今回は抗甲状腺剤のメルカゾールについて解説します。

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メルカゾールとは?

 

まずは名前の由来から。化学名の1-methyl-2-mercaptoimidazole(MMI)の下線部を組み合わせてMERCAZOLE:メルカゾールと命名されています。一般名はチアマゾールです。

 

メルカゾールの効能効果、用法用量は以下です。

効能又は効果
甲状腺機能亢進症

用法及び用量
チアマゾールとして、通常成人に対しては初期量1日30mgを3~4回に分割経口投与する。症状が重症のときは、1日40~60mgを使用する。機能亢進症状がほぼ消失したなら、1~4週間ごとに漸減し、維持量1日5~10mgを1~2回に分割経口投与する。

通常小児に対しては初期量5歳以上~10歳未満では1日10~20mg、10歳以上~15歳未満では1日20~30mgを2~4回に分割経口投与する。機能亢進症状がほぼ消失したなら、1~4週間ごとに漸減し、維持量1日5~10mgを1~2回に分割経口投与する。

通常妊婦に対しては初期量1日15~30mgを3~4回に分割経口投与する。機能亢進症状がほぼ消失したなら、1~4週間ごとに漸減し、維持量1日5~10mgを1~2回に分割経口投与する。正常妊娠時の甲状腺機能検査値を低下しないよう、2週間ごとに検査し、必要最低限量を投与する。

なお、年齢、症状により適宜増減する。

メルカゾール錠5mgの添付文書より引用

 

メルカゾールの作用を簡単に説明すると「ペルオキシダーゼという酵素の働きを邪魔することで、甲状腺ホルモンの過剰な産生を抑える」になります。

 

それではまず、甲状腺機能亢進症について解説します。

甲状腺機能亢進症とは?

 

甲状腺機能亢進症は、体が甲状腺刺激ホルモンに対して作った抗体(抗TSH受容体抗体)が甲状腺を持続的に刺激することで、甲状腺ホルモンの分泌が通常よりも多くなってしまう自己免疫疾患です。主に20~40歳の女性に多いですね。

・甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone:TSH):甲状腺に作用して甲状腺ホルモンの分泌を促す

 

通常であれば、一時的に代謝機能が亢進したとしても時間経過によって通常の状態に戻りますが、甲状腺機能亢進症では改善せずに続いてしまいます。

 

甲状腺機能亢進を起こす疾病としては、バセドウ病や甲状腺炎、甲状腺腫が主なものとなりますが、一般的に甲状腺機能亢進症といえば、バセドウ病の別名として考えられることが多いですね。

 

甲状腺機能亢進症の症状ですが、代謝の亢進により食欲が増進します。たくさん食べても体重は増加せず、むしろ減少する傾向にあります。

 

他にも汗をかきやすくなる、頻脈、易疲労感(疲れやすくなる)を感じるようになる、更にイライラしやすくなる、落ち着きがなくなる、などの精神的な変化もみられます。

 

バセドウ病が原因となっている場合、目が飛び出るようになってしまう眼球突出や、ノドに蝶のような形での腫れ(びまん性甲状腺腫)が、外見から最もわかりやすい症状といえるでしょう。

 

甲状腺機能亢進症の治療は、薬物治療が第一選択として取られますが、場合によっては手術による摘出や放射性ヨウ素を用いるアイソトープ療法を行う場合があります。

 

薬物治療の場合、チアマゾールやプロピルチオウラシルなどの抗甲状腺薬を使用して、甲状腺ホルモンの合成を阻害する治療が主なものとなります。

 

場合によっては安定した血中濃度を維持する治療を目的として、甲状腺ホルモンを低下させる薬と補充する薬を併用することもあります。

メルカゾールの作用機序と特徴

 

甲状腺ホルモンを作るためにはヨウ素が必要です。食事から摂取したヨウ化物にペルオキシダーゼという酵素が作用するとヨウ素に変換されます。その後ヨウ素を元にトリヨードチロニン(Triiodothyronine:T3)、チロキシン(thyroxine:T4)が作られるのです。

