今回は抗血小板薬の「パナルジン」についてお話していきます。
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パナルジンとは?
まずは恒例名前の由来からいきます。幅広いという意味の”パン”とチクロピジンの”ジン”を組み合わせてPanaldine:パナルジンと命名されました。一般名はチクロピジンになります。
パナルジンの作用機序を簡単に説明すると「血小板の働きを抑えることで、血栓(血の塊)が作られるのを抑える」となります。
パナルジンは以下の適応を持ちます。
効能又は効果/用法及び用量
○血管手術および血液体外循環に伴う血栓・塞栓の治療ならびに血流障害の改善
○慢性動脈閉塞症に伴う潰瘍、疼痛および冷感などの阻血性諸症状の改善
○虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作(TIA)、脳梗塞)に伴う血栓・塞栓の治療
○クモ膜下出血術後の脳血管攣縮に伴う血流障害の改善パナルジン錠100mg/パナルジン細粒10%〈1g分包品〉/パナルジン細粒10%〈100g包装品〉の添付文書より引用
ここでは脳血管障害、いわゆる脳卒中についてお話します。
脳血管障害(脳卒中)とは?
まず脳卒中は虚血性と出血性に分類されます。前者の代表が脳の血管が詰まる脳梗塞、一過性脳虚血症(TIA)など。後者の代表が脳の血管が破れる脳出血やクモ膜下出血などになります。
ラクナ梗塞
主に高血圧が原因で起こります。脳の細い血管(穿通枝動脈)が高血圧などにより厚くなったり壊死を起こすと血管内が狭くなり、やがて詰まってしまいます。穿通枝動脈にできる直径15mm未満の小さな梗塞をラクナ梗塞といいます。
アテローム血栓性脳梗塞
こちらは高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病が主な原因となっています。脳内の太い血管壁にコレステロールが蓄積するとアテロームと呼ばれる粥状の塊ができます。
更にアテロームが固まると血管壁が盛り上がり、プラークと呼ばれるコブを形成し、プラークが破れると血栓が作られて血管が詰まってしまいます。これがアテローム血栓性脳梗塞です。
心原性脳塞栓症
これは文字通り心臓にできた血栓が脳に運ばれて、脳内の血管が詰まってしまうタイプの脳梗塞になります。脳ではなく心臓でできた血栓が原因のため突然発症します。また症状は重いことが多いです。
一過性脳虚血発作(transient ischemic attacks:TIA)は一時的に脳の血管が詰まってしまうことで、手足の力が抜ける、ろれつが回らない、片方の目が見えなくなるなどの症状が出現するものの、24時間以内に症状が消失する発作のことです。
これは血栓の大きさが小さいため、一時的に詰まっても自然に溶けるため症状が消失するのです。ただこれを絶対に放置してはいけません!
TIAは脳梗塞の前兆とも言われ、非常に危険な状態です。可能な限り早く病院を受診して下さい。精密検査の後、速やかに治療を開始すれば脳梗塞の発症を抑えることができる可能性が高くなります。
脳出血
主な原因は加齢、そして高血圧です。一時的に血管に強い圧がかかる位なら問題にはなりませんが、過度の圧力がかかる状態が長い間放置されると、加齢も加わり血管壁がもろくなり破れて出血します。
また血管壁がふくらんで小さなコブ(動脈瘤)ができると更に圧がかかりやすくなり、その一部が破裂して脳の中に出血する場合もあります。いずれも脳の細い血管でみられます。
くも膜下出血
脳は外側から硬膜、くも膜、軟膜という膜に覆われています。このうちくも膜と軟膜の間の太い血管にできた動脈瘤が破裂して、くも膜下で出血が起こり、脳を圧迫するのがくも膜下出血です。症状としては物凄く激しい頭痛と嘔吐が突然現れます。
パナルジンの作用機序と特徴
パナルジンはそのままでは薬効を発揮せず、腸管から吸収された後に肝臓で移行し、代謝されて活性代謝物となり初めて効果を発揮します。このような特性を持った薬をプロドラッグといいます。
ただこの活性代謝物が非常に不安定とされており、抗血小板作用を発揮する物質の構造が未だわかっていません。代謝酵素はCYP2C9、CYP2C19、CYP3A4とされていますが、現在わかっている4つの代謝物はいずれも抗血小板作用を認めないのです。
