今回は抗血小板薬の「プレタール」についてお話していきます。

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プレタールとは?

 

まずは恒例名前の由来からいきましょう。英語plateletは”血小板”を意味します。ここからPletaal:プレタールと命名されました。一般名はシロスタゾールです。

 

プレタールの作用機序を簡単に説明すると「血小板の働きを抑えることで、血栓(血の塊)が作られるのを抑える」となります。

 

プレタールは以下の適応を持ちます。

効能又は効果

・慢性動脈閉塞症に基づく潰瘍、疼痛及び冷感等の虚血性諸症状の改善
・脳梗塞(心原性脳塞栓症を除く)発症後の再発抑制

プレタールOD錠50mg/プレタールOD錠100mg

それではまず慢性動脈閉塞症についてお話していきます。

慢性動脈閉塞症とは?

 

慢性動脈閉塞症は閉塞性動脈硬化症と閉塞性血栓血管炎に分類されます。

閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans:ASO)

慢性動脈閉塞症の8割以上がこちら。手足(主に足)の血管の動脈硬化が原因となり、血管が狭くなったり(狭窄)、詰まったり(閉塞)することで血液の流れが悪くなる病気です。

 

重症度分類としてFontaine(フォンテイン)分類が用いられます。

FontaineI度:冷感・しびれ感

血液の流れが悪くなることで十分な栄養や酸素を供給できなくなり、手足が冷たく感じたり、しびれたりします。初期に見られます。

FontaineⅡ度:間歇性跛行(かんけつせいはこう)

動脈硬化が進行すると一定の距離を歩くと足の裏やふくらはぎが痛くなり歩けなくなりますが、数分休むとおさまり、再び歩くことができるようになります。これを間歇性跛行と言います。

FontaineⅢ度:安静時疼痛

さらに進行すると、動かずにじっとしていても手足が痛み夜もぐっすり眠れなくなります。

FontaineⅣ度:潰瘍・壊死

重症になると足に潰瘍ができ、壊死に至るケースも。最悪足を切断しなければならないこともあります。

 

閉塞性動脈硬化症のある患者様は、手足だけでなく他の血管にも動脈硬化がみられる場合があるため注意が必要です。

 

原因は喫煙、糖尿病、高血圧、脂質異常症など。やはりこの病気も生活習慣病にならないことが大切です。

閉塞性血栓血管炎(thromboangiitis obliterans:TAO)

別名バージャー病(ドイツ語ではビュルガー病)とも呼ばれ、残りの2割がこちらになります。手足の血管に炎症が起こることで動脈が閉塞し、血液の流れが悪くなる病気です。症状としては上記閉塞性動脈硬化症と同じです。

 

原因は未だ解明されていませんが、喫煙が強く関係していると考えられています。そのため禁煙が治療、予防ともに一番重要となります。

脳血管障害(脳卒中)とは?

 

脳卒中図

まず脳卒中は虚血性と出血性に分類されます。前者の代表が脳の血管が詰まる脳梗塞、一過性脳虚血症(TIA)など。後者の代表が脳の血管が破れる脳出血やクモ膜下出血などになります。

ラクナ梗塞

主に高血圧が原因で起こります。脳の細い血管(穿通枝動脈)が高血圧などにより厚くなったり壊死を起こすと血管内が狭くなり、やがて詰まってしまいます。穿通枝動脈にできる直径15mm未満の小さな梗塞をラクナ梗塞といいます。

アテローム血栓性脳梗塞

こちらは高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病が主な原因となっています。脳内の太い血管壁にコレステロールが蓄積するとアテロームと呼ばれる粥状の塊ができます。

 

更にアテロームが固まると血管壁が盛り上がり、プラークと呼ばれるコブを形成し、プラークが破れると血栓が作られて血管が詰まってしまいます。これがアテローム血栓性脳梗塞です。

心原性脳塞栓症

これは文字通り心臓にできた血栓が脳に運ばれて、脳内の血管が詰まってしまうタイプの脳梗塞になります。脳ではなく心臓でできた血栓が原因のため突然発症します。また症状は重いことが多いです。

 

一過性脳虚血発作(transient ischemic attacks:TIA)は一時的に脳の血管が詰まってしまうことで、手足の力が抜ける、ろれつが回らない、片方の目が見えなくなるなどの症状が出現するものの、24時間以内に症状が消失する発作のことです。

 

これは血栓の大きさが小さいため、一時的に詰まっても自然に溶けるため症状が消失するのです。ただこれを絶対に放置してはいけません!

