今回は麻薬性鎮咳薬の「コデインリン酸塩」についてお話していきます。
スポンサーリンク
コデインリン酸塩とは?
まずは名前の由来からいきます。コデインリン酸塩の一般名はコデインリン酸塩水和物です。販売名は一般名をそのまま使用しています。
コデインリン酸塩の作用は主に3つあります。
・延髄にある咳中枢に作用することで咳を鎮める、
・オピオイド受容体に作用して痛みを抑える
・オピオイド受容体に作用して下痢を改善する
それではまず咳が起こる仕組みと痰についてお話していきましょう。
咳が出る仕組みと痰の排出について
風邪などで出る咳は本当につらいですよね。ですがこの咳、実は結構重要な役割を担っています。
例えば刺激のあるガスや細菌、ウイルス等の異物を吸い込んだ時、これらにより気道(空気の通り道)の粘膜にある咳受容体という部分が刺激されます。
するとその刺激が延髄の咳中枢に伝達され、反射的に咳が出ます。つまり咳は異物を体から排除するために起こる、生体防御反応の一つであり、なくてはならないものなのです。
また例えば風邪の場合、体に侵入した原因ウイルスは気道から分泌される粘液に取り込まれた後、白血球などの体の免疫システムと激しいバトルを繰り広げます。
この対決はそれは壮絶なもので、数多くのウイルス、白血球が息絶えます。粘液には両者の死骸が多く含まれています。これがいわゆる痰です。
痰は鼻からのどまで生えている線毛が小刻みに動く事により体外に排出されますが、気道に溜まった痰が咳受容体を刺激し咳をする事でも排出されます。
スポンサーリンク
コデインリン酸塩の作用機序と特徴
咳止めとしての作用
先ほど咳は非常に重要な生体防御反応の1つである、とお話しましたが、咳は非常に体力を消耗します。咳1回で2キロカロリー消費すると言われるほどです。ひどい咳はやはり鎮める必要があります。
咳中枢に刺激が伝わると、咳中枢が横隔膜等に咳をするよう命令することで咳が出ます。だったらこの咳中枢をなんとかできれば咳を鎮める事ができると思いませんか?
そこでコデインリン酸塩の登場です。
コデインリン酸塩は延髄の咳中枢に直接作用することにより、多少の刺激では「咳をしろ!」という命令を出させないようにする作用を持ちます。この咳止めとしての作用はメジコン、フラベリックよりも強いです。
痛み止めとしての作用
更にコデインリン酸塩は鎮痛作用も持ちあわせています。その理由を説明します。下の画像を見て下さい。
左がコデイン、右がモルヒネです。赤○で囲った部分以外は全く同じ構造をしています。
コデインは服用後肝臓で代謝されます。そのうち約10%がモルヒネになり、このモルヒネが鎮痛作用を発揮するのです。
作用機序は主に2つ。一つは下行性痛覚抑制系の活性化によるもの。もう一つが脊髄後角のオピオイドμ受容体を刺激することで侵害刺激伝達が抑えられる事によるもの。
まず下行性痛覚抑制系ですが、これは文字通り痛みを抑える神経であり、モルヒネは脊髄網様体のμ受容体を介してこの下行性痛覚抑制系を活性化する作用を持ちます。
続いて侵害刺激伝達の抑制。侵害刺激は「組織が傷害されるほどの強い刺激」と思って頂ければよろしいかと思います。
脊髄後角のオピオイドμ受容体に作用することで、その刺激が脳に伝わるのを抑えることができます。また大脳皮質にも働きかけ、痛みの闘値を上昇させる、つまり痛みを感じにくくする作用も持っています。
下痢止めとしての作用
更にモルヒネは下痢止めとしての作用も持ち合わせています。オピオイドμ受容体にはμ1受容体とμ2受容体があります。それぞれの作用を下にまとめます。
μ2受容体:鎮痛、鎮咳、鎮静、便秘、依存、呼吸抑制など
μ2受容体の部分に便秘ってありますよね。μ2受容体が刺激されると腸管の運動が抑制されます。
また肛門を拡げたり閉じたりする肛門括約筋の収縮が強まるため便秘が引き起こされます。この作用を逆手に取って下痢止めとして使用するのです。
コデインリン酸塩の副作用
作用機序の部分でもお話しましたが、μ受容体への作用による吐き気、嘔吐、便秘、鎮静、眠気などがみられます。モルヒネと副作用の内容は同じですが、コデインの方が基本的に弱いとされています。
コデインリン酸塩の取り扱い
現在販売されているコデインリン酸塩には以下があります。
・コデインリン酸塩10%散(1g中コデインリン酸塩100mg含有)
・コデインリン酸塩原末(1g中コデインリン酸塩1g含有)
・コデインリン酸塩錠5mg(1錠中コデインリン酸塩5mg含有)
・コデインリン酸塩錠20mg(1錠中コデインリン酸塩20mg含有)
赤字のものが麻薬、黒字は非麻薬となります。黒字のものは家庭麻薬に分類され、麻薬及び向精神薬取締法において以下のように定義されています。
千分中十分以下のコデイン、ジヒドロコデイン又はこれらの塩類を含有する物であって、これ以外の前各号に掲げる物を含有しないもの
「千分中十分以下 = 10g/1000g = 0.01g/1g」つまり1g中0.01g(10mg)以下のコデインは家庭麻薬ということになります。含まれるコデインの量により取り扱いが異なるのです。
コデインが2019年より12歳未満に禁忌へ
コデイン(含有製剤も含む)ですが、日本国内において2019年から12歳未満に禁忌になります。
コデインは作用機序の項でお話した通り、肝臓で代謝されるのですが、もう少し詳しく書くと、肝臓の薬物代謝酵素CYP2D6により代謝され、モルヒネになることで効果を発揮します。
ここで注意が必要なのはCYP2D6の活性が過剰な人(Ultra-rapid metabolizer:URM)です。
コデインの代謝が加速し、また代謝される量が多くなるため、モルヒネの血中濃度が正常よりも高くなる可能性があります。つまり副作用である呼吸抑制が起こりやすくなるのです。
そこで安全性を考慮して、アメリカでは2017年4月20日、コデイン類を含む医療用医薬品を12歳未満の小児に禁忌となりました。日本もこれにならい、2019年より12歳未満に禁忌にしようということになったのです。
「ん?なんでまだ猶予期間があるんだ?すぐに禁忌にするべきだろう!」という方もいらっしゃると思います。
ごもっともな意見です。2018年末までは経過措置期間となる理由ですが、
・国内で報告された重篤な副作用は4例(医療用2例、OTC2例)
・2011年から2015年の期間で健康被害の報告なし(故意の大量摂取、誤飲などは除く)
・日本人はCYP2D6が過剰な人が少ない(欧米人:3.6%~6.5% 日本人:0.5%)
という事が挙げられています。
基本的に風邪で小児科を受診する場合は、コデイン含有製剤を処方されるケースはあまりないと思います。
影響が大きいのはOTC薬ですね。コデイン含有製剤は医療用65品目(後発含)に対し、OTC薬は約600品目もあるようですから即禁忌なんかにすると現場は大混乱でしょう。こちらの方が理由としては大きいような気がします。
それではコデインリン酸塩については以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。