今回は漢方薬の八味地黄丸について解説します。

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八味地黄丸の名前の由来

 

八味地黄丸は8種類の生薬(事項参照)から構成されており、ここから”八味”。そして主薬の”地黄”と組み合わせて八味地黄丸と命名されています。

八味地黄丸の作用機序と特徴

 

八味地黄丸は老化による諸症状や下半身にまつわる病に多く使用される漢方薬であり、含有している生薬は地黄(ジオウ)、山茱萸(サンシュユ)、山薬(サンヤク)、沢瀉(タクシャ)、茯苓(ブクリョウ)、牡丹皮(ボタンピ)、桂皮(ケイヒ)、附子(ブシ)です。

 

八味地黄丸が適応となる証は虚証・陰証・血虚・水毒であり、華奢で肌にハリがなく、体力がなくて寒がりな人に対して効果的に作用します。

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添付文書には以下のように記載されています。

効能又は効果

疲労、倦怠感著しく、尿利減少または頻数、口渇し、手足に交互的に冷感と熱感のあるものの次の諸症
腎炎、糖尿病、陰萎、坐骨神経痛、腰痛、脚気、膀胱カタル、前立腺肥大、高血圧

用法及び用量

通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。

ツムラ八味地黄丸エキス顆粒(医療用)の添付文書より引用

 

八味地黄丸は別名「腎気丸」とも呼ばれており、腎気が不足している状態(水毒)を回復させます。漢方薬における腎とは、単純に腎臓を指しているわけではなく、さまざまな働きを総称して腎とします。

 

つまり漢方薬の世界で腎は

ホルモンの分泌や生命力の維持、水分量の調節、生体機能の正常な維持などを行っている架空の臓器

と考えて頂くとわかりやすいと思います。

 

腎虚となると、人体では下腹部の血の巡りが悪くなり、血虚の状態になります。さらに腎気の不足は老化の促進として作用されてしまい、水分調節の不良によって排尿状態にも異常が発生します。

 

八味地黄丸は、これら腎気の不足を改善させ、種々の効果を発揮します。

 

生薬それぞれの作用は以下の通りです。地黄・山茱萸・山薬は滋養強壮作用を持ち、血流改善・補血作用によって血虚の状態を改善します。

 

沢瀉や茯苓は利水作用を持っているため水分量を適切に調節する作用を発揮し、牡丹皮・桂枝・附子は鎮痛消炎作用に合わせて、代謝機能の正常化なども期待することができます。

 

薬理作用としては、膵臓ランゲルハンス島のB細胞の減少抑制による糖尿病抑制作用、骨代謝の改善作用、造精機能の改善作用、血圧降下作用、腎機能改善作用があることがわかっていますが、科学的な薬理作用は明確には解明されていません。

 

ですがある研究の結果により、老化と腎についての考察がなされ、八味地黄丸の薬理作用の仮説が提唱されています。

 

まず、老化による肝臓・腎臓の機能低下のメカニズムですが、老化によって肝臓・腎臓の機能低下が起きることで活性型ビタミンDが低下し、その結果としてカルシウムの吸収が低下します。

 

その上、腎臓からのカルシウム排泄が亢進することでカルシウム不足の状態に陥ります。それを補うため、副甲状腺ホルモンが分泌されて骨からカルシウムを吸収する働きが生まれ、それによって骨密度が低下します。

 

副甲状腺ホルモンの過剰状態が続くと、骨だけでなくさまざまな臓器に負担をかけることになり、腎臓・肝臓の機能がさらに低下するという負のスパイラルに陥ってしまうのです。

 

八味地黄丸が腎臓からのカルシウム排泄を改善することで、副甲状腺ホルモンが高濃度になることを予防し、その結果、種々の臓器に対する効果を発揮するという仮説です。

 

今後の研究により、新たな作用機序の解明が待たれるところです。

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八味地黄丸の副作用

 

八味地黄丸では副作用が明確になる調査は行われていません。そのため、その発現頻度に関するデータも存在しておらず、どのくらいの頻度で起こるのかが不明です。

 

とはいえ、重大な副作用の報告がない医薬品ですので、比較的安全性の高い医薬品と言えるでしょう。

 

報告されている副作用は発疹、発赤、掻痒感などの過敏症状、肝機能異常(全身のだるさや皮膚の黄色変色)などの肝臓症状、食欲不振、悪心、腹痛、下痢、便秘などの消化器症状、心悸亢進やのぼせなどがあります。

 

症状がつらい場合は医師、薬剤師に相談するようにしましょう。

八味地黄丸の飲み方や注意事項

 

八味地黄丸はそれぞれの生薬を粉砕・混合して丸薬として作られた薬です。販売されている形状は粉薬がほとんどですが、その効果に変わりはありません。

 

もともとの形状が丸薬ですので、漢方薬でよく言われているお湯に溶かして服用するということをする必要はありません。ただし、温めた方がより効果を発揮しやすい生薬が配合されているため、お湯での服用をお勧めします。

 

八味地黄丸は証に合っていない患者が服用した場合、副作用が発現しやすくなる可能性があります。実証や熱証の患者には慎重投与となっており、効果もあまり期待できないことから。服薬は避けるべきでしょう。

 

また、八味地黄丸には附子が含まれているため、重複しないように特に注意が必要です。附子が過剰になると吐き気やのぼせ、動悸などの中毒症状を起こしてしまいます。

 

そして妊娠中の服用はおすすめできません。含まれる牡丹皮によって流早産の危険性が高くなります。自己判断で服用せず、必ず医師の指示を仰ぐようにして下さいね。

 

それでは八味地黄丸については以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。