今回はV2-受容体拮抗剤の『サムスカ』についてお話していきます。

スポンサーリンク

サムスカとは?

 

それではまず名前の由来からいきたいところですが、サムスカは特にないようですね。一般名はトルバプタンになります。

 

サムスカの作用を一言で言うと、「腎臓に働きかけて尿量を増やすことで血中の過剰な水分が減少し、浮腫(むくみ)がとれるとなります。

 

サムスカの適応は以下の3つです。

・ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分な心不全における体液貯留
・ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分な肝硬変における体液貯留
・腎容積が既に増大しており、かつ、腎容積の増大速度が速い常染色体優性多発性のう胞腎の進行抑制

ここでは心不全について簡単にお話していきたいと思います。

心不全とは?

 

心不全は病名ではなく、心臓の機能が低下したことにより、血液を全身に送り出すことが十分にできなくなった状態のことをいいます。心不全は心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患、高血圧などによる心筋症や不整脈、弁膜症など様々な病気が原因となります。

 

心臓の機能が低下することは非常に危険であることは皆さんご承知のことと思います。そのため心臓は多少機能が低下したくらいでしたらそれを補うだけの余力を残しているのです。これを代償作用といいます。

 

しかしその余力を使い果たしてしまうと動悸や息切れ、呼吸困難、むくみ、体がだるい、すぐに疲れてしまうなどの症状が現れてきます。心不全の症状が現れた時には心臓は相当疲れている、ということを認識してください。

 

心不全には急性心不全と慢性心不全があり、前者は急激に心臓の機能が低下するもの、後者は徐々に心臓の機能が低下していくものです。要は余力を急激に使い果たすか、徐々に使い果たすかの違いです。

 

さて先ほど心不全の症状についてお話しましたが、どのようにしてこれらの症状が現われるのかもう少し詳しくみていきましょう。

 

血液が心臓(左心室)を出て全身を巡り、再び心臓(右心房)に戻ってくる循環を体循環、心臓(右心室)を出て肺を通り心臓(左心房)に戻る循環を肺循環といいます。

 

心不全の多くは左心室の機能が低下することにより起こります。左心室の機能が低下すると、全身の臓器や筋肉に酸素や栄養素を十分に運ぶことができなくなります。このため体がだるくなる、すぐに疲れるなどの症状が現れるのです。

 

また血液の流れが滞ることで、行き場を失い血管の周囲に水分が染み出してしまいます。これがいわゆる浮腫(むくみ)です。足に多く見られます。

 

特に肺で血液の流れが滞る(肺うっ血)とガス交換が十分にできなくなるため、息切れや呼吸困難が生じ、更に血液の酸素濃度が低下するため、皮膚や粘膜が青紫色になります。これをチアノーゼといいます。

 

チアノーゼを解消しようと心臓が頑張りますので心拍数が増加して動悸が生じます。肺うっ血が更に進行すると肺が水浸しになる肺水腫となり、非常に危険です。すぐに病院を受診する必要があります。

 

他に腎臓を流れる血液の量も低下しますので、これにより尿量が低下するため体重が増加します。夜間頻尿が増えるのは仰向けになると下肢に溜まっていた水分が腎臓に流れるからです。

 

このように心不全にはさまざまな症状が現れます。それでは続いて尿の排泄のしくみについて見て行きましょう。

スポンサーリンク

尿の排泄のしくみ

 

腎臓には体に不要な物がつまった血液が送られてきます。ただ必要な物も多く入っているため、そのまま全部捨てるわけにはいきません。そこで腎臓の糸球体という場所で血液を一度濾過します。糸球体は目が非常に細かいため、赤血球や白血球などの大きい物は濾過されないようになっています。

 

糸球体で濾過されたものを『原尿』といいますが、原尿はそのまま全て排泄されるわけではありません。なぜなら原尿は150Lもあり、さらに体に不要な物だけでなく糖分や電解質など体に必要な物も多く含まれているんですね。

 

最終チェックを行うのが尿細管という場所です。尿細管は近位尿細管、ヘンレ係蹄上行脚、ヘンレ係蹄下行脚、遠位尿細管、集合管と大きく5つに分けることができます。

 

名称 再吸収される主な物質
近位尿細管

ブドウ糖、アミノ酸、Na、K、重炭酸イオン(HCO3-)水分

ヘンレ係蹄(ループ) 電解質(Na、Cl、K)、水分
遠位尿細管 電解質(Na)、水分
集合管 電解質(Na)、水分

※Naの再吸収の割合:近位尿細管で70%、ヘンレループで20%、遠位尿細管で7%、集合管で3%

それぞれの働きを簡単にまとめると、上の表のようになります。最終的に尿として排泄されるのは約1%で、1.5Lほどです。

サムスカの作用機序と特徴、注意事項

 

脳下垂体後葉から分泌されるホルモンの1つにバソプレシンと呼ばれるものがあります。バソプレシンは集合管にあるバソプレシンV2-受容体に結合すると、細胞内に存在するアクアポリン-2が管腔側つまり集合管側に移動します。

 

アクアポリンはaquaporinと表記され、aquaは、porinは孔を意味します。文字通り”水の通り道”であり、アクアポリンを通して集合管から水分が再吸収されるのです。そのためアクアポリンは水チャネルとも呼ばれます。