それでは作用機序にいきましょう。
まず前提として、血小板内のカルシウムイオン濃度が上昇すると血小板が活性化する、つまり血栓が形成されることになります。
血小板内にはアデニル酸シクラーゼ(以下AC)と呼ばれる酵素があるのですが、ACによりATP(アデノシン3リン酸)はcyclic AMP(サイクリックエーエムピー)に変換されます。
cyclic AMPは血小板内のカルシウムイオン濃度の上昇を抑える働きを持っています。
また血小板にはADP(アデノシン2リン酸)、セロトニンなど多くの生理活性物質が含まれており、ADPが血小板外に放出されると、ADPは血小板の表面に存在するADP受容体(P2Y12)に結合します。
するとADP受容体によりACの働きが抑えられてしまうのです。
またcyclic AMPはホスホジエステラーゼ3(以下PDEⅢ)という酵素により分解されることがわかっています。
PDEⅢによりcyclic AMPが分解され、その量が減ってしまうと血小板内のカルシウムイオン濃度が上昇し、血小板が活性化して凝集し、血栓が形成されてしまいます。
以上から血栓の形成を抑える方法としては…
1.アデニル酸シクラーゼ(AC)を活性化する
2.cyclic AMPを増やす
3.ADPのADP受容体(P2Y12)への結合を阻害する
4.ホスホジエステラーゼ3(PDEⅢ)の働きを阻害する
といったことを行えばいいことがわかりますね。
今回のパナルジンが作用するのはADP受容体です。上記「3.ADPのADP受容体(P2Y12)への結合を阻害する」作用を持ちます。
パナルジンがADP受容体に結合することで、ADPがADP受容体に結合できなくなります。するとACの働きが邪魔されなくなるため、cyclic AMPが多く作られることになり、カルシウムイオンが減少します。
これにより血小板の活性化を抑えることができる、つまり血栓の形成を抑えることができるのです。
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パナルジンの副作用
血液をサラサラにするわけですから、出血しやすくなるというのは想像に難くないでしょう。そのため出血している方は禁忌となります。青あざができたり、鼻血や歯茎からの出血がみられた場合は医療機関を受診して下さい。
他にも食欲不振や胃部不快感、また胃潰瘍などの消化性潰瘍がみられる場合があるため胃薬が併用されることも少なくありません。
そして特に気をつける必要がある副作用は以下3点です。
・無顆粒球症
・重篤な肝障害
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は異常に活性化された血小板が結合することにより血小板の数が減少し、またその名の通り結合した血小板が血栓となり血管が閉塞する非常に危険な病気です。
症状としては発熱、倦怠感、悪心、食欲不振、あおあざ、鼻や歯茎からの出血、頭痛、めまい、けいれんなどがあります。
無顆粒球症は白血球の中でも特に細菌を死滅させる好中球が減少する病気です。
症状としては発熱、のどの痛み、倦怠感などがあります。重篤な肝障害としては倦怠感、悪心、嘔吐、食欲不振、かゆみ、目や皮膚が黄色くなる、尿が褐色になるなどがあります。
これらの副作用の9割が服用開始から2ヶ月以内に発現するとされており、この期間は原則2週間に1回血液検査をすることになっています。上記のような症状がみられた場合は直ちに医療機関を受診するようにして下さいね。
パナルジンの注意事項
パナルジンはその作用から出血しやすくなるわけですから、手術前に一時的に服用を中止します。添付文書では手術の10~14日前より中止となっていますが、この期間は病院により異なる場合があります。医師、薬剤師の指示に従って下さい。
また重大な副作用を可能な限り回避するため、投与開始2ヶ月間は原則2週間投与となります。ただ最近は副作用の少ない後継品のプラビックスの処方が増えており、プラビックスの後発品も発売されます。今後パナルジンの処方は減少すると思われます。
それではパナルジンについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。