今回は選択的アルドステロンブロッカーのセララについてお話していきます。
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セララとは?
それではまず名前の由来からいきましょう。作用機序については後述しますが、セララは世界初の選択的アルドステロンブロッカー(SAB:SelectiveAldosterone Blocker)になります。ここからSelaraと命名されました。一般名はエプレレノンです。
セララの作用を一言で言うと、「腎臓に働きかけて尿量を増やすことで血液中の過剰な水分が減少し、浮腫(むくみ)がとれ、血圧が下がる」となります。それではまず心不全について簡単にお話していきます。
心不全とは?
心不全は病名ではなく、心臓の機能が低下したことにより、血液を全身に送り出すことが十分にできなくなった状態のことをいいます。心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患、高血圧などによる心筋症や不整脈、弁膜症など様々な病気が心不全の原因となります。
心臓の機能が低下することは非常に危険であることは皆さんご承知のことと思います。そのため心臓は多少機能が低下したくらいでしたらそれを補うだけの余力を残しているのです。これを代償作用といいます。
しかしその余力を使い果たしてしまうと動悸や息切れ、呼吸困難、むくみ、体がだるい、すぐに疲れてしまうなどの症状が現れてきます。心不全の症状が現れた時には心臓は相当疲れている、ということを認識してください。
心不全には急性心不全と慢性心不全があり、前者は急激に心臓の機能が低下するもの、後者は徐々に心臓の機能が低下していくものです。要は余力を急激に使い果たすか、徐々に使い果たすかの違いです。
さて先ほど心不全の症状についてお話しましたが、どのようにしてこれらの症状が現われるのかもう少し詳しくみていきましょう。
血液が心臓(左心室)を出て全身を巡り、再び心臓(右心房)に戻ってくる循環を体循環、心臓(右心室)を出て肺を通り心臓(左心房)に戻る循環を肺循環といいます。
心不全の多くは左心室の機能が低下することにより起こります。左心室の機能が低下すると、全身の臓器や筋肉に酸素や栄養素を十分に運ぶことができなくなります。このため体がだるくなる、すぐに疲れるなどの症状が現れるのです。
また血液の流れが滞ることで、行き場を失い血管の周囲に水分が染み出してしまいます。これがいわゆる浮腫(むくみ)です。足に多く見られます。
特に肺で血液の流れが滞る(肺うっ血)とガス交換が十分にできなくなるため、息切れや呼吸困難が生じ、更に血液の酸素濃度が低下するため、皮膚や粘膜が青紫色になります。これをチアノーゼといいます。
チアノーゼを解消しようと心臓が頑張りますので心拍数が増加して動悸が生じます。肺うっ血が更に進行すると肺が水浸しになる肺水腫となり、非常に危険です。すぐに病院を受診する必要があります。
他に腎臓を流れる血液の量も低下しますので、これにより尿量が低下するため体重が増加します。夜間頻尿が増えるのは仰向けになると下肢に溜まっていた水分が腎臓に流れるからです。
このように心不全にはさまざまな症状が現れます。それでは続いて尿の排泄のしくみについて見て行きましょう。
尿の排泄のしくみ
腎臓には体に不要な物がつまった血液が送られてきます。ただ必要な物も多く入っているため、そのまま全部捨てるわけにはいきません。そこで腎臓の糸球体という場所で血液を一度濾過します。糸球体は目が非常に細かいため、赤血球や白血球などの大きい物は濾過されないようになっています。
糸球体で濾過されたものを『原尿』といいますが、原尿はそのまま全て排泄されるわけではありません。なぜなら原尿は150Lもあり、さらに体に不要な物だけでなく糖分や電解質など体に必要な物も多く含まれているんですね。
最終チェックを行うのが尿細管という場所です。尿細管は近位尿細管、ヘンレ係蹄上行脚、ヘンレ係蹄下行脚、遠位尿細管、集合管と大きく5つに分けることができます。
名称 | 再吸収される主な物質 |
近位尿細管 |
ブドウ糖、アミノ酸、Na、K、重炭酸イオン(HCO3-)水分 |
ヘンレ係蹄(ループ) | 電解質(Na、Cl、K)、水分 |
遠位尿細管 | 電解質(Na)、水分 |
集合管 | 電解質(Na)、水分 |
※Naの再吸収の割合:近位尿細管で70%、ヘンレループで20%、遠位尿細管で7%、集合管で3%
それぞれの働きを簡単にまとめると、上の表のようになります。最終的に尿として排泄されるのは約1%で、1.5Lほどです。
高血圧とは?