 

TIAは脳梗塞の前兆とも言われ、非常に危険な状態です。可能な限り早く病院を受診して下さい。精密検査の後、速やかに治療を開始すれば脳梗塞の発症を抑えることができる可能性が高くなります。

脳出血

主な原因は加齢、そして高血圧です。一時的に血管に強い圧がかかる位なら問題にはなりませんが、過度の圧力がかかる状態が長い間放置されると、加齢も加わり血管壁がもろくなり破れて出血します。

 

また血管壁がふくらんで小さなコブ(動脈瘤)ができると更に圧がかかりやすくなり、その一部が破裂して脳の中に出血する場合もあります。いずれも脳の細い血管でみられます。

くも膜下出血

脳は外側から硬膜、くも膜、軟膜という膜に覆われています。このうちくも膜と軟膜の間の太い血管にできた動脈瘤が破裂して、くも膜下で出血が起こり、脳を圧迫するのがくも膜下出血です。症状としては物凄く激しい頭痛と嘔吐が突然現れます。

プレタールの作用機序と特徴

 

それでは作用機序にいきましょう。

 

まず前提として、血小板内のカルシウムイオン濃度が上昇すると血小板が活性化する、つまり血栓が形成されることになります。

 

血小板内にはアデニル酸シクラーゼ(以下AC)と呼ばれる酵素があるのですが、ACによりATP(アデノシン3リン酸)はcyclic AMP(サイクリックエーエムピー)に変換されます。

 

cyclic AMPは血小板内のカルシウムイオン濃度の上昇を抑える働きを持っています。

 

また血小板にはADP(アデノシン2リン酸)、セロトニンなど多くの生理活性物質が含まれており、ADPが血小板外に放出されると、ADPは血小板の表面に存在するADP受容体(P2Y12)に結合します。

 

するとADP受容体によりACの働きが抑えられてしまうのです。

 

またcyclic AMPはホスホジエステラーゼ3(以下PDEⅢ)という酵素により分解されることがわかっています。

 

PDEⅢによりcyclic AMPが分解され、その量が減ってしまうと血小板内のカルシウムイオン濃度が上昇し、血小板が活性化して凝集し、血栓が形成されてしまいます。

 

以上から血栓の形成を抑える方法としては…

血栓の形成を抑える方法

1.アデニル酸シクラーゼ(AC)を活性化する
2.cyclic AMPを増やす
3.ADPのADP受容体(P2Y12)への結合を阻害する
4.ホスホジエステラーゼ3(PDEⅢ)の働きを阻害する

といったことを行えばいいことがわかりますね。

 

プレタールは上記「4.ホスホジエステラーゼ3(PDEⅢ)の働きを阻害する」作用を持ちます。

 

プレタールがPDEⅢの働きを阻害することで、cyclic AMPの分解を抑えることができます。するとcyclic AMPの量が増え血小板の活性を抑える、つまり血栓の形成を抑えることができるのです。

 

またプレタールは血小板だけでなく、血管平滑筋細胞でも同様にPDEⅢを阻害することにより、血管を拡張する作用も持ち合わせています。

 

そのため手足の動脈が動脈硬化により狭くなったり、詰まったりすること血液の流れが悪くなる慢性動脈閉塞症にも適応があるのです。

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プレタールの副作用

 

血液をサラサラにするわけですから、出血しやすくなるというのは想像に難くないでしょう。そのため出血している方は禁忌となります。青あざができたり、鼻血や歯茎からの出血がみられた場合は医療機関を受診して下さい。

 

また血管拡張作用がありますので、頭痛、動悸、頻脈などが現れる場合があります。頻脈により狭心症を発現する可能性があるため、冠動脈狭窄を合併する患者様に投与する際は注意が必要です。

プレタールの注意事項

 

プレタールはその作用から出血しやすくなるわけですから、手術前に一時的に服用を中止します。医療機関により異なりますが、概ね3日前に中止することが多いかと思われます。

 

また妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には禁忌となります。動物実験(ラット)で異常胎児の増加や出生児の低体重、死亡児の増加が報告されています。

 

また同じく動物実験(ラット)において乳汁中への移行が報告されていますので服用中は授乳は基本的に控えます。

 

またプレタールは肝薬物代謝酵素CYP3A4で主に代謝されます。

 

つまりCYP3A4を阻害する薬剤であるイトリゾール等のアゾール系抗真菌薬、クラリスロマイシン等のマクロライド系抗菌薬などと併用する際プレタールの代謝が阻害され血中濃度が上昇する可能性があるため注意が必要です。

 

グレープフルーツジュースもCYP3A4を阻害する作用を持ちます。プレタール服用中にどうしても柑橘系が摂りたい方はフラノクマリンを含まないレモンや温州みかん、バレンシアオレンジ、かぼす等で我慢しましょう。

 

それではプレタールについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。