今回は解熱・鎮痛・抗炎症作用を持つ非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の『ロコアテープ』についてお話していきます。
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ロコアテープとは?
まずは名前の由来からいきましょう。変形性関節症(osteoarthritis:OA)患者さんのQOL(Quality of Life:生活の質)を向上させたいという願いを込めて、QOLとOAを組み合わせLOQOA:ロコアと命名されています。
ロコアテープはフルルビプロフェン(商品名:アドフィード、ゼポラス、ヤクバンなど)のS体のみ(エスフルルビプロフェン)を抜き出したものになりますが、ここではまず光学異性体についてお話していきます。
構造が左右対称に鏡写しになっている事を鏡像関係といいます。光学異性体とはこの対称となる立体構造を持つ化合物のことを指します。通常ある物質が合成される時には鏡像関係にある2つの物質が同じ量だけ混ざったものができます。これをラセミ体といいます。
ロコアテープの場合でお話すると、片方(S体)の方がもう一方(R体)よりも鎮痛効果が高いのです。具体的にはCOX-1、COX-2を阻害する作用、痛みを増強させる物質PGE2の産生を抑える作用について、S体の方がR体よりも1000倍以上強いのです。※COX、PGE2については次項で解説。
だったら『S体だけ使えばいいのでは?』って思いますよね。そこでロコアテープはS体のみを抜き出したというわけです。
R体に有害作用があるからというわけではなく、あまり効果が期待できないので採用しなかったと認識頂くのがよろしいかと思います。薬は体にとって異物ですから入れないで済むならそれに越したことはありませんので。
さて、ロコアテープの作用を簡単に説明すると『プロスタグランジンを作る時に必要な酵素であるシクロオキシゲナーゼを阻害する事で鎮痛・抗炎症作用を発揮する』となります。
それではもう少し詳しく見て行きましょう。
プロスタグランジンとアラキドン酸カスケード
まずプロスタグランジン(以下PG)はどのように作られるのかについてお話していきます。
作用機序だけであればシクロオキシゲナーゼ(以下COX)という酵素だけ説明すれば概ね事足りますが、副作用や他の薬を学ぶ上で知っておいた方がいいと思いますのでアラキドン酸カスケードという経路について説明します。
上の画像のように、アラキドン酸からPGやロイコトリエン(以下LT)、トロンボキサン(以下TX)等が作られる経路をアラキドン酸カスケードといいます(図は結構省略あり)。カスケードは滝を意味します。滝のように物質が次々と生み出されていくことに由来します。
何らかの原因で組織が傷害されたり炎症が起こると、ホスホリパーゼA2と呼ばれる酵素が活性化します。すると細胞膜の構成成分であるリン脂質から必須脂肪酸であるアラキドン酸が遊離します(切り離されます)。
遊離したアラキドン酸に酵素であるCOXが作用するとPG群が、5-リポキシゲナーゼが作用するとLT群が作られます。またPGH2にトロンボキサン合成酵素が作用するとTXA2が作られます。
ちなみにCOXにはCOX-1とCOX-2の2種類が存在します。COX-1は普段から私達の様々な組織に存在しており、特に胃や腎臓に多いとされています。またCOX-2は炎症が起っている部位で主に作られます。
続いて痛みが発生する機序についてお話します。痛みについては痛みを感じさせる発痛物質であるブラジキニンやヒスタミン等がポリモーダル受容器と呼ばれる部分に作用し、そこで生じた痛みの情報が脊髄を通って脳に到達することで私達は「痛い!」と感じるのです。
PG自身は痛みを感じさせる作用はそれほど強くありません。しかし発痛物質の痛みを増強する作用を持っています。つまり痛みはブラジキニン等の発痛物質だけでなく、PGの作用が加わることで発生すると認識して下さい。
PGの他の作用としては発熱もあります。PGは視床下部にある体温調節中枢と呼ばれる部分に働きかけ、普段は36~37度位に設定されている体温をそれ以上に上げるように命令します。これをセットポイントを上昇させるといいます。
他にもPGは胃の粘膜の血流を良くしたり修復したりする作用や、腎臓の血流を良くする作用、血小板凝集抑制(血液をサラサラにする)作用など様々な作用を持っています。
ロコアテープの作用機序と特徴
痛みや発熱の原因となるPGはアラキドン酸にCOXが作用することにより作られる。だったらCOXを何とかできればいいと思いませんか?