続いて血圧についてお話します。血圧とは血(液)が血管の内側の壁を押す圧力の事です。
一時的に血管に強い圧がかかる位なら問題にはなりません。しかし過度の圧力がかかる状態が長い間放置されると血管壁が圧力に抵抗して厚くなっていきます。つまり血管内が狭くなります。
すると更に圧がかかりやすくなり、血管が痛みます。そこにコレステロールなどが加わると更に血管壁が厚くなり、ますます血管内が狭くなります。
その結果血管が疲弊して弾力性がなくなることで硬くなり、またもろくなっていきます。これが動脈硬化です。
高血圧は自覚症状に乏しいため、気付いた時にはかなり動脈硬化が進行していることもあります。これがサイレントキラーと言われる所以です。
動脈硬化が進行すると血液の流れが悪くなることで血の塊、いわゆる血栓ができやすくなります。これが心臓の血管で起こると心筋梗塞、脳の血管で起こると脳梗塞を引き起こします。
またこの動脈硬化は腎臓にも悪影響を及ぼします。動脈硬化により腎臓の血管が狭くなると、体に不要な老廃物をろ過する機能が低下してしまいます。また狭くなった腎臓の血管の血液の流れが悪くなると狭くなった先の部分の血圧が低下します。
すると腎臓は『血圧が低い!早く上げなければ!』と勘違いしてしまい、レニンと呼ばれる酵素を多く出すようになります。
上図の通り、レニンが増えると血圧を上げる原因となる物質となるアンジオテンシンⅡも多く作られることになりますので更に高血圧が進行する。本当に悪循環を作り出してしまうのです。
症状がないからと高血圧を侮ってはいけません!今までお話したような合併症を予防するためにも、血圧は適正に管理する必要があります。
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セララの作用機序と特徴
レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の最終産物が副腎皮質から分泌されるホルモンであるアルドステロンです。
アルドステロンは遠位尿細管にあるアルドステロン受容体(ミネラルコルチコイド受容体)に結合します。するとナトリウム、それに伴い水の再吸収が促されカリウムの排泄が促されます。
そこで今回のセララの登場です。
セララはミネラルコルチコイド受容体に結合する作用を持ちます。これによりアルドステロンは同受容体に結合できなくなります。その結果ナトリウムと水の排泄が促され、カリウムの排泄が抑えられます。つまり、体の中の余分な水分が排出されることでむくみがとれ、血圧が下がるのです。
またミネラルコルチコイド受容体は腎臓や心臓、血管、脳などにも存在し、アルドステロンがミネラルコルチコイド受容体に結合するとこれらの臓器が障害されることが報告されています。
セララはこれらの部位におけるアルドステロンの結合も邪魔することができるため臓器保護作用も期待できます。
セララはカリウムの排泄を抑える、つまりカリウムが増えますのでループ利尿薬やチアジド系利尿薬の副作用である低カリウム血症を予防する目的で併用されることがあります。利尿効果の増強も期待できます。
セララとアルダクトンAとの違い
ここまで読んだ限りでは「アルダクトンAと同じじゃない?」と思われる方もいるでしょう。両者の違い、それはセララのミネラルコルチコイド受容体への選択性が非常に高いことが挙げられます。
アルダクトンAはミネラルコルチコイドのみならず、性ホルモン受容体にも結合してしまうため男性における女性化乳房、女性では月経不順や乳房痛、多毛などの副作用が現れることがあります。
セララは性ホルモン受容体にはほとんど結合しないため、上記のような副作用は非常に少ない(ゼロではない)という特徴があります。
セララの副作用と相互作用について
まずは電解質失調。セララの利尿作用はそれほど強くはありませんが、ナトリウムと水の再吸収が阻害されることで過剰に排泄されてしまう可能性があります。
また脱水にも注意が必要です。めまいやふらつきなどがみられる場合がありますので、高所作業や自動車の運転等危険を伴う機械を操作する際には注意しましょう。
他にはカリウムの排泄が抑えられることによる高カリウム血症。高齢者や腎機能障害の方は特に注意が必要です。
カリウムの値が7mEq/Lを超えると致死的な不整脈を引き起こす危険性があるため、定期的にカリウムの値をチェックする必要があります。6.0mEq/L以上になった場合は中止します。
併用禁忌の薬はいくつかあります。まずはカリウム製剤やカリウム保持性利尿薬のアルダクトン、トリテレンです。併用すると高カリウム血症を引き起こす可能性があります。
禁忌ではないもののアジルバなどのARB、レニベースなどのACE阻害薬と併用する場合にも注意が必要です。
中等度以上の腎機能障害(クレアチニンクリアランス50mL/分未満)の患者も高カリウム血症を引き起こす可能性があるため禁忌となります。
続いてイトラコナゾール(イトリゾール:抗真菌薬)、リトナビル(ノービア:抗HIV薬)、ネルフィナビル(ビラセプト:抗HIV薬)。これらは肝薬物代謝酵素CYP3A4を阻害します。
セララはCYP3A4で代謝されます。そのためこれらと併用するとセララの血中濃度が上昇する可能性があるため併用禁忌となります。ちなみに重度の肝機能障害がある方には禁忌です。
CYP3A4を阻害する薬は上記以外にもありますが、それらは併用禁忌ではありません。しかし同様のリスクはありますので、セララの用法用量は1日1回25mg(常用量の半量)として対応します。
ループ利尿薬やチアジド系利尿薬の長期的服用で問題となる血糖や尿酸値への影響は少ないとされています。
それではセララについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。