今回は糖尿病治療薬のエクメットについて解説します。

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エクメットとは?

 

まずは名前の由来からいきましょう。

商品名 一般名 分類
Equa(エクア) Vildagliptin(ビルダグリプチン) DPP-4阻害薬
Metgluco(メトグルコ) Metformin(メトホルミン) ビグアナイド系

EquMet:エクメット

は上記2剤の合剤になります。EquaとMetforminの下線部を組み合わせてEquMetと命名されています。

 

主な作用は以下の4つ。

・血糖値が高い時にインスリンの分泌を促す
・インスリン抵抗性を改善する
・肝臓での糖新生を抑制する
・腸管からの糖吸収を抑制する

 

それでは作用機序の前に、インスリンとインクレチンについて簡単に解説していきましょう。

インスリンの働きについて

 

私達が摂った食事(糖質)はそのまま身体に吸収されず、アミラーゼなどの消化酵素によりブドウ糖まで分解され、初めて小腸から吸収されるようになっています。その後にブドウ糖は血液中に移動するわけです。

 

いわゆる血糖値は血液中のブドウ糖の量を指します。ブドウ糖は筋肉や肝臓などの全身の臓器に運ばれてエネルギーとして使用されます。また残ったブドウ糖はグリコーゲンや脂肪として蓄えられます。

 

「ブドウ糖を筋肉や肝臓などの全身の臓器に運ぶ」これを行っているのがインスリンです。ただしブドウ糖が各臓器に運ばれても、臓器を構成する細胞の入り口が閉じていると、ブドウ糖は中に入る事ができません。

 

インスリンは細胞の入り口を開ける事ができます。こうして初めてブドウ糖は細胞内に入り、エネルギーとして利用できるようになります。また血液中のブドウ糖が減ることで血糖値が下がります。

 

健康な人はこれらが自然に行われているため、血糖値がきちんと管理されているわけです。

 

ではインスリンの働きが悪く、入り口のドアを少ししか開けることができない場合どうでしょうか?

 

入り口が狭いため、ブドウ糖が細胞内に入る量が減ってしまいますよね。このことをインスリン抵抗性といいます。

 

また入り口を開ける能力を持つインスリンの量が少なかったらどうでしょうか?

 

こちらも同じようにドアが十分に開かないため、細胞内に入るブドウ糖がいつもより少なくなってしまいます。このことをインスリン分泌不全といいます。

 

これらが原因でいつもは細胞内に入っていたブドウ糖が血液中に残ってしまい、血糖値が高くなってしまいます。この状態が続くと糖尿病になってしまうわけです。

インクレチンとは?

 

インクレチンとは血糖値上昇に伴って、主に小腸から分泌されるホルモンです。血糖値が高い時だけ分泌が促進されるこれがポイントです。

 

インクレチンにはGLP-1GIPがあります。GLP-1はglucagon-like peptide-1の略です。日本語ではグルカゴン様ペプチド1。

 

GIPはglucose-dependent insulinotropic polypeptideの略で日本語ではグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチドといいます。

 

インクレチンによるインスリン分泌の流れ

GLP-1が膵臓のβ細胞にあるGLP-1受容体に結合、GIPも同じく膵臓のβ細胞にあるGIP受容体に結合

細胞内のATP(アデノシン三リン酸:生命活動に必要なエネルギー源)がアデニル酸シクラーゼという酵素によりcyclic AMPに変換される

cyclic AMPがプロテインキナーゼAという酵素を活性化

プロテインキナーゼAが細胞膜上のカルシウムチャネルを開き、細胞内にカルシウムイオンが入る

インスリン分泌顆粒と呼ばれる部分からインスリンが分泌される

この流れでインスリンが分泌されるようになっています。ちなみにインスリン分泌作用はGLP-1の方がGIPよりも強いです。

 

またインクレチンはインスリン分泌を促す以外の作用(膵外作用)も持ち合わせています。

 

GLP-1は膵臓のA(α)細胞から分泌されるホルモンであるグルカゴンの分泌を抑制します。グルカゴンは主に肝臓のグリコーゲンを分解してグルコースを作り出します。これを抑制できれば血糖値の上昇を抑える事ができます。

 

他にも胃の運動を抑制し、食べ物が腸へ送られるのを遅らせたり、脳に働きかけ、食欲を抑制する作用も持っています。これにより食後の血糖値上昇、体重増加を抑制できます。

 

ただインクレチンは、DPP-4(dipeptidyl-peptidase-4:ジペプチジルペプチダーゼ4)という酵素と結合するため数分で分解されてしまうという欠点があります。

