今回は消化性潰瘍治療薬、プロトンポンプインヒビター(PPI)のパリエットについてお話していきます。

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パリエットとは?

 

まずは恒例の名前の由来からいきましょう。パリエットは後述しますが、壁細胞のH+,K+-ATPaseに作用することで効果を発揮します。

 

壁細胞は英語で”Parietal Cell”といいます。Parietalからalを取りPariet(パリエット)と命名されました。一般名はラベプラゾールです。

 

パリエット錠20mgには非びらん性胃食道逆流症、低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制、ヘリコバクター・ピロリの除菌の補助の適応はありませんので注意して下さい。

 

パリエットの作用を短く説明すると『胃酸の分泌を抑えることで消化性潰瘍を改善する』となります。それではもう少し詳しく見て行きましょう。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍とは?

 

胃酸は消化管内に入ってきた細菌やウイルスなどの病原体などを退治する役割を担っています。つまり胃酸があるから多少の有害物質が入ってきても症状がある程度軽く済むわけです。

 

胃酸はpH1~2と非常に強い酸なのですが、通常胃や十二指腸の粘膜は胃酸に耐える事ができます。それは胃の粘膜から粘液やプロスタグランジンと呼ばれる物質等が分泌されており、胃全体を保護しているからです。だから食物だけ消化され、胃は守られるんですね。

 

しかしNSAIDS(非ステロイド性抗炎症薬)を服用したりヘリコバクター・ピロリ菌の感染、ストレスなどが原因で胃酸の分泌が活発になったり、粘膜の防御機能が弱くなると粘膜が胃酸に耐えられなくなり、ただれてえぐられたような状態になってしまいます。

 

これがいわゆる胃潰瘍十二指腸潰瘍です。

 

症状としては上腹部、みぞおちの痛みを基本に食欲不振や腹部膨満感(お腹の張り)、胸焼けなどがあります。ひどくなると吐血(口から血を吐く)、下血(便に血が混じる)、更には消化管穿孔という胃や十二指腸に穴が開いてしまうこともあります。

 

消化管穿孔になると胃の内容物が、通常は無菌な腹腔内(横隔膜より下の空間)に入り込み炎症を起こしてしまう腹膜炎を起こす事があります。非常に危険で手術が必要になります。

胃酸分泌のしくみ

 

次に胃酸(塩酸)がどのように分泌されるのかみていきます。

 

胃壁細胞にはムスカリン受容体(M1)、ガストリン受容体、ヒスタミン受容体(H2)が存在し、そこには副交感神経から分泌されるアセチルコリン、胃のG細胞から分泌されるガストリン、脂肪細胞から分泌されるヒスタミンがそれぞれ結合します。

 

アセチルコリンとガストリンは肥満細胞に働きかけヒスタミンの分泌を促す作用も持っています。各々が受容体に結合すると、細胞内のH+,K+-ATPaseと呼ばれる酵素が活性化されます。

 

H+,K+-ATPaseはATPが加水分解してできたエネルギーを使い、細胞内にKを取り込み、細胞外にH+を出すという作用を持っています。そして胃壁細胞からはClも分泌されるため、前述のH+と組み合わさってHCl、いわゆる胃酸となり、胃内に分泌されるのです。

 

だったら「H+,K+-ATPaseをなんとかできれば」って思いませんか?そこでパリエットの登場です。

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パリエットの作用機序と特徴

 

パリエットはH+,K+-ATPaseに結合して働きを失わせる作用を持ちます。これにより胃酸の分泌が抑えられるため、胃内の胃酸の量が減り、粘膜の負担が軽くなるというわけです。

 

H+,K+-ATPaseは別名プロトンポンプといい、パリエットはこれを阻害するため、プロトンポンプインヒビター(proton pump inhibitor:略してPPI)と呼ばれます。

 

消化性潰瘍治療薬で胃酸分泌を抑制する薬はいくつかありますが、PPIが胃酸分泌を抑える力が一番強いです。

 

例えばムスカリン受容体(M1)、ガストリン受容体、ヒスタミン受容体(H1)を阻害しても、H+,K+-ATPaseが通常通り働いていれば胃酸は分泌されてしまいます。PPIは胃酸分泌の最終段階を阻害するため作用が強いのです。

 

パリエットの消失経路は肝臓による代謝と還元反応です。肝薬物代謝酵素CYP3A4、CYP2C19によっても代謝されますが、その影響は同じPPIのタケプロンやオメプラールと比較して少なく、メインは酵素を介さない還元(酸素を取る)反応によります。

 

日本人は肝薬物代謝酵素CYP2C19に個人差があるため、効く人と効かない人が出てきますが、上記の性質からパリエットはPPIの中でも効果の個人差が小さいという事が言えるでしょう。

 

また肝臓の代謝酵素の影響が少ないため、オメプラールやタケプロンなどでは注意が必要だったワーファリンアレビアチンホリゾンとの併用は特に問題ありません。

パリエットの副作用

 

便秘、下痢、ALT(GPT)上昇、AST(GOT)上昇、LDH上昇などがあります。基本的に副作用はどのPPIも似たようなものですね。

 

それではパリエットについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。