今回は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)のロピオンについてお話していきます。
ロピオンとは?
それでは名前の由来から。ロピオンはROPIONと表記されますが、これはプロピオン酸系非ステロイド性鎮痛剤の下線部に由来します。一般名はフルルビプロフェンアキセチルです。
ロピオンの作用を簡単に説明すると『プロスタグランジンを作る時に必要な酵素であるシクロオキシゲナーゼを阻害する事で解熱・鎮痛・抗炎症作用を発揮する』となります。
それではもう少し詳しく見て行きましょう。
プロスタグランジンとアラキドン酸カスケード、痛みが発生する機序
まずプロスタグランジン(以下PG)はどのように作られるのかについてお話していきます。
作用機序だけであればシクロオキシゲナーゼ(以下COX)という酵素だけ説明すれば概ね事足りますが、副作用や他の薬を学ぶ上で知っておいた方がいいと思いますのでアラキドン酸カスケードという経路について説明します。
上の画像のように、アラキドン酸からPGやロイコトリエン(以下LT)、トロンボキサン(以下TX)等が作られる経路をアラキドン酸カスケードといいます(図は結構省略あり)。カスケードは”滝”を意味します。滝のように物質が次々と生み出されていくことに由来します。
何らかの原因で組織が傷害されたり炎症が起こると、ホスホリパーゼA2と呼ばれる酵素が活性化します。すると細胞膜の構成成分であるリン脂質から必須脂肪酸であるアラキドン酸が遊離します(切り離されます)。
遊離したアラキドン酸に酵素であるCOX(シクロオキシゲナーゼ)が作用するとPG群が、5-リポキシゲナーゼが作用するとLT群が作られます。またPGH2にトロンボキサン合成酵素が作用するとTXA2が作られます。
ちなみにCOXにはCOX-1とCOX-2の2種類が存在します。COX-1は普段から私達の様々な組織に存在しており、特に胃や腎臓に多いとされています。またCOX-2は炎症が起っている部位で主に作られます。
続いて痛みが発生する機序についてお話します。痛みについては痛みを感じさせる発痛物質であるブラジキニンやヒスタミン等がポリモーダル受容器と呼ばれる部分に作用し、そこで生じた痛みの情報が脊髄を通って脳に到達することで私達は「痛い!」と感じるのです。
PG自身は痛みを感じさせる作用はそれほど強くありません。しかし発痛物質の痛みを増強する作用を持っています。つまり痛みはブラジキニン等の発痛物質だけでなく、PGの作用が加わることで発生すると認識して下さい。
PGの他の作用としては発熱もあります。PGは視床下部にある体温調節中枢と呼ばれる部分に働きかけ、普段は36~37度位に設定されている体温をそれ以上に上げるように命令します。これをセットポイントを上昇させるといいます。
他にもPGは胃の粘膜の血流を良くしたり修復したりする作用や、腎臓の血流を良くする作用、血小板凝集抑制(血液をサラサラにする)作用など様々な作用を持っています。
ロピオンの作用機序と特徴
痛みや発熱の原因となるPGはアラキドン酸にCOXが作用することにより作られる。だったらCOXを何とかできればいいと思いませんか?