 

今回のメルカゾールはペルオキシダーゼに作用する薬です。メルカゾールがペルオキシダーゼの働きを邪魔することで、甲状腺ホルモンの合成阻害、分泌抑制効果を発揮します。また抗TSH受容体抗体の産生を抑制する作用もあると考えられています。

 

メルカゾールを投与すると甲状腺ホルモンが安定しないことがあります。理由は甲状腺ホルモンが低下すると、体が「甲状腺ホルモンが少ない!」と判断し、甲状腺刺激ホルモンの分泌を促進するからです。

 

このような場合、メルカゾールとT4製剤のチラーヂンSなどを併用して対応します。

 

メルカゾールの剤形ですが、経口薬については5mg錠の1規格のみの販売となっています。そのため1回量5mg以下で使用する場合、粉砕や半割などの調剤が求められます。

 

ただ、メルカゾールは糖衣錠としてコーティングされているため、半割によって正確に用量を分けることは困難であり、医師の同意の元、粉砕した方が正確に調剤することができるでしょう。

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メルカゾールの副作用

 

メルカゾールは副作用の発現頻度が明確になる調査が行われていませんが、臨床上様々な副作用が報告されています。ただ副作用の初期症状を知っておけば安心です。

 

まずは重大な副作用として添付文書に記載されている無顆粒球症、白血球減少症、汎血球減少症、再生不良性貧血。これらは発熱や咽頭痛、全身倦怠感などの風邪のような症状が初期症状となります。

 

重大な副作用としては他にも全身で様々なものが報告されています。

・血が止まりづらくなる、青あざが出来やすくなるといった出血傾向を起こしてしまう低プロトロンビン血症、第Ⅶ因子欠乏症、血小板減少、血小板減少性紫斑病

・黄疸や倦怠感、むくみなどが初期症状で発生する肝機能障害

・全身の関節に炎症を起こしてしまう多発性関節炎

・発熱や筋肉痛、関節痛、リンパ腫などの全身性エリテマトーデス(以下SLE)と同じ症状を呈してしまうSLE様症状

・血糖変動により高血糖と低血糖を起こしてしまうインスリン自己免疫症候群

・発熱、呼吸困難、咳嗽などを発症させる間質性肺炎

・血尿や尿たんぱくを起こす急性腎炎

・喀血などを引き起こす肺出血

・皮膚潰瘍など全身で障害を引き起こす抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎症候群

・筋肉痛、易倦怠感、褐色尿を起こす横紋筋融解症

 

その他の副作用として、脱毛や色素沈着、掻痒感などの皮膚症状、悪心、嘔吐、下痢などの消化器症状、頭痛やめまいなどの精神神経系症状、筋肉痛や関節痛などの筋・骨格系症状、好酸球増多などの血液症状、発疹、発熱などの過敏症状、CPK上昇、リンパ節腫脹、浮腫、味覚異常なども報告されています。

 

これらの症状がみられた場合には、速やかに服用を中止し、医療機関を受診するようにしましょう。

メルカゾールの相互作用、注意事項

 

相互作用を注意しなければいけないものはワーファリンジギタリス製剤の2種類のみ。

 

ワーファリンは甲状腺機能の低下によって凝固能力が変動する危険性が、またジギタリス製剤は、その血中濃度に変動をきたし、中毒を誘発させる危険性があるために併用注意となっています。

 

重大な副作用として警告も出されている無顆粒球症ですが、多くの場合服用後二か月以内で発生することから、その期間は特に注意が必要です。原則として投与初期には2週間に1回、それ以降にも定期的には血液検査を行います。

 

また、妊娠中の服用は有益性がある場合にのみ用いられ、用量も最低限となるように調整することが求められます。

 

臨床の現場では、胎児への影響が比較的軽度であるとされるプロパジール(一般名:プロピルチオウラシル)へと、処方変更されることも多くみられますね。

 

それではメルカゾールについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。