今回は漢方薬の安中散(アンチュウサン)について解説します。

スポンサーリンク

安中散の名前の由来

 

「中」は中焦、つまり直立した人体を上・中・下に分けた中心にくる腹部を、「安」は改善を意味します。

 

「安中=上部消化管に生じる症状(胸やけ、おくび、心窩部膨満感、悪心、嘔吐、腹痛、食欲不振等)を改善する」という効能を持つということで安中散と命名されています。

安中散の作用機序と特徴

 

安中散は胃痛に対して効果を発揮する漢方薬で、含まれている生薬は桂皮(ケイヒ)、延胡索(エンゴサク)、牡蛎(ボレイ)、茴香(ウイキョウ)、甘草(カンゾウ)、縮砂(シュクシャ)、良姜(リョウキョウ)です。

 

東洋医学では漢方薬の適応を判断するため、個別の患者の状態を判断する「証」という概念を用います。安中散に適応がある証は虚証・寒証で、体力がなくて疲れやすく、体が冷えるタイプの人に向いている漢方薬です。

関連記事漢方薬の処方の基本~証、陰陽、虚実、気血水とは?

 

効能又は効果
やせ型で腹部筋肉が弛緩する傾向にあり、胃痛または腹痛があって、ときに胸やけ、げっぷ、食欲不振、はきけなどを伴う次の諸症:
神経性胃炎、慢性胃炎、胃アトニー

用法及び用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。

ツムラ安中散エキス顆粒(医療用)の添付文書より引用

 

漢方薬は科学的に作用機序が解明されていないものが多く、安中散もその例外ではありません。そのため、作用機序は含まれている生薬から考察していく必要があります。

 

まず含有生薬は、胃粘膜に作用して温める効果があるものと、胃の痛みを緩和するものに分かれます。

 

桂皮、延胡索、縮砂、良姜、茴香は胃腸を温める効果を持ち、延胡索、甘草は平滑筋の痙攣を抑制することで胃腸の引きつりによる痛みを緩和します。

 

牡蛎は炭酸カルシウムを含むために制酸作用を発揮し、さらに精神安定効果もあるため、ストレスによる症状にも効果があります。

 

縮砂、茴香、桂枝、良姜は健胃効果で蠕動運動を改善させ、胃痛に対して効果的に作用を発揮していきます。

 

同じ胃腸に作用する漢方薬では六君子湯が有名ですが、安中散はストレスや胃の冷えに伴って起きる胃痛に対して優れるのに対し、六君子湯は胃腸への水分停滞を改善してエネルギーを補完し、消化能力を補助する作用に優れています。

 

同じ虚証への漢方薬ではありますが、安中散には補益効果はなく、水滞に対する効果も期待できません。逆に、六君子湯では強い胃痛には対処できない場合が多々あります。

 

この二つの漢方薬は、胃腸の状態によっては併用されることも多く、たとえば胃腸虚弱が顕著で痛みが強い場合には、双方の漢方薬を併用していくこととなります。

 

さらに安中散では、サバなどの生魚から人体に感染し、強い胃痛を引き起こす寄生虫であるアニサキスに対して殺虫効果があるという報告があり、安中散を溶かした薬液をアニサキスに振りかければ3時間ほどで死滅するという報告があります。

 

この効果は、含有生薬である茴香によるものだと報告されていますが、人体において胃内に3時間も一定の濃度で安中散が維持されることはありえません。

 

そのため、服薬した安中散がアニサキスに効果を発揮するかどうかには、正直疑問が残ります。

スポンサーリンク

安中散の副作用

 

安中散では副作用の発現頻度が明確になる調査を行っていないため、その詳しい発生頻度は不明です。重大な副作用としては甘草に由来するものが報告されており、使用する際にはその兆候となる症状に注意が必要です。

 

低カリウム血症や血圧の上昇、浮腫を引き起こしてしまう偽アルドステロン症、前述の低カリウム血症の結果として筋肉の動きに悪影響を与えてしまうミオパチーの発生が報告されています。それらの可能性がある場合には、服用の中止やカリウム剤の投与などの適切な処置が必要になります。

 

その他の副作用として、発疹・発赤、掻痒感などの過敏症状の報告があります。服用中にこれらの症状が現れた場合は、かかりつけの医師、薬剤師に伝えるようにして下さい。

安中散の飲み方と注意事項

 

安中散は1日2~3回に分けて空腹時に服用するのが効果的です。もし服用を忘れて食事をしてしまった場合には、効果が減弱する可能性がありますが、毎回でなければ気づいた時点で服用しても大丈夫です。

 

安中散は散剤として調整された漢方薬ですので、お湯に溶かして服用する必要はありません。

 

有効成分の重複には注意を要するものがあり、甘草を含む漢方薬の併用には注意しなければいけません。甘草の有効成分として含有されているグリチルリチン酸を使用している医薬品も同様に注意する必要があり、併用注意となっています。

 

妊娠中の使用に関しては、「有益性が危険性を上回った場合に使用する」となっていますが、含まれている生薬の中には妊娠に対して不具合を起こすようなものはありません。

 

妊娠中の胃痛などに使用されている実績があり、自己判断ではなく、医師の指示の下で使用するのなら、安全性が高いものだと言えるでしょう。

 

それでは安中散については以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。