リンゼスはアステラス製薬から発売される新しい作用機序の過敏性腸症候群群(irritable bowel syndrome:IBS)に伴う便秘治療薬です。発売日は3月22日予定です。
過敏性腸症候群に伴う便秘に対しては、日本では有効な治療薬として承認されたものが存在しておらず、状態を見ながら対処療法を行うしかありませんでした。
リンゼスの登場により、便秘型過敏性腸症候群の治療が一段と発展することは間違いないでしょう。この記事ではリンゼスの作用機序や副作用、アミティーザとの違いについてもわかりやすく解説していきます。
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リンゼスとは?
それでは名前の由来から。リンゼスはLinzessと表記されますが、これは一般名のLinaclotide:リナクロチドの下線部と接尾辞の”zess”を組み合わせて命名されています。
リンゼスの作用を簡単に説明すると「腸管内への水分の分泌を促すことで便秘を改善する」となります。
それではまず過敏性腸症候群について簡単に説明していきます。
過敏性腸症候群(IBS)とは?
過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)は検査をしても何も異常がないにもかかわらず、通学や通勤中、また試験や重要な会議、プレゼンテーションの前などに便秘や下痢、腹痛などの症状が繰り返し現れる疾患です。
過敏性腸症候群には便秘型、下痢型、両者が交互に起こる交替型(混合型)があります。頻度としては交替型、便秘型、下痢型の順に多くなります。
20~30歳代に多く、男性では下痢型、女性には便秘型が多いとされています。いずれも腹痛やおなかの張りなど腹部症状をともないますが、排便後は症状が軽減するという特徴があります。
リンゼスの作用機序と特徴
リンゼスの作用はグアニル酸シクラーゼC(GC-C)受容体への効果により発揮されます。リンゼスがグアニル酸シクラーゼC受容体を刺激することによって腸管内の水分分泌及び腸管輸送の改善と大腸痛覚過敏の改善がなされます。
グアニル酸シクラーゼC受容体は細胞膜に存在している受容体の一つであり、特に腸管表面の細胞に多く発現しています。このグアニル酸シクラーゼC受容体が刺激されることにより細胞内でのエネルギー産生が促進され、その結果クロライドイオンチャネルが活性化することで腸管での水分分泌と輸送運動が促進されます。
もともとはコレラ菌などの毒素がグアニル酸シクラーゼCに対して刺激をすることで、下痢などの諸症状を起こしていることが研究されていましたが、今回の製品ではその作用を便秘症の解消に対して使用しているわけです。
人間の体は大腸内に便が溜まると、求心性神経によって大腸から脳に信号が送られ、排便を促すように脳から指示が下るように作られています。便秘型過敏性腸症候群では、この連絡網に異常が発生してしまい、腹部の痛みや張りなどの問題を引き起こしているのです。
この腹部の問題は、腸管に発現しているグアニル酸シクラーゼC受容体による影響が強いと考えられており、リンゼスを服用することで腹部の痛みや張りが改善することから、グアニル酸シクラーゼC受容体には大腸痛覚過敏を和らげる効果があると考えられています。
リンゼスの副作用
リンゼスで報告されている主な副作用は下痢です。
重大な副作用として、重度の下痢の報告もある為、便の状態変化に注意して服用する必要があります。前項でもお話しましたが、もともとは下痢にしてしまう毒素が刺激する受容体を介しての作用であるため、副作用としても注意しなければいけません。
もしこのような状態になってしまった場合には、中止や減量に加えて水分補給のための輸液などの適切な処置が必要になる可能性があります。処方医や担当薬剤師に連絡して指示を仰ぐようにして下さい。
その他の副作用として報告されているのは、貧血、尿閉、肝機能異常、発熱や口渇、血液検査値の異常、腹部膨満感・悪心・腹部不快感・腹痛などの胃腸障害症状などがあります。
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リンゼスとアミティーザとの違い
アミティーザは約30年ぶりに新薬として作られた便秘薬であり、その作用機序も今までの便秘薬とは異なります。
簡単に説明すると、アミティーザを服用することで腸管内にあるクロライドイオンチャネルという受容体が刺激され、腸管内に水分が分泌されるようになります。その上で、腸管の動きを活発にする効果により便の輸送が促進され、便秘解消効果を発揮します。
受容体を介する作用機序であることから、効果が発揮される時間が明確になっておらず、他の便秘薬のように頓服としての使用には向いていない医薬品です。
では、アミティーザとリンゼスにはどのような違いがあるのかみていきましょう。
剤形の違い
剤形ですが、アミティーザは軟カプセルに対してリンゼスはフィルムコーティング錠となります。
効能又は効果/用法及び用量の違い
まずはアミティーザ。
効能又は効果
慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)
用法及び用量
通常,成人にはルビプロストンとして1回24μgを1日2回,朝食後及び夕食後に経口投与する.なお,症状により適宜減量する.
