今回は消化性潰瘍の原因の1つヘリコバクター・ピロリについてまた除菌薬や検査方法等についてもお話していきます。
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ヘリコバクター・ピロリの名前の由来
よく耳にするピロリ菌。これの正式名称がヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)になります。ピロリ菌は薬ではありませんが、恒例の名前の由来いきましょう。
ヘリコ(heliko)の意味はらせん状、要はねじれですね。バクター(bacter)はバクテリア、つまり細菌。ピロリ(pylori)は胃の幽門部、胃の出口を意味します。
らせん状の構造を持つ細菌で胃の幽門部に多く存在するという事からヘリコバクター・ピロリと命名されました。そのまんまの意味なのでとても覚えやすいですね。
ヘリコバクター・ピロリと消化性潰瘍の関係性とは
まずは胃酸の働きについて解説していきましょう。胃酸は消化管内に入ってきた細菌やウイルスなどの病原体を退治する役割を担っています。つまり胃酸があるから多少の有害物質が入ってきても症状がある程度軽く済むわけです。
胃酸はpH1~2と非常に強い酸なのですが、通常胃や十二指腸の粘膜は胃酸に耐える事ができます。それは胃の粘膜から粘液やプロスタグランジンと呼ばれる粘膜を保護する物質等が分泌されており、胃全体を保護しているからです。
ピロリ菌の活動は中性付近(pH6~7)で一番活発になり、酸性条件下(pH4以下)では生きていく事ができません。
先ほど胃酸のpHは1~2とお話ししましたね。これだけ見ますとピロリ菌は胃酸にやられてしまい胃の中に住み着くことはできないはずです。
しかしピロリ菌は一度感染すると除菌しない限りほぼ一生その人の胃の中で住み続けます。それはなぜでしょうか?
ピロリ菌はウレアーゼと呼ばれる酵素を出す事ができます。このウレアーゼにより胃の中にある尿素はアンモニアと二酸化炭素に分解されます。
アンモニアはご存じの方も多いかと思いますが、アルカリ性です。つまりアンモニアで自分の周囲をガードすれば胃酸を中和する事ができ、自身の身を守ることができるのです。更にアンモニアは胃の粘膜を直接傷害する作用を持ちます。
またピロリ菌はVac Aという毒素を出す事が知られています。このVac Aも胃の粘膜を傷害するのです。
胃の中にそんな悪さを行う奴がいるとなると、当然私達の体も黙ってやられるのを待つわけにはいきません。ピロリ菌を退治しようと白血球が胃に集まり戦いが始まります。その結果胃の粘膜で炎症が起きます。
この炎症に起因して白血球からは活性酸素が放出されます。活性酸素は胃の粘膜を傷害します。更に活性酸素はアンモニアと反応するとモノクロラミンと呼ばれる物質となりこれもまた胃の粘膜を傷害します。
ピロリ菌を排除しようとする事がかえってアダとなり、胃の粘膜がどんどん傷んでしまいます。これにより胃潰瘍や十二指腸潰瘍などが引き起こされ、胃がんになる可能性もあるというわけです。
ピロリ菌の除菌が必要な理由をご理解頂けましたでしょうか?