ここでロピオンの登場です。
ロピオンはCOXに結合してその働きを邪魔する作用があり、PGが作られるのを抑えます。これにより痛みが抑えられるのです。
ロピオンの添付文書を見ていきますと…
効能又は効果
下記疾患並びに状態における鎮痛
術後、各種癌
用法及び用量
通常、成人にはフルルビプロフェン アキセチルとして1回50mgをできるだけゆっくり静脈内注射する。その後、必要に応じて反復投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。ただし、本剤の使用は経口投与が不可能な場合又は効果が不十分な場合とする。
用法及び用量に関連する使用上の注意
患者の状態に注意し、できるだけゆっくり(1分間以上の時間をかけて)投与すること。
ロピオン静注50mgの添付文書より引用
ロピオンはプロピオン酸系に属します。剤形は静注のみであり、NSAIDsで唯一の注射薬です。また、解熱・鎮痛・抗炎症作用を持ち合わせていますが、解熱の適応はなく、「術後、各種癌」に限られていることに注意して下さい。
ロピオンは即効性があり、最高血中濃度到達時間は約5分となっています。ただ半減期は3.6~5.8時間であり持続性にはあまり期待できません。効果を持続させるには1日2~3回は投与する必要があります。
最高血中濃度到達時間:服用後薬の濃度が最大になるまでの時間
半減期:血中濃度が半分になるまでの時間
フルルビプロフェンアキセチルはそのままでは薬効を発揮せず、静注後に血中エステラーゼで代謝されフルルビプロフェンになり、はじめて効果を発揮するプロドラッグです。
そのフルルビプロフェンアキセチルをリピッドマイクロスフェア(Lipid Microsphere:LM)に封入した製剤がロピオンになります。
なぜこのような製剤的工夫を施しているかと言いますと、リピッドマイクロスフェアには炎症部位や血管損傷部位に集積しやすいという性質があるからです。これによりロピオンは鎮痛部位に特化して作用を発揮することができるのですね。
薬を必要な部位に必要なタイミングで必要な量だけ運ぶ。その結果必要ない部位には薬は届かないため副作用の軽減も期待できます。このように薬の効果を高め、副作用を軽減する目的で導入される技術をドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System:DDS)といいます。
また、投与方法は「1回50mgをできるだけゆっくり静脈内注射」となっていますが、そのままではなく、生理食塩液100mLで溶解して投与するのが一般的です(医療機関により生理食塩液の量は異なります)。
癌が進行すると経口投与が難しくなってきます。その場合にもロピオンに切り替えることでNSAIDsを継続することができます。
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ロピオンの副作用
嘔気・嘔吐やAST(GOT)、ALT(GPT)、Al-Pなどの肝機能データの上昇が主な副作用になります。
ロピオンはCOX-1とCOX-2の両方を阻害します。COX-1は様々な組織に存在し、COX-2は炎症部位に存在すると先ほどお話しました。
COX-1は特に胃や腎臓に多く存在するため、COX-1を阻害してしまうと胃粘膜や腎臓に障害が起こる事が予想できるかと思います。そのため消化性潰瘍や重篤な腎機能障害のある方は禁忌となっていますが、薬剤の特性上使用する事も多いです。
またロピオンはトロンボキサン合成酵素は阻害しませんが、TXA2はPGH2から作られるため、COXが阻害されることで結果的にTXA2の量も減ってしまいます。
TXA2は血管を収縮したり血小板凝集(血小板を集めて止血する)作用を持っているため、出血傾向(出血しやすくなる)ことも問題となります。そのため重篤な血液障害ある方への使用は控えます。
ロピオンの相互作用
・ロメフロキサシン(バレオン)
・ノルフロキサシン(バクシダール)
・プルリフロキサシン(スオード)
以上ニューキノロン系抗菌薬の3剤は痙攣が起こりやすくなるため併用禁忌となっています。
理由ですが、ニューキノロン系は抑制性神経伝達物質であるGABA(ガンマアミノ酪酸)がGABA受容体に結合するのを邪魔する作用を持ちます。
そしてロピオンはこの作用を高めると言われており、神経の興奮を抑えられなくなり痙攣が誘発されるのです。上記以外のニューキノロン系抗菌薬は禁忌でありませんが、理論上起こり得るので注意が必要です。
ロピオンはフィルター通過禁止
脂肪乳剤であるロピオンはフィルターに吸着するため、目詰まりを起こす可能性があります。そのためロピオンはフィルターに通してはいけません。
中心静脈栄養(Intravenous Hyperalimentation):IVH)の場合はフィルターよりも患者さん側の側管から投与することになります。末梢投与の場合もフィルターを通さずに投与するようにして下さい。
それではロピオンについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。