アミティーザカプセル24μgの添付文書より引用
続いてリンゼス。
効能又は効果
便秘型過敏性腸症候群
用法及び用量
通常、成人にはリナクロチドとして0.5mgを1日1回、食前に経口投与する。なお、症状により0.25mgに減量する。
リンゼス錠0.25mgの添付文書より引用
アミティーザは慢性便秘症であれば全般的に使用が可能ですが、リンゼスは便秘型過敏性腸症候群の適応しかありません。そのため、リンゼスが使用できる患者さんは限られている点で異なります。
またアミティーザは食後ですが、リンゼスは食前となることにも注意が必要です。
リンゼスが食前の理由ですが、これは臨床試験において食前投与よりも食後投与の方が下痢の副作用発現率が高かったため。
リンゼスのインタビューフォームをみてみましょう。
リンゼス錠0.25mg インタビューフォームⅤ.治療に関する項目(3)臨床薬理試験 2)薬力学的試験より引用
赤丸で囲った部分ですね。
BSFS スコアの調整済み平均値の差(食後投与-食前投与)(90%CI)は、0.68(0.33-1.02)であり、食前投与に比べて食後投与で、統計的に有意なBSFSスコアの上昇が認められた。SBM 頻度、CSBM 頻度及びいきみの重症度スコアでも、反復投与での薬力学的な変化が認められ、投与条件別では、食前投与に比べて食後投与で、変化量が大きかった。
とあります。BSFSとはブリストル便性状スケール(Bristol stool form scale)の略で、便の性状を7段階で評価するというもの。1が硬くてコロコロ兎糞状の便で、7が水様で固形物を含まない液体状の便となっています。
つまり食後服用では食前服用と比較して下痢の発現率が高かったということがわかります。
作用機序の違い
作用を発揮する部位が腸管内の受容体であるという点では似ている医薬品であり、それぞれが作用するグアニル酸シクラーゼC受容体とクロライドイオンチャネルは密接なかかわりを持っています。
リンゼスが作用するのはグアニル酸シクラーゼC受容体。グアニル酸シクラーゼC受容体が活性化すると、細胞内でエネルギーが産生されます。そのエネルギーが細胞内からクロライドイオンチャネルに対して作用を発揮し、腸管内での水分分泌や腸管運動を促進していきます。
一方アミティーザが作用するのはクロライドイオンチャネル。クロライドイオンチャネルを直接刺激して、その効果を発揮します。
リンゼスではクロライドイオンチャネルを介する作用の他に、グアニル酸シクラーゼC受容体自身が関与している大腸痛覚過敏の抑制効果も持っているため、アミティーザの上位互換という位置づけと考えられます。
副作用の違い
アミティーザの開始初期に多くみられる嘔気。リンゼスでは少ないという特徴があります。アミティーザは嘔気予防のためにガナトンなどの消化管運動賦活剤を併用することがあります(必須ではない)が、リンゼスではその必要はないかもしれませんね。
それではリンゼスについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。