今回はインクレチン関連薬の『トルリシティ皮下注0.75mgアテオス』ついて解説していきます。

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トルリシティ皮下注0.75mgアテオスとは?

 

まず名前の由来からいきましょう。トルリシティはTRULICITYと表記されますが、これは”True Simplicity”から”Tru”と”licity”を抜き出し組み合わせたもの。

 

”True Simplicity”は直訳で”真のシンプルさ”であり、これはトルリシティの操作が非常に簡単であることを意味しています。一般名はデュラグルチドになります。

 

アテオスはATEOSと表記されトルリシティ専用のデバイスです。トルリシティ皮下注0.75mgアテオスはアテオスにトルリシティが予めセットされたキット製剤になります(注射針まで一体化されています)。

 

素晴らしいのは針の取り付け、空打ちが不要、そしてキャップを外して底面を皮膚にあてて(ロックを解除し)ボタンを押すと自動的に注入されるという点。

 

そう、アテオスの名前の由来は”(皮膚に)あてて(ボタンを)押す”からきています。

 

トルリシティは週1回投与のGLP-1アナログ製剤であり、非常に操作が簡便であることから高齢者にも使いやすいのは間違いないでしょう。

 

トルリシティの効能効果、用法用量は以下です。

効能又は効果/用法及び用量
2型糖尿病

用法及び用量
通常、成人には、デュラグルチド(遺伝子組換え)として、0.75mgを週に1回、皮下注射する。

トルリシティ皮下注0.75mgアテオスの添付文書より引用

 

トルリシティの作用を簡単に説明すると、『血糖値が高い時にインスリンのを促し、血糖値を下げる』となります。それではまずインスリンの働きについてお話していきます。

インスリンの働きについて

 

まずはインスリンの働きについてお話していきます。私達が摂った食事(糖質)はそのまま身体に吸収されるわけではないんですね。

 

アミラーゼなどの消化酵素によりブドウ糖まで分解されることで、初めて小腸から吸収されるのです。その後にブドウ糖は血液中に移動します。

 

いわゆる血糖値は血液中のブドウ糖の量を指します。ブドウ糖は筋肉や肝臓などの全身の臓器に運ばれてエネルギーとして使用されます。また残ったブドウ糖はグリコーゲンや脂肪として蓄えられます。

 

『ブドウ糖を筋肉や肝臓などの全身の臓器に運ぶ』これを行っているのがインスリンです。しかしブドウ糖が血液の流れにのって各臓器に運ばれても臓器を構成する細胞の入り口が閉じていると、ブドウ糖は中に入る事ができません。

 

インスリンは細胞の入り口を開ける事ができます。こうして初めてブドウ糖は細胞内に入り、エネルギーとして利用できるようになります。また血液中のブドウ糖が減ることで血糖値が下がります。

 

健康な人はこれらが自然に行われているため、血糖値がきちんと管理されているわけです。

 

ではインスリンの働きが悪く、入り口のドアを少ししか開けることができない場合どうでしょうか?入り口が狭いため、ブドウ糖が細胞内に入る量が減ってしまいますよね。このことをインスリン抵抗性といいます。

 

また細胞の入り口を開ける能力を持つインスリンの量が少なかったらどうでしょうか?こちらも同じようにドアが十分に開かないため、細胞内に入るブドウ糖がいつもより少なくなってしまいます。このことをインスリン分泌不全といいます。

 

これらが原因で、いつもは細胞内に取り込まれていたブドウ糖が血液中に残ってしまうと血糖値が高くなってしまいますよね。この状態が続くと糖尿病になってしまうわけです。

 

トルリシティはインスリンの量を増やす薬になります。ですがその前に今回のメイン『インクレチン』についてお話しします。

インクレチンとは?

 

インクレチンとは血糖値上昇に伴って、主に小腸から分泌されるホルモンであり、血糖値が高い時だけ分泌が促進される、これが最大のポイントです。

 

インクレチンにはGLP-1GIPがあります。GLP-1はglucagon-like peptide-1の略で日本語ではグルカゴン様ペプチド1。

 

GIPはglucose-dependentinsulinotropic polypeptideの略で日本語ではグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチドといいます。

 

GLP-1は膵臓のβ細胞にあるGLP-1受容体に結合、GIPも同じく膵臓のβ細胞にあるGIP受容体に結合します。

 

すると細胞内のATP(アデノシン三リン酸:生命活動に必要なエネルギー源)がアデニル酸シクラーゼという酵素によりcyclic AMP(サイクリックエーエムピー)に変換されます。cyclic AMPはプロテインキナーゼAという酵素を活性化します。

 

プロテインキナーゼAは細胞膜上のカルシウムチャネルを開き、細胞内にカルシウムイオンが入ると、インスリン分泌顆粒と呼ばれる部分からインスリンが分泌されます。

 

インスリン分泌作用はGLP-1の方がGIPよりも強いです。またインクレチンはインスリン分泌を促す以外の作用も持ち合わせており、以下のようなものがあります。

 