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ピロリ菌の検査
内視鏡を使う場合と使わない場合に分けて説明します。
内視鏡を使わない場合
・尿素呼気試験
ピロリ菌は胃の中の尿素を分解してアンモニアと二酸化炭素を作り出すとお話しましたね。これを利用した試験です。
炭素には重さが異なる炭素12、炭素13、炭素14の三種類があり、世の中の炭素はほぼ炭素12になります。つまり胃の中の二酸化炭素は基本的に炭素12からなるものが占めるという事です。
尿素呼気試験ではまず何もしない状態で呼気を採ります。次に炭素13を飲んだ後に再び呼気を採ります。胃の中にピロリ菌がいれば炭素13からなる二酸化炭素が増えています。これにより判定するのです。
・抗体測定検査
ピロリ菌に感染すると私達の体は排除するために抗体を作ります。抗体は血液中や尿中に確認できますので、それを調べる検査です。
・便中抗原測定検査
ピロリ菌に感染すると一部は便から排泄されます。この便を採取し、ピロリ菌の有無を調べる検査です。
内視鏡を使う場合
内視鏡を使って胃の粘膜をちょっとだけ採取します。採取した組織を使って調べる方法に以下の3つがあります。
・迅速ウレアーゼ試験
尿素の入った試薬の中に組織を入れます。ピロリ菌はウレアーゼという酵素を出し、尿素を分解してアンモニアと二酸化炭素を作り出すのでした。もしピロリ菌がいれば試薬の尿素を使ってアンモニアができます。これにより判定する試験です。
・培養法
採取した組織を1週間程度かけて増やしピロリ菌の有無を確認する試験です。
・組織鏡検法
採取した組織を染色して、ピロリ菌がいるか顕微鏡を用いて直接観察する試験です。
ピロリ菌の除菌薬
ピロリ菌の除菌にはいくつかパターンがありますが、
・3剤併用
・服用方法は「1日2回 朝・夕食後」
・7日間服用
この3つは共通です。
3剤併用については下の表を御覧下さい。カテゴリーA、カテゴリーB、カテゴリーCからぞれぞれ一剤ずつ選択して組み合わせます。
・カテゴリーA
一般名 | 先発品 | 1回量 |
オメプラゾール | オメプラール | 20mg |
エソメプラゾール | ネキシウム | 20mg |
ラベプラゾール | パリエット | 10mg |
ランソプラゾール | タケプロン | 30mg |
ボノプラザン | タケキャブ | 20mg |
・カテゴリーB
一般名 | 先発品 | 1回量 |
アモキシシリン | パセトシン、アモリン、サワシリン | 750mg |
・カテゴリーC
一般名 | 先発品 | 1回量 |
クラリスロマイシン | クラリス、クラリシッド | 200mg or 400mg |
メトロニダゾール | フラジール | 250mg |
ちなみに1回量が1つのパッケージになったものもあります。
ランサップ:タケプロン+アモリン+クラリス
ランピオン:タケプロン+アモリン+フラジール
ラベキュア:パリエット+サワシリン+クラリス
ラベファイン:パリエット+サワシリン+フラジール
ボノサップ:タケキャブ+アモリン+クラリス
ボノピオン:タケキャブ+アモリン+フラジール
少しだけ補足します。抗菌薬を2剤使用するのは相乗効果で除菌効果を高めるため。PPIを併用するのは抗菌薬の効果を最大限に高めるためです。
抗菌薬は一般的に酸性条件下では効果が落ちるとされており、PPIにより胃酸の分泌を抑えることで、胃内pHを中性付近まで上昇させその効果を高めるのです。
PPIについては個体差が少ないとされているパリエット、ネキシウムが現在多く処方されているかと思いますが、今後は個体差が少なく酸分泌抑制効果も高いタケキャブがスタンダードになるでしょう。
カテゴリーCのクラリスロマイシンですが、これに耐性のあるピロリ菌の場合、除菌が失敗する可能性があります。その場合、2回目の除菌(二次除菌)ではクラリスロマイシンをメトロニダゾールに変更します。
保険適用外にはなりますが、二次除菌も失敗した場合はメトロニダゾールをグレースビットに変更して三次除菌を行う場合もあります。
特別副作用がなければ7日間きちんと飲み切ります。飲み忘れにより除菌が失敗するだけでなく、中途半端に攻撃された事でピロリ菌の耐性が進行する可能性があります。
除菌薬の副作用
発疹、痒み等のアレルギー症状、便秘、軟便、下痢等の消化器系症状、食べ物味がいつもと異なる味覚異常、口内炎等ががみられる事があります。
基本的に症状が軽い場合は7日間きちんと服用します。ただしアレルギー症状や出血を伴う下痢、また症状が強い場合などは直ちに服用を中止して医療機関を受診するようにして下さい。
判断に迷った場合も自己判断ではなく、必ず主治医の指示を仰ぎましょう。
それではピロリ菌と除菌については以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。