ここでロコアテープの登場です。
ロコアテープはCOXに結合して働きを邪魔する作用があり、PGが作られるのを抑えます。これにより痛みが抑えられるのです。
ロコアテープは基剤を工夫することで経皮吸収性に優れており、非常に作用が強力です。ハッカ油を用いることで滑膜、関節液中への移行性が高まっているようですね。
その効果はロコアテープ2枚で「フルルビプロフェン経口剤(商品名:フロベン)40mg 1日3回」と同程度とされています。これは凄いです。
ロコアテープの用法・用量は「1日1回、患部に貼付する。同時に2枚を超えて貼付しないこと。」となっています。ロコアテープは1日1回貼付と2回貼付では効果に差がなかったとされており、1日1回で承認されています。
ロコアテープの効果は内用薬に匹敵しますので、使用時は他の鎮痛薬(内用・外用剤ともに)の併用は原則避けるようにします。
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ロコアテープの副作用
主な副作用は貼った部位の皮膚炎、紅斑、湿疹などになります。ただ作用が強いため経口鎮痛薬と同様の副作用に注意しておいた方がいいでしょう。添付文書の記載内容が内用薬に準じているのはそのためです。
たまに鎮痛外用薬を全身に貼っている方もいらっしゃいますが、ロコアテープでそれをやると大変な事になりますのでやめて下さいね。
さてロコアテープはCOX-1とCOX-2の両方を阻害します。COX-1は様々な組織に存在し、COX-2は炎症部位に存在すると先ほどお話しましたね?
COX-1は特に胃や腎臓に多く存在するため、COX-1を阻害してしまうと胃粘膜や腎臓に障害が起こる事が予想できるかと思います。そのため消化性潰瘍や重篤な腎機能障害のある方への使用は控えます(ただし、場合により使用する事もあります)。
NSAIDsの多くは成分自体に胃粘膜を直接刺激する作用があると言われていますが、経皮吸収剤は一般的に胃粘膜への刺激が少ないとされています。しかし先ほどお話したようにロコアテープの作用は内服薬に匹敵しますので注意が必要となります。
またロコアテープはトロンボキサン合成酵素は阻害しませんが、TXA2はPGH2から作られるため、COXが阻害されることで結果的にTXA2の量も減ってしまいます。
TXA2は血管を収縮したり血小板凝集(血小板を集めて止血する)作用を持っているため、出血傾向(出血しやすくなる)ことも問題となります。重篤な血液障害ある方への使用は控えます。
ロコアテープの相互作用
以下の薬剤は禁忌です。
・ロメバクト・バレオン(ロメフロキサシン)
・バクシダール(ノルフロキサシン)
・スオード(プルリフロキサシン)
非ステロイド性抗炎症薬(以下NSAIDs)とニューキノロン抗菌薬を併用すると痙攣が起こりやすくなります。
ニューキノロン系は抑制性神経伝達物質であるGABAがGABA受容体に結合するのを邪魔する作用を持ちます。そしてNSAIDSはこの作用を高めると言われており、神経の興奮を抑えられなくなり痙攣が誘発されるのです。上記以外のニューキノロン系抗菌薬は禁忌でありませんが、理論上起こり得るので注意が必要です。
ロコアテープの注意事項
まず授乳婦の方。動物実験(ラット)で乳汁中への移行が報告されていますので、授乳中の方の服用は控えます。
また妊婦の方ですが、基本的に服用は控えます。妊娠後期の方は禁忌です。お母さんから赤ちゃんに薬が移行することで赤ちゃんのPGが減ってしまい、肺動脈と大動脈をつなぐ動脈管と呼ばれる部分が収縮してしまうためです。
動脈管についてもう少し説明します。赤ちゃんはお腹の中にいる時は呼吸をしていない、つまり肺を使っていないんです。だから肺にはそれほど血液はいらないんですね。そのため心臓から肺に向かう肺動脈に流れる血液を動脈管を通して大動脈に流しこむのです。
動脈管が収縮してしまうと肺高血圧症を起こすなど赤ちゃんに悪影響を及ぼす可能性があります。また他にも赤ちゃんの腎臓の機能が低下することで尿量が減少し、羊水過少症に繋がる事があります。妊娠末期の羊水は赤ちゃんの尿が主と言われています。
特に妊娠後期の方には使用することはできません。動物実験で母動物の死亡、分娩遅延、出生率の低下、死産児数の増加などが報告されています。
それではロコアテープについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。