今回は漢方薬の柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)について解説します。
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柴胡加竜骨牡蛎湯の名前の由来
小柴胡湯から甘草を除いた処方である「柴胡湯」に竜骨と牡蛎を加えた処方ということで、柴胡+竜骨+牡蛎+加=柴胡加竜骨牡蛎湯と命名されています。※実際は桂皮と茯苓も追加されています。
柴胡加竜骨牡蛎湯の作用機序と特徴
柴胡加竜骨牡蛎湯は動悸や不眠、ヒステリーなどの精神症状を中心に効果を発揮する漢方薬で、含まれている生薬は柴胡(サイコ)、半夏(ハンゲ)、桂皮(ケイヒ)、茯苓(ブクリョウ)、黄芩(オウゴン)、大棗(タイソウ)、人参(ニンジン)、牡蛎(ボレイ)、竜骨(リュウコツ)、生姜(ショウキョウ)です。
東洋医学では漢方薬の適応を判断するため、個別の患者の状態を判断する「証」という概念を用います。
柴胡加竜骨牡蛎湯の適応となる証は、実証・気逆であり、体力が充実していて熱っぽく、イライラしてのぼせやすいタイプの人に向いている漢方薬です。
冒頭で触れましたが、小柴胡湯の配合を中心に、そこから甘草を抜いて竜骨・牡蛎を加えたものが柴胡加竜骨牡蛎湯となります。
小柴胡湯は解熱鎮痛作用を中心に、ストレス耐性作用・免疫調節作用を持つ漢方薬であり、そこに精神安定効果が顕著な作用である竜骨と牡蛎を加えることで、精神的なストレスの緩和効果が増強して発揮されるのです。
添付文書には以下のように記載されています。
効能又は効果
比較的体力があり、心悸亢進、不眠、いらだち等の精神症状のあるものの次の諸症
高血圧症、動脈硬化症、慢性腎臓病、神経衰弱症、神経性心悸亢進症、てんかん、ヒステリー、小児夜啼症、陰萎用法及び用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。ツムラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒(医療用)の添付文書より引用
漢方薬は科学的な作用機序が判明していないものが多い中、柴胡加竜骨牡蛎湯では研究が多くされ、その作用機序もある程度判明しています。
柴胡加竜骨牡蛎湯を服用することによって、副腎皮質ホルモンであるグルココルチコイドの働きを活性化させることが知られています。
ストレスなどの精神的な負担が大きくなると、グルココルチコイド受容体の働きが鈍くなって、神経伝達物質であるセロトニンやドパミンの分泌が減少し、不安感やうつ症状などを呈します。
柴胡加竜骨牡蛎湯はこのグルココルチコイド受容体の働きを活性化させることで、間接的に精神症状に関係する神経伝達物質の働きを正常化し、効果を発揮しています。
鎮静効果のある神経伝達物質が分泌されるようになって興奮状態が緩和され、眠気も誘起されることで不眠を解消します。更に神経調節作用に加え、血管の収縮に関与するノルアドレナリンの分泌にも作用するため、脳血管の拡張・収縮によって誘起される頭痛を緩和する効果も期待できます。
神経系を正常化するように働き、精神的なストレスを緩和するため、心因性の多汗症に対しても使用される漢方薬です。
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柴胡加竜骨牡蛎湯の副作用
柴胡加竜骨牡蛎湯では副作用の発現頻度が明確になる調査を行っていないため、その詳しい発生頻度は不明です。重大な副作用としては柴胡に由来するものが報告されており、使用する際にはその兆候となる症状に注意が必要です。
肝機能検査値異常や黄疸、強い倦怠感、かゆみなどを引き起こしてしまう肝機能障害や、呼吸困難や咳・発熱や肺音の異常などが起きる間質性肺炎の報告があります。
また、その他の副作用として、胃部不快感などの消化器症状、発赤や掻痒感などの過敏症状なども報告されています。服用中にこれらの症状が現れた場合は、かかりつけの医師、薬剤師に伝えるようにして下さい。
柴胡加竜骨牡蛎湯の飲み方と注意事項
柴胡加竜骨牡蛎湯は1日2~3回に分けて空腹時に服用するのが効果的です。もし服用を忘れて食事をしてしまった場合には、効果は減弱してしまう可能性はありますが気づいた時点で服用しても大丈夫です。
柴胡加竜骨牡蛎湯は生薬をお湯に煮出して服用するタイプの薬でしたが、使い勝手を考慮した結果として煮出した薬液を加工し、散剤としたものです。そのため服用する時には元の形に戻した方が効果的だと言われています。
あまりに熱いお湯では、薬効成分が揮発してしまうため、約60℃程度のぬるま湯で溶かして服用するのがよいでしょう。
柴胡加竜骨牡蛎湯と抗てんかん薬・向精神薬を併用する場合、症状の軽快時に自殺企図を起こす可能性があり、服薬していない場合に比べて2倍程度リスクが高くなっているという報告があります。
妊娠中の使用に関しては有益性がある場合にのみ使用することとなっていますが、含まれている半夏が妊婦に対して副作用を発揮しやすいと言われているため、注意が必要です。
また、柴胡加竜骨牡蛎湯は実証向けの漢方薬である為、妊娠中の証に適応しない場合が多く、あまり使用されないものだと言えるでしょう。以上から自己判断で服用せず、必ず医師の判断を仰ぐようにしましょう。
それでは柴胡加竜骨牡蛎湯については以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。