 

またバソプレシンは水分を再吸収する、つまり利尿を抑えることになりますので抗利尿ホルモン(ADH:antidiuretic hormone)と呼ばれています。

 

さて以上からサムスカの作用機序、皆さんもうおわかりですね。

 

サムスカは本来バソプレシンが結合するはずだったバソプレシンV2-受容体に結合する作用を持ちます。その結果アクアポリン-2は集合管側に移動することができなくなるため、水の再吸収が邪魔されることにより体の中の余分な水分が排出され、むくみがとれるのです。

 

先ほどお話した通りアクアポリンは水しか通しませんので、サムスカは水の再吸収だけを邪魔することになります。他の電解質の排泄は増やさず、水の排泄だけを増やす”水利尿薬”になります。ここが最大の特徴ですね。

 

単独投与ではナトリウムが排泄されないため他の利尿薬(ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬、抗アルドステロン薬等)を先に使用し、効果が不十分な場合のみサムスカを併用するようにします。

 

サムスカの利尿作用は非常に強力です。初回投与、再開は必ず入院中に行うようにします。副作用については後述しますが、体内の水分が一気に排泄されることによる脱水、それに伴う高ナトリウム血症、高カリウム血症、また投与2週間以内に多くみられる肝機能障害が発現する危険性があるからです。

 

そのためナトリウムやカリウムなどの電解質、肝機能は投与前に測定しておく必要があり、また開始後も頻回に測定しなければなりません。添付文書にも以下のように記載されています。

本剤投与開始後24時間以内に水利尿効果が強く発現するため、少なくとも投与開始4~6時間後並びに8~12時間後に血清ナトリウム濃度を測定すること。投与開始翌日から1週間程度は毎日測定し、その後も投与を継続する場合には、適宜測定すること。本剤の投与初期から重篤な肝機能障害があらわれることがあるため、本剤投与開始前に肝機能検査を実施し、少なくとも投与開始2週間は頻回に肝機能検査を行うこと。またやむを得ず、その後も投与を継続する場合には、適宜検査を行うこと。
※サムスカ添付文書 重要な基本的注意I.心不全における体液貯留の場合より抜粋

頻回の採血は大変ですが患者様に有害事象が発現しないため、また早期発見には必要です。

 

サムスカは作用が強力な分注意して使用する必要があり、安易に処方される薬ではありません。薬価も7.5mg錠で1280.8円(平成28年4月時)と非常に高くなっています。

 

また妊婦、授乳婦への投与は控えます。動物実験において胎児の奇形や死亡、母乳への移行が報告されているためです。

サムスカの副作用

 

口渇や頻尿、多尿などが主なものです。水分制限されている患者様もいるかと思いますが、脱水予防のためにものどが乾いた時は我慢せず水分を摂るようにしましょう。具体的な量については処方される医師に確認しておきます。

 

上記以外にも副作用は報告されていますが、ここでは高ナトリウム血症と高カリウム血症、肝機能障害をピックアップしたいと思います。

 

まず高ナトリウム血症。サムスカにより急激に体内の水分が排泄されると、血液中のナトリウム濃度が高まることで口渇、痙攣、吐き気、頭痛、ひどい場合は意識障害がみられる場合があります。

 

特にナトリウム濃度が125mEq/L未満の患者様に投与した場合、急激なナトリウム濃度の上昇により、橋中心髄鞘崩壊症を引き起こすことがあります。橋中心髄鞘崩壊症は物が飲み込めなくなる、話せなくなる、手足が麻痺、痙攣などの症状が現れる脳の病気で非常に危険です。数日~数週間で亡くなる場合もあります。

 

このことからも頻回にナトリウムを測定する必要があるのがわかりますね。よって口渇を感じられない、訴えられない、水分摂取が困難な患者様にはサムスカを使用することができません。また24時間以内にナトリウム濃度が12mEq/Lを超える上昇がみられた場合は中止します。

 

続いて高カリウム血症。吐き気やしびれ、体がだるくなるなどの症状が現れます。カリウムの値が7mEq/Lを超えると致死的な不整脈を引き起こす危険性があります。特にカリウムを上昇させる作用のある薬(ARBなど)と併用する際は十分注意が必要です。

 

そして肝機能障害です。これは投与開始後2週間以内に特にみられやすいとされています。症状としては吐き気や食欲の低下、体のだるい、皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)、尿が褐色になるなどがあります。肝機能についても定期的に測定する必要があります。

サムスカの相互作用

 

サムスカは肝薬物代謝酵素CYP3A4にて代謝されます。そのためCYP3A4を阻害するイトラコナゾール(抗真菌薬)、クラリスロマイシン(抗菌薬)、グレープフルーツジュースなどと併用するとサムスカの代謝が阻害され血中濃度が上昇し作用が強く出てしまう可能性があります。やむを得ず併用する場合はサムスカを減量するなどして対応します。

 

グレープフルーツ以外にもスウィーティー、ザボンなどの一部の柑橘系もCYP3A4を阻害する成分フラノクマリンを含んでいます。もしどうしても柑橘系を摂りたい方はフラノクマリンを含まないレモンやバレンシアオレンジ、温州みかん、かぼすで我慢して下さいね。

 

それではサムスカについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。