GLP-1は膵臓のA(α)細胞から分泌されるホルモン『グルカゴン』の分泌を抑制します。グルカゴンは主に肝臓のグリコーゲンを分解してグルコースを作り出します。これを抑制できれば血糖値の上昇を抑えることができます。

 

他にも胃の運動を抑制し、食べ物が腸へ送られるのを遅らせたり、脳に働きかけ、食欲を抑制する作用も持っています。これにより食後の血糖値上昇、体重増加を抑制できます。これらを膵臓以外の作用という事で、膵外作用といいます。

 

とても素晴らしい働きをするインクレチンですが、DPP-4(dipeptidyl-peptidase-4:ジペプチジルペプチダーゼ4)という酵素と結合するため数分で分解されてしまうのです。

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トルリシティの作用機序と特徴

 

DPP-4阻害薬はインクレチンを分解する酵素DPP-4に結合します。するとDPP-4の働きが失われ、インクレチンは分解されず、膵臓に辿り着き作用を発揮できるようになります。

 

トルリシティはDPP-4阻害薬ではなくGLP-1アナログと呼ばれます。アナログとは『似(せ)たもの』を意味し、GLP-1を人工的に改良したものになります。作用はほぼGLP-1と同じです。

 

先ほどお話したようにGLP-1をそのまま投与してもDPP-4によりあっさり分解されてしまい意味がありません。

 

ではどうすればいいのでしょうか?実はアミノ酸の構造にヒントがあります。

 

アミノ酸にはアラニン(Ala)、プロリン(Pro)、チロシン(Tyr)、アルギニン(Arg)など20種類ありますが、その構造には共通点があります。

 

それはカルボキシル基(-COOH)アミノ基(-NH2)を持つというものです。片方の手がカルボキシル基、もう一方がアミノ基とイメージ頂くと良いかもしれません。

 

カルボキシル基側をC末端、アミノ基側をN末端といいます。アミノ酸同士のカルボキシル基とアミノ基が手を繋いでたくさん結合した状態、これがいわゆるタンパク質です。

 

GLP-1もアミノ酸が連なった構造をしており、N末端から2番目のアミノ酸がアラニンなのです。

 

DPP-4はインクレチンを分解させるとか言ってますが、真の作用は『N末端から2番目のアミノ酸がアラニンかプロリンの時、N末端から2つのアミノ酸を切断する』というものになります。

 

GLP-1はまさにその条件に一致します。そのためDPP-4により分解され作用を失うのです。

 

そこでトルリシティです。

 

トルリシティはN末端から2番目のアミノ酸をアラニンからグリシンに改変したものです。これによりDPP-4により分解されなくなるため、膵β細胞のGLP-1受容体に作用することができ、インスリン分泌を促進します。

 

更にトルリシティはN末端から16番目のアミノ酸をグリシンからグルタミン酸、30番目をアルギニンからグリシンに改変しています。

 

前者により溶解性が高まるため、同じGLP-1アナログのビデュリオンと異なり薬剤の用事調整が不要になったり、細い針でも投与可能に、また後者により免疫反応を起こさせる性質の低下が期待できます。

 

加えてトルリシティは免疫グロブリンG4(IgG4)に2つのGLP-1アナログが結合されています。これにより分子量が増え尿から排泄されにくくなります。そのため半減期が108時間と長く1週間作用を持続させることができるのです。

トルリシティの用法・用量、使用上の注意

 

注射する部位は腹部、上腕外側、大腿部です。

 

注射する場所は一箇所に決め、その中で毎回2cmくらいずつずらして注射します。理由は同じ場所に続けて注射することで皮膚が硬くなり、吸収が低下するためです。これはインスリン注射も同じですね。

 

打ち忘れた場合ですが、次回投与まで3日以上あいていれば直ちに投与します。その後は元々定めた曜日に投与します。次回投与まで3日未満の場合はその回はスキップ(飛ば)してください。

 

例えば毎週月曜日に投与する方の場合、水曜日に打ち忘れに気づいたとしましょう。この場合次回まで3日以上あいているため直ちに投与します。そして次回投与は翌週水曜日ではなく、本来定めた月曜日に打ち、その後毎週月曜日に打つ、という流れになります。

 

適応は2型糖尿病です。ただしDPP-4阻害薬とインスリン製剤との併用については有効性と安全性が確立していませんので注意が必要です。

トルリシティの副作用

 

便秘、下痢、吐き気が主な副作用になります。これについては胃の運動を抑制するため、いつもより胃に食物が長時間残るためです。

 

重大なものとしては低血糖。薬の性質上トルリシティ単剤では起こりにくいですが、インスリン分泌を促進するSU剤などと併用する場合はやはり注意が必要です。

 

他にも腸閉塞、急性膵炎や肝機能障害なども他のGLP-1アナログで稀ですが報告されていますので注意が必要です。急激な腹痛や嘔吐、黄疸などが現れた場合は直ちに病院を受診して下さい。

 

それではトルリシティについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。