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エクメットの作用機序と特徴

ビルダグリプチンの作用機序

インクレチンはDPP-4により分解されてしまうとお話しましたね。そこで活躍するのがビルダグリプチンです。

 

ビルダグリプチンはインクレチンを分解する酵素DPP-4に結合して、DPP-4の働きを失わせます。その結果インクレチンは分解されず膵臓に辿り着き、本来の作用を発揮できるようになります。

 

例えばアマリールなどのSU剤もインスリンの分泌を促しますが、血糖値の高低にかかわらず作用するため、膵臓が疲れてしまいますし、低血糖を起こしやすくなります。

 

それに対しビルダグリプチンは血糖値が高い時だけ作用するため膵臓の負担を軽くでき、低血糖を起こす可能性も低いという特徴があります。

メトホルミンの作用機序

1.インスリン抵抗性の改善

インスリン抵抗性はインスリンの働きが悪く、入り口のドアを少ししか開けることができない状態と先ほどお話しましたね。

 

ではこの状態を改善するにはどうしたら良いでしょうか?そこで注目したいのがGLUT4AMPキナーゼです。

 

GLUTはブドウ糖輸送体(glucose transporter)の略。GLUTにはいくつか種類があるのですが、中でもGLUT4は骨格筋、心筋、脂肪細胞等に存在します。

 

GLUT4は普段は細胞内で休んでいるのですが、分泌されたインスリンが細胞膜上のインスリン受容体に結合すると、細胞膜まで出てきて細胞の入口のドアを開けるのを手伝い、更に細胞内にブドウ糖を取り込んでくれるのです。

 

そしてGLUT4を細胞膜まで移動させるのはAMPキナーゼと呼ばれる酵素が担っています。メトホルミンはAMPキナーゼを活性化することでブドウ糖の取り込みを活発にする作用を持ちます。その結果血糖値が下がるのです。

2.肝臓での糖新生の抑制

糖尿病はインスリンの量が減ったり、働きが悪くなることで細胞の入り口のドアが狭くなり、ブドウ糖を取り込めない状態です。

 

この時人間の身体は「使える糖がない!」と判断してしまい、アミノ酸などから糖を作り出す(糖新生)という事を行うのですが、この過程にはグルコース-6-フォスファターゼなどの酵素が関与しています。

 

メトホルミンはこれらの酵素群を阻害することで、糖が作られるのが抑え、血糖値を下げるのです。

3.腸管からの糖吸収の抑制

メトホルミンは小腸から吸収されるブドウ糖を減らす作用を持ちます。これにより血糖値を下げることができます。

エクメットの副作用

ビルダグリプチンの副作用

まずは低血糖。薬の性質上ビルダグリプチン単剤では起こりにくいですが、インスリン分泌を促進するSU剤などと併用する場合は注意が必要となります。

 

他にも便秘や腹部膨満感なども出現する可能性があります。急性膵炎や肝機能障害なども稀ですが報告されています。

メトホルミンの副作用

主な副作用は吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などの消化器系の副作用ですね。これは以下の乳酸アシドーシスの初期症状としても現れることがあります。

 

一番注意が必要なのが乳酸アシドーシスです。これは体の中の乳酸が増えることで、血液が酸性に傾く状態を指します。非常に危険で、50%は死亡してしまいます。

 

乳酸アシドーシスを回避するために、「なぜメトホルミンを服用すると乳酸アシドーシスを起こしやくなるのか?」以下に確認していきましょう。

1.肝臓での糖新生の抑制

メトホルミンにより乳酸からブドウ糖を作る過程が阻害されるため、乳酸が溜まりやすくなります。

2.肝臓の機能低下

糖新生は肝臓で行われているため、肝機能が低下すると糖新生が減少し、乳酸アシドーシスを起こしやすくなります。

3.腎臓の機能の低下

乳酸は腎臓で排泄されるため、腎機能が低下すると乳酸の排泄量が低下し、乳酸が貯まりやすくなります。

4.脱水や感染症による循環不全

脱水や感染症による循環不全により酸素が十分に供給されない時は、ブドウ糖は乳酸に変換されやすくなります。

 

例えばラシックスなどの利尿剤やスーグラなどのSGLT2阻害薬などと併用することで、脱水が起こりやすくなります。夏場は特に注意が必要です。

5.造影剤の使用

ヨード造影剤の使用より、一時的に腎機能が低下することで乳酸アシドーシスを起こしやすくなります。造影剤を使用した心臓カテーテル検査やCT検査の際は検査前後48時間(医療機関により異なる場合あり)は服用を中止します。

 

エクメット服用中に急激な腹痛や嘔吐、下痢、黄疸などの症状が出た場合は、服用を中止し直ちに医療機関を受診するようにしましょう。

 

それではエクメットについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。