴・陳皮が、体内の湿を発散させて胃・脾の状態を正常に戻す働きをし、また、厚朴・陳皮・生姜は体を温めながら健胃効果を発揮し、直接胃の状態を緩和します。
大棗・甘草は体力を充実させるとともに、他の生薬の効果を融和させ、より顕著に働けるようにサポートを行う役割での配合と考えることができます。
平胃散の効能効果・用法用量
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六君子湯・半夏瀉心湯との違いと使い分け
胃の状態を改善させる方剤では、六君子湯や半夏瀉心湯が多く使用されている漢方薬となります。
六君子湯では、陳皮・大棗・甘草・生姜という平胃散と同様の生薬の他、白朮・茯苓・人参・半夏が配合されており、蠕動運動が低下して下痢症状を起こし、手足の冷えなどが顕著な場合に効果的なものとなっています。
また、吐き気や逆流性食道炎を起こし、みぞおちのあたりに痛みがある場合には、甘草・大棗・生姜といった平胃散と同様の生薬の他、半夏・黄芩・黄連・人参が配合されている半夏瀉心湯がより効果的となります。
単純な消化不良に対しては平胃散の方が効果的であるため、状態によって使い分けしていきましょう。
平胃散の副作用
平胃散では副作用の発現頻度が明確になる調査を行っていないため、その詳しい発生頻度は不明です。重大な副作用としては甘草に由来するものが報告されており、使用する際にはその兆候となる症状に注意が必要です。
低カリウム血症や血圧の上昇、浮腫を引き起こしてしまう偽アルドステロン症、前述の低カリウム血症の結果として筋肉の動きに悪影響を与えてしまうミオパチーの発生が報告されています。
それらの可能性がある場合には、服用の中止やカリウム剤の投与などの適切な処置が必要になります。
平胃散の飲み方と注意事項
平胃散は1日2~3回に分けて空腹時に服用するのが効果的です。もし服用を忘れて食事をしてしまった場合には、効果は減弱してしまう可能性はありますが、気づいた時点で服用しても構いません。
平胃散はもともと散剤の形状の薬であるため、特にお湯に溶かす必要はありませんが、お好みで約60℃のぬるま湯で溶かして服用しても問題はありません。ただし、あまりに熱いお湯では薬効成分が揮発する可能性があるため、注意してください。
有効成分の重複には注意を要するものがあり、甘草を含む漢方薬の併用には注意しなければいけません。グリチルリチン酸はカリウムの排泄を促進する効果がある為、前述している甘草による副作用が発現してしまう可能性があります。
甘草を含有している漢方薬はもちろん、甘草の有効成分として含有されているグリチルリチン酸を使用している医薬品も同様に注意する必要があり、併用注意となっています。
妊娠中の使用は、添付文章上では有益性が危険性を上回る場合にのみ使用することとなっています。
ただし、含有している生薬については母体・胎児ともに悪影響を及ぼす可能性は低いものであり、しっかりと証にあった使用であるのなら危険性は低いと考えられます。ただ使用する場合は自己判断ではなく、必ず医師の判断のもとで使用してください。
それでは平胃散については以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。
出典
臨床漢方医会ホームページ
ツムラ平胃散エキス顆粒 添付文書・インタビューフォーム
ツムラ六君子湯エキス顆粒 添付文書・インタビューフォーム
ツムラ半夏瀉心湯エキス顆粒 添付文書・インタビューフォーム
廣川書店「医療における漢方・生薬学」