今回は麻薬性鎮痛薬でフェンタニル製剤のアブストラル舌下錠、また同成分のイーフェンバッカル錠についてお話していきます。
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アブストラル、イーフェンとは?
それでは名前の由来からいきましょう。いずれも一般名はfentanyl:フェンタニルになります。
アブストラル
アブストラルは舌下投与し口腔粘膜から吸収されます。そこから”Absorb(吸収する)”と”Oral(口の)”を組み合わせてまずはAbstral:アブストラルと命名されています。
イーフェン
イーフェンは上奥歯の歯ぐきと頬の間に挟んで使用し、口腔粘膜から吸収される薬剤ですが、その際に炭酸ガスが発泡します。”effervescent(発泡性の)”と”fentanyl”の先頭を組み合わせてE-fen:イーフェンと命名されています。
以前はフェントステープやデュロテップパッチを使用している患者様のレスキューとして、モルヒネ製剤のオプソ内服液やアンペック坐剤、オキシコドン製剤のオキノーム散で対応していましたが、アブストラルとイーフェンが発売になったことでフェンタニル製剤をレスキューとして使用できるようになりました。
アブストラル、イーフェンの作用を簡単に説明すると、「オピオイド受容体を刺激する事で痛みの伝達を抑え、がんの痛みを抑える即効性の薬剤」となります。
アブストラル、イーフェンの作用機序
フェンタニルは脊髄後角のオピオイドμ受容体を刺激することで侵害刺激伝達が抑える作用を持ちます。侵害刺激とは「組織が傷害されるほどの強い刺激」と思って頂ければよろしいかと思います。
オピオイド受容体は脳、脊髄、末梢神経などに存在し、”μ(ミュー)”、”δ(デルタ)”、”κ(カッパ)”の3つのサブタイプ(種類)があることがわかっています。中でも主にμ受容体が強い鎮痛作用と関係しています。
フェンタニルが脊髄後角のオピオイドμ受容体に作用すると侵害刺激が脳に伝わるのを抑えることができます。また大脳皮質にも働きかけ、痛みの闘値を上昇させる、つまり”痛みを感じにくくする”作用も持っています。
オピオイド受容体の作用を以下にまとめます。μ受容体にはμ1受容体とμ2受容体があります。
μ2受容体:鎮痛、鎮咳、鎮静、便秘、依存、呼吸抑制など
δ受容体:鎮痛、呼吸抑制、便秘、尿閉、身体依存など
κ受容体:鎮痛、鎮静、呼吸抑制、縮瞳、利尿、身体違和感など
フェンタニルはμ受容体の中でもμ1受容体の親和性が高く、μ2への親和性が低いという特徴があります。そのためモルヒネよりも嘔気、嘔吐、便秘、眠気などの副作用が比較的少ないです。
またフェンタニルは肝臓で代謝されますが、代謝物に活性がないため腎機能が低下している患者様にも使いやすいですね。
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アブストラル、イーフェンの特徴と違い
それではそれぞれの薬剤について簡単に説明していきますが、いずれもレスキューで用います。
レスキューとは基本となるオピオイドの量では鎮痛効果が不十分な場合に、その不足分を補うために即効性のある薬剤を追加投与することを意味します。
表内の赤字の部分が異なる箇所になります。まずは剤形の違い。アブストラルは舌下錠、イーフェンはバッカル錠になります。
舌下錠は舌の下に挿入することで急速に溶かして口腔粘膜から吸収させる薬です。アブストラルを舌の下の奥に置くと速やかに溶解して吸収されます。
バッカル錠は頬と歯茎の間に挟み唾液で溶解させることで口腔粘膜から吸収させる薬です。イーフェンの場合は上奥歯の歯ぐきと頬の間に挟み込むように置きます。そのまま置いておくと自然に溶けて粘膜から吸収されるようになっています。
同じ部位への刺激を避けるため、薬はなるべく左右交互に置きます(前回左なら今回は右)。また置いてから30分経過しても薬が残っている場合は、水で飲み込んでも構いません。
アブストラル、イーフェン共に口腔粘膜から吸収される薬であり、嚥下困難な患者様に有用です。その性質上噛み砕いたり、舐めたりしないで下さい。
口の中が乾燥している時は、少量の水で口の中を湿らせた後に使用しても構いません。また吸湿性がありますので投与直前に開封するようにして下さい。
誤って飲み込んでしまった場合ですが、いずれも消化管から一部吸収されてしまいます(舌下、バッカル投与時の5~6割)。そのため原則経口投与した場合も1回投与したものとして下さい。ただ実際現場では30分後に追加投与されるケースもありますのでそこは主治医の指示に従って頂きたいと思います。
アブストラルの経口投与時のバイオアベイラビリティ約30%(表左下)はあくまで推定です。これはメーカーに確認しましたがデータがなく、”イーフェンに準じて30%程度ではないかと推測される”ということからそう記載しています。もしご存知の方がいらっしゃいましたら教えて頂けると嬉しいです。
アブストラル、イーフェン共に服用後10~15分程度で効果が発現し、1時間程度持続します。投与間隔は用量調節期を除きアブストラルは2時間以上、イーフェンは4時間以上となっていますので注意が必要です。
誤用防止の為、用量の異なる本剤を同時に処方しないことになっています。例えばアブストラル舌下錠を1回300μg投与する場合は”100μg錠を3錠”となります(100μg1錠+200μg1錠は×)。
またアブストラルからイーフェンへの切り替え(その逆も)の場合、アブストラルで1回800μg使用していても、イーフェンでは1回50μg又は100μgから開始となります。正直これはどうかと思いますね。早く換算のデータを出して頂きたいものです。
オピオイド間の力価換算の目安については下の表をご参照下さい。
アブストラル、イーフェンの副作用
主な副作用は傾眠、便秘、悪心、嘔吐です。μ1受容体の親和性が高いとは言え、他のオピオイドと同様の副作用がみられます。
吐き気は1~2週間、眠気は数日で耐性ができて落ち着くことが多いですが、便秘には耐性が生じません。そのため下剤についてはオピオイド服用中は飲み続ける必要があります。
眠気やめまいが現れることがありますので、服用中は自動車の運転、アルコールの摂取は控えましょう。
それではアブストラル、イーフェンについては以上とさせて頂きます。最後まで読んで頂きありがとうございました。